04:なぜかますます溺愛されていますの
「……はぁ!?」
はしたなくも私は、そんな声を上げてしまいましたの。
だってそうでしょう? お世辞にも似合うとは言えないどぎつい格好をした私を、私の前でニコニコしているこの脳筋殿下は、『可愛い』と評したんですもの。
その青く美しい糸目が節穴なのではないかと、本気で疑いそうになったくらい、的外れな言葉でしたの。
「なんだ、そんな変な声を上げて。俺の格好がどこか変だったか?」
「いいえ。格好ではなく……」
強気な態度で接し、怯ませてやろうと思っていましたのに、逆にこちらが怯んでしまいましたの。
一体どう反応して良いものやらわかりません。しかし、『アクヤクレイジョウ』を果たさねばならないことを思い出した私は、慌てて口を開きましたの。
「嘘をおっしゃるのはおやめくださいませ、ナック殿下。私の姿を、本気で美しいなどと思っていらっしゃいますの?」
「そうだが?」
「――っ! そ、そのあなたの感性の狂いっぷりに、私、頭がおかしくなりそうですの!」
悪口になっているかどうかわからない悪口を叫ぶと、私はブルブルと震えました。
ああ、今のは失敗でした。あれでは私が、この『アクヤクレイジョウ』スタイルを似合わないと知りつつやっているようではありませんの。
『アクヤクレイジョウ』に必要なのは高飛車さと傲慢さ。決して弱気な発言をしてはならないですのに。
「俺、何か悪いこと言ったか!? 許してくれ、愛してるんだっ」
「や、やめてくださいですの! わ、私の高貴なる肌に触れるなど!」
必死の形相で抱き着いて来ようとするナック殿下を振り払い、私は思い切り怒鳴りましたの。
ちなみに『アクヤクレイジョウ』的発言のお手本は、公爵令嬢セルロッティ様を真似ておりますの。普段からこんな無礼極まりない言動をしているとは、セルロッティ様もなかなかやりますの。
ともかく、
「今日は気分が優れませんの。か、帰っていただけますの!?」
羞恥心に思わず赤くなる顔を扇子で隠しながら、私はナック殿下へ拒絶の言葉を投げたんですの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――これで、私は嫌われたでしょうか。
せっかくのお茶会で私はあんな風に殿下を罵ったんですもの。慰謝料請求の上、絶縁されて当然ですの。
そう。私は、ナック殿下の溺愛を、甘く見ていたんですの――。
「な、何ですのこれは!?」
「気分が優れないお前のために、皇太子殿下が直々に届けてくださったものだ。……皇太子殿下は想像していた以上にとんでもない方らしいな」
翌日、ジュラー侯爵邸に届けられたもの……私の部屋が埋まってしまうのではないかと思えるほどの花束を前に、私は絶句し、父は呆れたような笑みを浮かべておりましたの。
これが全てナック殿下が、しかもわざわざこの屋敷まで直接持って来ただなんて。あり得ないというか、狂気の沙汰ですの。
そしてその花の茎の一つ一つにリボンが結ばれており、こんなことが書かれておりましたのよ。
『気を悪くしたならすまない』
『元気になってくれ』
『お前の笑顔が見たい』
『俺は縦ロールも好きだしいつもの髪型も好きだ』
『また今度、会いたい』
『愛してる』
これは新種の嫌がらせですの? 私はわけがわからず、もはや何も言葉が浮かびませんでしたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして数日後――。
ムニムニ、ムニムニ、ムニムニ。
弾力のある筋肉の感触を全身で感じながら、私は呻いておりましたの。
仮病にも限界があり、数日ぶりの再会を果たしてしまった私とナック殿下。
そして出会った途端、私は肉団子殿下のムキムキな腕に抱き止められ、息苦しいくらいに抱きしめられてしまったというわけですの。
――誰か助けてほしいですの!
「ああ、愛しのナタリア。もう離したくない……っ!」
恐ろしいことを言っているなんとか脳筋を説得し、解放してもらうまでにはしばらくの時間がかかりました。
まったく、『アクヤクレイジョウ』を演じたにも関わらず溺愛され続けているとは一体全体どういうことですの!?
面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。
ご意見ご感想、お待ちしております!