13:脳筋皇太子に助けられましたの
それは、私がヒューゴ様に襲われる寸前のこと。
先ほどマブ男爵令嬢が出て行ったばかりの扉の向こうから、彼女の甲高い悲鳴が上がったんですの。
「きゃあっ!? 何よこいつら! ちょっと、離しなさいよっ――!?」
それまでニヤニヤした笑みを浮かべていたヒューゴ様は一瞬手を止め、何事かと扉の方を振り返りました。
私はもしや、ととある可能性に思い至り、震えてしまいました。
――あの脳筋殿下、まさか。
そしてその時ちょうど、再びドアが開かれ――否、開ける手間も面倒とばかりに押し倒され、向こう側から飛び込んで来たのは、
「ナタリア! 助けに来たぞ!」
鍛え上げられた筋肉を見せつける肉団子……もとい、ナック殿下でしたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんだお前は?」
不審げな目で殿下を睨むヒューゴ様。しかし昔のガチムチ具合はどこへやら、今はすっかりガリガリになってしまった彼がナック殿下に敵うはずもありませんの。
ナック殿下が前に出て、拳を振り上げながらおっしゃいました。
「俺のナタリアを放してもらおうか!」
「ヒューゴ様、この方が現在の私の婚約者であるナック・リペット皇太子殿下ですの。逆らわない方がいいと思いますの。……ただし私、殿下のものになった覚えはございませんが」
「ぐぬぅっ!」
ヒューゴ様を牽制しつつ、『アクヤクレイジョウ』らしい口の悪さも忘れず演出しておきますの。我ながらこんな事態の中なかなかにずぶといと思いますの。
どちらかといえばナック殿下の方がダメージを受けていらっしゃる気がしますがそれは気にしないでおくとして……問題はここでヒューゴ様がどんな手に出るか、ですの。
でも私はもう、先ほどまでの恐怖心などどこにもありませんでした。
だってナック殿下が助けに来てくださった。なんだかその事実がたまらなく……悔しいことですが心強かったんですのよ。
「お前が噂の皇太子か。でも悪かったなぁ。この女はオレにメロメロでお前なんか眼中にないんだってよ。実際エリーズはお前と別れたいっていうこの女の手駒だったらしいぜ?」
動揺したのは一瞬だけらしく、ヒューゴ様は私を顎で示しながら余裕の態度を崩しません。
彼の言葉の半分ほどが事実なのでどう反論していいかわからず、私が口を開けずにいると、ナック殿下が無言でズンズンとこちらへ近づいて来ましたの。
そして、
「馬鹿を言うな」
私のすぐ傍に立っていたヒューゴ様へ平手打ちを食らわせ、思い切り吹っ飛ばしたんですの。
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