10:なぜ私が攫われてしまいましたの?
……なんだかいつもと違いますの。
目覚めた途端に私が感じたのは、横たわっているベッドの感触に対するなんとも言い難い違和感でした。
重い瞼を押し上げ、目を開けるとそこには一面の知らない天井が広がっていましたの。
首を捻りながら身を起こそうとし……それが叶わず私は背中を硬いベッドに打ち付け、呻き声を上げます。
見慣れない場所、縛られた両腕、自由にならない体。
これは一体どういう状況ですの……?
私は戸惑いながら、まだ朦朧としている意識の中、ゆっくりと今までの記憶をゆすり起こしましたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ナック殿下とマブ男爵令嬢を引き合わせたはいいものの、なかなか泥棒猫作戦には苦戦しておりましたの。
一応、マブ男爵令嬢が何度か色仕掛けをなさったそうですがナック殿下がまるで通じなかったのです。セルロッティ様よりお聞きしていた浮気性の男とナック殿下はなんだかまるでかけ離れているように思えてなりませんでしたの。
「でもこのままでは困りますの。なんとかなりませんの、マブ男爵令嬢?」
「リアちゃんはうるさいですねぇ。…………落とせるなら、とっくに落としてるってのに」
そして難航するまま、数ヶ月が過ぎて。
私の方も『アクヤクレイジョウ』を演じるのに慣れて来ましたけれど、それでも一向にナック殿下が私を離してくれる様子はございませんでした。それどころかますます溺愛されてしまい、私は、なんとも言葉にし難い感情を抱き始めていましたの。
――もう、諦めるしかないんですの?
そう思わざるを得ない失敗っぷりに憤っていた時のことでしたの。
「どうしてもリアちゃんに協力してほしい案件ができたんですけどぉ、紹介したい人もいるのでどうかうちの屋敷へ来てくださいませんかぁ?」
ジュラー侯爵邸へ毎日のように入り浸るようになっていたマブ男爵令嬢が、ふと、そんなことを言い出したのです。
私はもちろん不審に思いましたの。会わせたい人物が誰かと尋ねてもすぐに誤魔化しますし。
しかし背に腹は変えられないというもの。その人物が私の手助けをしてくださると聞いてしまえば、行かないという選択肢はありませんの。
友人のご令嬢たちにこのことを話そうかと思いましたがマブ男爵令嬢に「計画が狂いますからこのことは内密にしてくださいねぇ」と口止めされてしまい、仕方なく、誰にも秘密でマブ男爵邸へ向かうことになりましたの。
約束の日、馬車でマブ男爵邸へ到着し、マブ男爵令嬢に出迎えられたはずなのですが――。
それからの記憶が全くございませんの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あーあ、起きたの? おはよう。思ってたより随分と早いお目覚めね」
回想を終え、相変わらず困惑していると、どこからかそんな声が聞こえて来たので私はとても驚きました。
慌てて声のした方に首を向ければ、部屋の戸口――今更ですがここはどこかの部屋の中ですのね――に立つ、ピンクブロンドの髪の少女……マブ男爵令嬢が立っていましたの。
「おはようございます。あなた、マブ男爵令嬢ですの?」
「他の誰に見えるの? あぁ、この口調が変って思ってるわけね。こっちがアタシの素だから気にしないで。いつもはぶりっ子してただけ」
「ぶりっ子……。確かにおかしな喋り方だと思っておりましたが、そういうことでしたの。納得ですの。ところで現在の状況を説明していただけますでしょうか? どうやら寝起きで混乱しているらしく、うまく理解できておりませんの」
私が尋ねると、マブ男爵令嬢がこちらを見下すようにクスリと笑い――それから、とんでもないことをおっしゃいましたの。
「あんた、そんなこともわかんないの? ナタリア・ジュラー侯爵令嬢、あんたはアタシたちに誘拐・監禁されたのよ。ここがどこなのかは教えてあげないけどね」
私が……攫われた?
確かに改めて考えてみればその言葉は正しいような気がするのですが、マブ男爵令嬢が一体どうしてそんなことを?と、私は思わず首を捻ったんですの。
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