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古魔女のオランピア  作者: 兎角Arle
古魔女のオランピア2【此方にて】
7/10

暗幕にて

 国中が焼土と化し、尚も爆ぜる炎の音が世を包む。空にも茜が差しはじめれば、視界一面が真っ赤に染まる。

 先ほどまで響いていたうるさい悲鳴は全て燃え尽き、焼け焦げた黒い痕だけが残されると、徐々に天球も暗く落ち、辺りが夜に包まれていった。


 暗転。


 ただ独り茫然と立ち尽くしていた赤い目の女は、いつまでも灯されぬ星あかりに疑問を覚え、ふと天を仰ぐ。

 薄くスポットライトの照明が降り注ぐ台上が目に映り、赤いビロードの幕が焼き付くように印象深い。

 気がつけば彼女は、劇場の客席の腰をかけていた。


「いらっしゃい。可愛い人の子」


 唐突に眼前を黒い影が覆う。長い黒髪に、左右不揃いの色をした瞳には花のような光が差していて、印象的。温かみのある、少女のような空気を纏った不可思議な女性だ。

 黒い女性はふわりと体を浮かせ、宙を泳ぐように台上へ向かい、薄いスポットライトの下へと降り立った。

 自らの赤い目をぱちぱちと瞬かせ、ゴシゴシと何度も擦ってみて、その場から立ちあがろうとしたものの、驚きで腰が抜けたのかそれが叶わない。


「いや、まさか。しかし、ううん、あり得るといえば……とはいえなんだ、はあ、ふん、ええと。そういうことか?」

「はあ、うーんと、どういうことでしょうか?」

「劇場という概念を説いた魔法使いが昔居た、なんでもそこには愛らしい女神がいるとも。さては、つまり、お前がそう?」

「嗚呼、ふふふ、よくご存知ですね。私はこの劇場の黒い女神。ここはどんな夢でもみれる場所。そしてあなたが望むなら、どんな夢でも得られる場所」


 女神はくるりとその場で回転し屈託なく彼女へ笑いかける。純粋なる概念は、なんの企みも含みもなく、ただ無垢に言葉を続けた。


「まずはあなたの望みを叶えましょう。もし劇がお気に召したなら、そのままその脚本に、あなたも身を委ねるだけで良いのです。ーーさあ、間もなくあなたの劇が始まります。どうぞごゆっくり、お楽しみくださいね」


 ブザーが鳴り響き、再び暗転。

 彼女の意識は夢に落ちる。


 そこでは、彼女が味わった現実とは異なり、友人の少年を助けることができたのだ。

 彼女が王城へ訪問し、籠に入れられ運ばれてきたのは、息の無い人の形をした塊などではなく、辛うじて息のある、ボロボロの少年。彼女は彼を治して、連れ帰って、平穏に暮らす。確かに望み、描いて、夢見ていた生活が繰り広げられる。

 美しい青年に成長した彼を見て、彼女は誓約を捨てる。魔法は使えなくなったが、二人は親子として、ずっと仲良く暮らすのだった。


 誰がどう見ても、めでたし。彼女は無意識に涙をこぼし、雫の温度に気づいて前屈みになって顔を手で覆った。

 舞台上から視線を外したら緩やかに劇が終わり、劇場の照明が灯される。


「不思議ですね。あなたは幸せそうなのに、それでも、夢を拒むのだなんて」

「いい夢を見させてもらったよ。ああ、どうも。でもね、きっと、それじゃダメなのさ。私は確かに、あいつを救えなかった。だが、その事実から、目を背けたい訳ではなかった訳だ。せっかくいい劇だったのに、すまないね」

「いいえ、可愛い人の子。劇を通して、あなたが本当の望みに気付いたのなら、何も無意味ではありません。どうします? 新しいあなたの望む夢を、ご覧になりますか?」

「……いいや、やめておく。お前の劇なら、私の望みを全て現にしてやれるんだろうけど、私の中で、あいつの死の事実をなかったことにしちゃいけないからね」

「そうですか。愛しい人の子、ならばどうか、あなたの生の行く末が、幸福でありますように」


 にこりと笑って、女神は愛らしい所作でカーテシーをする。彼女も自然と、笑みを返した。

 立ち上がり背を向ける。


 明転。


 眩い光が視界に飛び込んできて、それが朝の日差しだと気づいたオランピアは、独り、荒野に立ち尽くしていたことを思い出した。

三部作の完結する4月30日に向けて少しずつオランピア2を更新していきます。

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