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古魔女のオランピア  作者: 兎角Arle
古魔女のオランピア1【彼方より】
6/10

5

 (ふる)魔女(まじょ)オランピアの死後。

 ウィズは人々の歩みに寄り添い、その強大な魔法の力で、大陸の復興に貢献した。

 痛ましい死者数であったが、幸いにも、オランピアの最後の魔法のお陰で、怪我人は全て回復していて、焼けた建物も、大地の草木も、何事もなかったかのように綺麗である。元凶である研究所と研究資料、流通していた魔道具を除いてであるが。

 ウィズは各地を巡り、人々のために尽力し、時には知恵を、時には魔法を貸して過ごしていた。魔力持ちの多くは、そんな彼に憧れて、魔法使いを志すきっかけにもなっていた。


 黄金の魔力に、金の髪、綺麗な顔立ちの少年であったウィズは、黄金の魔法使いと讃えられ、いつの頃からか、崇められる存在となる。

 その頃には、いつまでも幼い口調でいるのも少し気恥ずかしくなって、見た目が幼いならばせめて、言動くらいは威厳を持たせたい。記憶の中から浮かんだ言葉は、無意識の内に、あの大魔女を真似るような口調だった。とはいえ、この頃のウィズは、過去を思い返す余裕のないほどに多忙だったので、彼女のことなどすっかり忘れ果てていた。


 長い時の流れの中、人と共に生きながら、ウィズはずっと孤独だった。それは誓約を守るため、自ら望んだことだったし、良くも悪くも、ウィズは独りでの時間を然して苦痛に思わない性格だったから。無論、全く寂しくないというわけではなかったけれど。

 彼はそうして、長い時を過ごした。

 長い。

 永い。


 いつの頃からか、求められる煩わしさから、人里を離れるようになった。

 いつの頃からか、変わりなく愚かな民衆に辟易(へきえき)し、隠れ暮らすようになった。

 やっと、穏やかな時間を手に入れると、のびのびと息ができるような気がして、吐いた一息で驚くほどに体が軽くなった。


 すると、自らの身も心もゆとりができたからか、遠い昔に思いを馳せた。もうすっかり、薄くぼやけて曖昧な記憶。

 嘗ての自分がどんな稚児だったか、母の存在、父の顔、友人は居たのだったか、家は、里は、どんな景色だったか、何一つ判然としない。

 それは並の感覚ではとても恐ろしいことだろうと思ったが、今のウィズは怖いとも悲しいとも思わなかった。だからどうした。その程度にまで、ウィズの心は捻れてしまっていた。

 それでも、大事な事実は覚えているもの。赤い石のブローチは誰かの形見で、金具が壊れたのでいつだったか加工をし直してループタイにした。今でも身につけている。金の耳飾りは民からの感謝の印として献上されたもので、とても気に入っている。棚の小瓶に入れて飾っている聖女の涙、あれもとても美しい、ウィズの最近のとっておき。

 今にも鼻歌を始めそうな上機嫌で、ウィズが瞼を閉じて空間に浸っていると、いつか誰かの言葉を思い出す。


「なんだっけ」


 赤い目の女の言葉。

 あれは確か、師匠だったような、友人だったような、仇敵だったような、何にしても、今はもういないから、覚えている意味もない。でも、そう。彼女がウィズに、誓約の魔法を教えたことははっきりと覚えている。

 少しの間思い出してみて、名残惜しく思う。


「あの頃の私は実に愚かだった。嗚呼、そうさ、何一つ分かってなかったんだ。ううん、今でもきみが生きてたら、もっと愉快に過ごせたのかなあ」


 後悔しても詮無いこと。

 ただし、きっと、今のウィズの唯一の理解者たり得るのは、彼の記憶上、彼女だけに違いない。だからこそ、惜しくて惜しくてたまらない。

 ウィズはそっと瞼を開き、外界の刺激を受け入れることで現在へと意識を向けた。


「もう覚えていないから、名前も呼んでやれないけれど」


 立ち上がり、鏡を見る。

 一人での生活も慣れたもので、もう、自分の手で髪を編むことができた。何故、この髪型にしようと思ったのか、ウィズ自身もよくわからない。ただ、なんとなく、誰かに編んでもらった感触を思い出しながら、手が自然と動いていた。


「きみもこんな気持ちだったのかもしれないね」


 鏡に映る自らへ、ウィズは小さく笑いかけた。


(了)

此方の実在を紡ぐ「古魔女のオランピア2」は来春、5月以降にこちらの作品ページでも無料公開予定です。

pixivFANBOXでは100円から一足お先に読むことができます。(完結済み)

https://kekkan-otobako.fanbox.cc/


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