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古魔女のオランピア  作者: 兎角Arle
古魔女のオランピア1【彼方より】
1/10

 遠い昔。

 ある農村に、ウィズという名の平凡な少年が、父と二人で粉挽小屋に暮らしていた。

 ウィズは僅かばかり魔力があり、大それたことはできなかったが、その力で仕事の手伝いをよくしていた。

 そうして一日の仕事を早く終わらせたら、空の色を眺めたり、森の野花を観察したり、自然に目を向けてぼんやりと過ごすのが、彼にとって何気ない幸福だった。


 しかし、当時は魔法への理解は乏しく、ウィズは村人から不気味がられ、友達は一人もおらず、そうした何気ない時間を、いつも独りぼっちで過ごすのだ。

 年相応に、寂しさを秘めながら、とはいえこの静寂を砕かれないことにも安堵する。

 傷つかない訳ではないが、幸にも、一人でいることが苦ではなかった。


 ある時、山の麓を散策していると、偶然、魔女の庵を見つける。

 そこには当時を生きるものならば誰もが知っていた、世にも恐ろしい大魔女オランピアが住んでいて、強い魔力を宿した真っ赤な目に射抜かれたウィズは、腰を抜かしてしまったものである。

 オランピアはウィズの無様を大いに笑ったが、命を取ろうとはしなかった。


 気まぐれなのか、退屈凌ぎなのか、オランピアは快くウィズの訪れを歓迎し、その厚意を受けたウィズは、この魔女が世俗で語られるような、極悪非道な人物ではないように思ったものだ。

 なんといっても、家族以外でウィズを遠ざけなかったのは、オランピアが初めてだったというのもあって、ウィズはすぐに、彼女を好きになった。

 それは母親へ向けた親愛によく似ていた。ウィズは幼い頃に流行病で母を亡くしていたため、無意識に、母を求めていたのかもしれなかった。


「よくもまあ懲りずに此処にくるもんだねえ、ウィズ」

「まあね。オランピアと過ごすのが今一番楽しいし。それにほら、僕が来ないと、オランピアは一人で寂しいだろうから」

「ははぁ、生意気言ってんじゃないよ。寂しいのはお前だろう」


 ニヤリと笑ったオランピアが、魔法で作り出した水をウィズの顔に掛けた。

 ウィズは驚き転けるが、すぐ犬のように首を振り飛沫を飛ばしたら、透き通った薄い色の瞳を、宝石のように輝かせてオランピアを見上げる。


「今の、どうやるの?」

「空気中の水分を集めただけさ。練習すれば、お前でもできる初歩的な魔法だよ」

「本当?」

「こんなことに嘘ついてどうする」

「もっと大規模にできれば、村じゅうの畑の水やりが楽になるかも」

「いいアイデアだけど、そういう用途ならもう一声欲しいねえ」

「もう一声……? うーん、そうだね……水の塊を落としたら、土や種が流されるかもしれない。分散させて、じょうろみたいに、高いところから風で広げればいいのかな」

「簡潔な言い方を教えてやろうか。お前のイメージするそれは、大抵“雨”って言うんだよ」

「あ……」


 オランピアが小馬鹿にしたようにくつくつと笑うので、ウィズは恥ずかしさで唇を噛んだ。

 ひとしきり悦に浸った彼女は、ウィズをチラリとみて「血が出るからそんなに強く噛むんじゃないよ」と指摘した。だから今度は、口を尖らせて不満そうにウィズは目を逸らす。


「まあ、ほら、今の。空の高いところで風を混ぜてできたら、雨がつくれるんじゃないかなって」

「ウィズは賢いね。名前の通りだ。いい名をもらってよかったね」

「まるで名前のおかげで賢いみたいに言うんだね」

「そうさ、言葉には力があるからね。いいかウィズ、言葉というのはこの世で最も強い力なのさ」

「どうして?」

「例えば此処に、今にも息絶えそうな人間が一人いたとする。私はそいつを助ける力を持っているが、助けたいとは思わないから助けてやらない。助かりたいそいつは、十中八九、言葉を尽くして懇願する。そしたらさあ、どうだい? ひょっとすると私の気が変わって、助けたくなってくるかもしれない。つまり、そういうことさ」

「他者の心を動かせるのが、言葉ってこと?」

「そ。そしてそれは誰もが平等に行使できる……だからこそだね、強い言葉の前では、如何に強い魔力を持っていても、無意味なんだよ」


 数刻、ウィズは考えて、言おうか言うまいか悩んでから、言葉を尽くすことに決めた。


「強い言葉によって世間に流布して、人々の心に深く根付いた、恐ろしい大魔女オランピアの話は、どれだけ強い魔法を持ってしても覆すことはできないって意味?」

「……嫌なところを突くクソガキだね。まあ、そうさ。むしろ、強い魔力はその手の話には火に油さ。話の真実味を増して、望もうとも望まざろうとも、私という存在を言葉の通りの悪党にしていくのさ」

「それだけ言葉の力が強いなら、言葉を持って、覆せばいいじゃない。少なくとも、僕にとってオランピアは善い魔女だよ」


 オランピアは怪訝そうにウィズを見て力なく失笑をこぼす。


「本当、お前は生意気なやつだ」

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