1-55 そして白に帰結する
ここはダンジョンの一階層、ドッグランの中央にて、倒れたダンを大勢の魔獣が取り囲んでいた。
「俺はカレンを守りたかったんだ」
「……………………ッッッ!!!??」
あらやだ告白!? 顔を真っ赤にしたカレンが慌てふためいている。そんなカレンを見てダンはキョトンとしている。おいおい、鈍感系かぁ?
その後ダンは、魔獣たちにしたことを謝罪し、ヒト形態のフィーニャに寝かしつけられた。本来だったら僕がダンを説得する予定だったが。フィーニャの申し出で交代することになった。
あれだけ意気込んでおいて恥ずかしいが、結果的にフィーニャに任せて良かった。ずっと険しかったダンが、今やこんなにも穏やかな表情を浮かべて眠っているんだもの。
『やったぜ! 俺たちが抑え込んだやったぞ!』
『少しひやひやしたけど、大人しくなって良かった……』
『ストラ、結構度胸あるじゃん。やるぅ』
『せっかく急いでファッションショーの準備したのに、スルーは許せないからね!』
『なかなか座り心地がいいですの』
『すぴー……すぴー……わふっ、わふふっ……すぴー』
ダンが再び暴れ出してしまわないように、魔獣たちが彼を抑える役を買って出てくれた。大の男を猫たちが抑え込めるか不安だったが、意外と彼らの力が強いのかなんとかなったな。
あっ、全員で身体の上に乗ってしまった。レフなんかダンの顔の上に乗っちゃってるぞ。寝苦しくないだろうか……。
「マシロ、きっともう彼は大丈夫よ」
安心した顔つきでフィーニャが駆け寄ってきた。フィーニャがいてくれて本当に良かった。僕だけだったら収拾をつけられなかっただろうし、ダンをさらに怒らせてしまったかも……。
そもそも僕のせいで彼を二階層まで入れてしまったし、冒険者たちがここに来てしまったのも元を辿れば僕がグリーン・ピースを開いてしまったせいなんじゃ……。
「ここに来た時に気付いてあげるべきだったわ。彼には「癒し」が必要だったってことを」
フィーニャはダンの方を眺めながら呟いた。その横顔からは自身の力を誇らしく感じているのが伝わってくる。彼女と比べて僕は一体何をしていたのだろう……?
「あの……壊した扉は弁償させて頂きます。それに、ダンが起きたら出て行きますので、えっと……ご迷惑をお掛けして済みませんでした!」
気が付くと隣でカレンが深々と頭を下げていた。本当に済まなそうに謝られるとこっちが困ってしまうな。大した被害がなかったから、そこまで謝らなくていいんだけど……あれ? 何か忘れているような……?
「謝る気持ちがあるなら、これは置いていった方がいいんじゃないか?」
「ひゃっ!?」
いつの間にかカレンの背後にはヴァレニアが立っていた。というより、ほぼ密着してカレンの肩に顎を乗せている。そしてヴァレニアは驚いているカレンの隙を突いて彼女のポケットを裏返すと、二階層に隠していた財宝がボロボロと落ちてきた。大した被害出てたわ。
「い、いやっ、これは! 折れた杖の修繕費にしようと思っててぇ……えっと、その……ごめんなさぁい! 返しますぅ!!」
「マシロ、ちょっとぐらいいいんじゃない? だってまだ――」
「いや、返してもらいましょう。これらは魔獣たちの所有物ですから」
金品関係はきちんとしておいた方がいい。少しだけならと心許すとそこに付け込まれて、さらに大きな要求をされるかもしれない。それに僕の個人的な制約だが、この財宝は魔獣たちのためだけに使うと決めているのだ。
「杖なら私がもっといい職人を教えてやるぞ? 私からの紹介だと言えば、安くしてくれるだろうし」
「ええええっ!? 本当ですか!? ヴァレニアさんのご用達の杖職人……うひゃひゃ」
「ちゃんと反省したならな。結構気難しいから、あの杖職人のおじちゃん」
「お前さんも反省しとるのか?」
ヴァレニアの父であるテオドールが訝しげな目で彼女を見つめていた。そんなヴァレニアは堂々と胸を張って答えた
「正直悪いと思っている! だが、ここがダンジョンだと知らされていたからな。闘いになるのもしょうがないだろう」
「ただ戦いたかっただけだろうに。全く誰に似たんだか……」
お前だお前。がっくりと肩を落としているテオドールの背中を、ヴァレニアが笑いながら叩いている。仲がいいんだなあ。
しかし「ここがダンジョンだと知らされていた」とは、どういうことだ? 疑問に思っていたが、ダンは初見でここを洞窟ではなく、ダンジョンだと見破っていた。グリーン・ピースがダンジョンを利用した施設だと知っている誰かが、冒険者ギルドに情報を漏らしたのか……?
悩んでいてもしょうがない。直接、当人に訊いてみるとするか。
「あの……カレンさん。貴方たちがここを訪れたのは冒険者ギルドの依頼ですよね? 依頼主って誰ですか? そいつはどうやってここを知ったのですか?」
訊いてから気付いたが、こういうのは守秘義務とかで教えてくれないんじゃないか? なんだかんだ僕は冷静になれていないらしい。慎重に事を進めなければならないと考えていたところ、予想外の答えが返ってきた。
「じ、実はですね……今回は冒険者ギルドを介してないんです」
「……? 個人的な依頼という訳ですか?」
「個人的と言えば、ダン個人というか……信じられないと思うんですけど……」
なんだ? カレンは変にしどろもどろになり、何か言い淀んでいる。やがてカレンは意を決したように、言葉を続けた。
「ダンは夢を見たそうなんです。……そう、多分貴方のような白い髪で、黒いドレスの女性が教えてくれたらしいです。プロパ村に未開のダンジョンがあるって」
夢の中の黒いドレスの白髪の女性。そして、ここをダンジョンだと知っている。思い至るのは奴しかいなかった
僕は息を吐きながら、静かに呟いた。
「どういうつもりだ、エクレノイア」
一区切りつきましたので明日はここまでの挿絵集を19時に更新します。
明後日の17時の更新から第一章の最終節が始まります。




