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僕だけが騙されない超癒しダンジョン  作者: 東條水久
第一章 癒しが必要なあなたに
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1-52 騒乱のダンジョン・裏 交差する殺意

 


『《迷妄する流砂(サンド・ホール)》!!』




 ストラの魔法の宣言と共に、地面ごと巨大なスライムが沈んだ。その周囲は細かい砂に変化し、中心の巨大なスライムに向かって小さなスライムたちがころころと転がっていった。まるで一度落ちたら登って来られなくなる蟻地獄のようだった。

 よく見ると坂の上を転がるスライムがきめ細かい砂に水分を取られているのか、段々と小さくなっている。そして自身の身体を保とうと次々と別のスライムと合体している。最終的に蟻地獄の中心の巨大なスライムに自ら飛び込んでいった。


 スライムを一か所に集めれば対処しやすくなるんじゃないかと予想してたが、合体を誘発させるなんて……ストラはそこまで計算していたのか? 天才すぎないうちの子?


 ほとんどのスライムが一つに合体し、蟻地獄から自力で出られそうなくらい大きくなった。だが、出す訳にはいかない。仕上げは勿論――


「フィーニャさん!」


「任せて!」


 フィーニャは下手したら天井に届くほど成長した巨大なそのスライムに頭から飛び込んだ。水魔法の修練の過程で水に耐性ができてきたとは聞いていたけど、あれほど苦手だった水に自分から突っ込んでいくとは……なんて頑張り屋さんなんだ!




「《退けるは我が波紋(アクア・バースト)》!!!」




 フィーニャの勇敢さに感激していると、巨大なスライムはフィーニャの水魔法によって内側から爆散した。捕らわれていたダンが解放されたことが確認できた。

 これで一件落着だな。飛び散った飛沫がこっちまで飛んできて抱えていたドドドごとずぶ濡れになってしまったが。


『ぷるるるるるるっ!? わふっ!? なになに? どうしたの?』


「ドドド、皆が頑張ってくれたんだよ」


『わふ?』


 ダンが地面に突っ伏すように息を整えていた。どうやらスライムを体内に入れないようにしていたようだ。流石冒険者、各魔物の対処法なんかを学んでいるんだろう。

 だが、スライムに丸呑みされた君を助けたのは魔獣たちだ。これで恩を感じてダンジョンから撤退してくれたらいいんだけど。


『よかった……無事みたいだね』


「おい! 下がっていろ!」


「きゃっ」


 ダンは蟻地獄の淵から様子を伺っていたストラに剣を向けていた。おいおいおいおい! あの子はお前をスライムから助けた一員なんだけどぉ!?

 僕はダンに憤りを感じたが、それは一瞬で恐怖心に塗り替えられた。ダンたちがいる場所よりもさらに奥、テオドールたちが戦っている所から強烈な殺意の波動が伝わってきたからだ。



『ヒト如きが…………殺してやる』



 はちゃめちゃにブチ切れているオズヴァルフの姿がそこにあった。


 助けたストラに敵意を向けているせいか、ストラに剣を向けた時フィーニャを押しのけたせいなのか、はたまたその両方が理由なのかは分からないが、白銀の狼は顔面の皺という皺を眉間に寄せ集め、唇どこ行った?と、言いたいぐらい歯茎をむき出しにするほどの憤怒の表情を浮かべていた。


「おいフーロウ! 何をよそ見している!」


『《永久に(ゲイル・)啼く(オブ・)銀狼の風(オズヴァルフ)》』


「なっ!? 風の分身……!?」


 オズヴァルフは炎の剣を振るうヴァレニアに見向きもせずに、自身と同じ姿をした風で形成された狼を召喚した。そしてオズヴァルフは一歩一歩殺意を確かめるようにダンへと向かって行った。


「オズヴァルフ殿! 何を考えておる……ぬぅう!」


 制するテオドールをも風で吹き飛ばし、オズヴァルフは加速する。距離がどれだけ離れていようと、剣がストラに届く前に一撃で確実にダンは粉微塵になってしまうだろう。


 ヤバいヤバいヤバい!! オズヴァルフの気持ちは分かるが、人殺しなんかが行われたら今度こそこのダンジョンは終わる。きっと冒険者組合とかが見過ごさないだろう。


『ましろ?』


 僕の焦りが伝わったのか、腕の中のドドドがきょとんとした様子で僕を伺っている。こ、こうなったら破れかぶれだ!


「ドドド、お願いだ! あの男をもう一度吹っ飛ばしてくれ! オズヴァルフよりも速く!!」


『お師匠さまよりも速く……? わふっ、わふわふわふ、わっふぅうううーーーーーーーーい!!』


 ドドドは僕の頼みを聞くや否や、僕の腕から飛び出した。そして一瞬で加速し、ダン目掛けて駆けて行った。加速した瞬間の風圧で軽く吹き飛ばされつつも、僕は彼から目を離せなかった。

 風をドリルのように吹き回しながら突き進むドドドは確実に今まで一番速かった。


「でりゃぁぁああああああああ!!!」


 ダンはストラに剣を振り下ろしていた。だがその剣が届く前にオズヴァルフの爪が彼の首を捉えていた。



「ぐぼごぉばぁぁあああああああッッッ!!!!!????」



『なにぃ!?』


 しかしオズヴァルフの爪は空を切ることになる。彼の爪がダンの首を掻っ切る寸前にドドドがダンを天高く吹き飛ばしたのだ。


『わふわっふぅうーーーーーー!!!』


 ドドドはその勢いのままどこかに走って行ってしまったが、これでダンは助かったはずだ。……いや、これがとどめになってないよな?

 空中でぐったりしながら落下しているダン。生きてる? 意識を失っている? どっちかだとしてもこのまま落下したらただじゃ済まない。しかも怒りが収まらないオズヴァルフが跳び出して空中のダンを仕留めようとしている!?


「ダン! ダン!! 嫌ぁぁああああああ!!」


 カレンの悲痛な叫びが響く。オズヴァルフの口が大きく開き、ダンの胴体がその口に重なると同時に、ガキンッと固い物がぶつかった音が鳴った。



 人間の鮮血が飛び散り、内臓が宙を舞う、というグロテスクな光景を想像したが……




『ほほぉ~う』



 ホゥベルトとその子分たちがダンの服を掴み、オズヴァルフの咬みつきを回避していた。



挿絵(By みてみん)


この続きは本日の21時更新!

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