1-50 騒乱のダンジョン・裏 静観のマシロ
グリーン・ピースのフクロウとの触れ合いの場にて、ホゥベルトのフン爆撃が失敗に終わった頃、いつの間にか冒険者のダンが消えていた。おそらく隙を突かれて、二階層に続く通路に進まれてしまったのだろう。
二階層には修行中のストラと指導役のテオドール、そして付き添いのオズヴァルフがいる。鉢合わせして衝突でもしたら大変だ。急いで後を追いかけなくては……。
『ほおぉ~ん……吾輩はもう駄目だぁ……』
『兄者ぁ! しっかりしてくだせぇ!』
『元気出してください!』
「あのー……、フクロウが地べたでぐったりしているんですけど、怪我でもしちゃったんですか?」
「むっ!? 私のせいか?」
ホゥベルトが意気消沈しているのをカレンとヴァレニアは心配しているが、ただ自分のフンを消し飛ばされたことにショックを受けているだけだぞ。まあフォローはするつもりだが。
「大丈夫ですよー。ほらホゥベルト、元気出してー」
『同士よ……。我が尊厳は打ち砕かれた……そっとしておいてくれ』
同類扱いするのは止めてくれ。そんな尊厳砕かれたままでいてくれと思うが、放っておくのも後味が悪いので、後ろの二人に聞かれないように小声で励ました。
「後で僕の頭の上になら好きなだけうんちしていいから。正直不本意だけど」
『施しなど受けとうない……自分で勝ち取ってこそ意味があるのだ!』
意味など見出すな、そんな性癖。
『だが、その心意気は良し! 其方に敬意を示そう! ホゥベルトの名に誓い、其方の力になることを約束する!』
『兄者が約束するなら我らも力になるぞ!』
『力になるなる!』
勝手に約束しないでくれー。変に気を使ったら気に入られてしまったようだ。上機嫌なフクロウ三羽が僕の頭の上をくるくると旋回している。もう好きにしてくれ……。
「彼らは元気になったみたいです。じゃあ僕はダンさんを追いかけますね」
「あっ、私も行きます!」
「無論、私もだ」
フクロウたちの事から切り替えて、勝手に消えたダンを追いかけるために二階層に向かおうとした。彼女たちはここで待っていて欲しかったが、話をしても聞いてくれなさそうだ。
しょうがない、ここはダンを追いかけることを優先しよう。
『すぴー……すぴー……もっと速く走りたいよぉ……すぴー……』
僕の体温で心地よくなってしまったのか、ずっと抱きかかえていたドドドがすやすやと寝息を立てて寝てしまっている。カレンとヴァレニアを連れて、もごもごと寝言を呟くドドドの声が目立つほど静かな通路を進んでいく。
ぼんやりと光る苔が増えてきた。もう少しで二階層に着く。変な緊張感が増していき、気持ち悪い汗が背中を伝う。
ヒトが怖いストラはともかく、オズヴァルフがダンに手を出さないか心配だ。だが運良く今日はストラの魔法の修行としてテオドールが来ている。いい大人の彼なら何か揉め事が起こったとしても、納めてくれるだろう。
そう思ったら安心してきたぞ。ヒトと魔獣だけだったら言葉が通じないからぶつかるかもしれないが、ヒト同士なら話し合える。まさかテオドールが魔獣たちをけしかけることなんてするはずないしね。
『《拒絶する大地》!!』
「うおおおおおおおおおおおおおッ、がふっ!!?」
通路を抜け二階層に辿り着いた時、始めに目に入ったのは、剣を振り上げながら堀を飛び越えようとしたダンが、対岸の土の壁に顔から激突した光景だった。
その土の壁の真後ろにはびくびくしているストラ。さらに後ろには警戒中のオズヴァルフと、腕を組んでなにやら誇らしげなテオドールの姿があった。
状況から判断して、ストラはテオドールに唆されて魔法でダンを迎撃したんじゃないか? ああほら、ストラにサムズアップしてるよ。
「なに今の音? ダンの声もしたような……?」
「ちょ、ちょっと待っててください!」
僕の後に続いていたカレンがトラブルを感知しつつある。これ以上、彼らと魔獣たちが衝突することは避けたい。とりあえず堀の下の川に落ちたダンの安否を確認する。
「だ、ダンさん! 大丈夫ですか!?」
堀の上から覗き込むと、尻もちをつく形で身体の半分を水に浸しているダンがいた。うわっ、鼻血がだらだらと出ている。痛そー……。
「《翔・輝煌》」
背後から何か唱えるような声が聞こえた。嫌な予感をしつつも振り返ると、ヴァレニアは自身の光り輝く剣に足を掛けていた。そして、まるでバーナーのように剣先から勢いよく炎を噴き出しながら飛んで行ってしまった。
「え、えぇー……!?」
「ヴァレニアさん!?」
ヴァレニアは飛んで行った先のテオドールにその炎の剣で斬りかかった。しかも、直ぐ傍にいたオズヴァルフにもケンカを売り始めたぞ!? 何だあいつ、戦闘狂か!?
ダンよりは話が分かる奴だと思っていたが、ただ強い奴と戦いたいヤバい奴だったのか!?
「おい虎! お前の相手は俺だ!」
『ひゃあ!? やっぱおいら怖いよぉ……』
当のダンは返り討ちに合わされたストラに向かって威勢のいい言葉を放っている。ストラが怖がるような強い言葉を使うんじゃない! 怯えてどこか行ってしまったじゃないか!
「くそっ……嘗めやがって……。おいカレン! こっちに来て俺のサポートをしろ!」
まずいな。素人目だが、テオドールとオズヴァルフが力を合わせて、やっとヴァレニアを抑えることができている状況だ。いや、協力してなさそう。オズヴァルフはテオドールごと攻撃してるな、あれ。
だが、そんな強い彼女の連れのこの二人が参戦したら、確実に劣勢になってしまうだろう。
「う、うん! えぇい!!」
「えっ?」
堀の向こう岸に渡ってダンを引っ張り上げるのかと思いきや、何故かカレンは堀に飛び込んでしまった。案の定、底の川でずぶ濡れになっている。
「ひゃぁあ! 冷たいぃ~!!」
「はぁ!? 何でお前も落ちてんだよ!」
「なっ! あんたが「こっちに来い」って言ったんでしょーが!」
「今からあの魔物と戦うんだから、この窪みは飛び越えろよ! 二人して落ちてどうする!」
「えっ……だ、だったら始めからそう言ってよ!」
なんか……ぐだぐだだな。もしかして強いのはヴァレニアだけで、この二人は大したことない? ダンとカレンは仲間が戦っているというのに言い争いを続けている。
だったら、今優先すべきなのはヴァレニアたちだ。彼らの戦いを止めることができれば、後はどうにでもなるはずだ!
「《巴・流煌》」
「《渦炎旋》!」
『《嵐の咆哮》!!!』
彼らからそれぞれ炎や風の竜巻が放たれ、派手に激突した。舞い散る炎がきらめいて綺麗~。止めるのなんか無理ぃ~。
「矛を納めんかヴァレニア!!」
「あはははははははははは!!!」
『こいつは何だ!? 何故笑ってる!? 気色が悪いわ!!!』
三者はさらに魔法を繰り出し、激しく戦っている。激しすぎて、遠く離れている僕のところまで魔法の熱が伝わってくる。ん? 天井になんか蠢くものが……? あれはスライムか? 戦いの余波から避難しているようだ。うん、僕も逃げ出したいよ。
もう僕はあの戦いに手を出すことはできない。テオドールとオズヴァルフが上手いこと収めてくれることを願うばかりだ。
それならそれで僕はダンとカレンの二人を説得することにしよう。さて二人は……ダンは堀の対岸で彼らの戦いをぼーっと見ていた。うんうん、傍から見ると綺麗だから見惚れちゃうよね。
さて、カレンはどこに……
「キャアアアアアアアアア!!」
突然、ダンジョン中に響き渡りそうな悲鳴が聞こえた。その悲鳴を上げたカレンは堀の下を流れる川の下流にいた。彼女の足元には隠したはずのある箱があった。
あぁぁああ!? それは魔獣たちに託されたこのダンジョンの財宝ぉおお!!!??
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