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僕だけが騙されない超癒しダンジョン  作者: 東條水久
第一章 癒しが必要なあなたに
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1-43 変態は徒党を組んで飛んでくる

 何度目かの回想を終え、現実に戻ってきた。目の前の道を作ったストラは今、多分一階層の喧騒に惹かれて、一階層と二階層を繋ぐ通路に身を隠しているのだろう。無理はして欲しくないけど、いつかはストラも一緒に皆と遊べるようになればいいな。


「では儂は退散するとしよう。独り寂しく呑み直しするかのぉ……るるるぅ~……」


 哀愁を漂わせて去っていくテオドールが居たたまれなくなり、思わず声をかける。


「あの、テオドールさん……」


「なんじゃぁ? やっぱり入っていいのかのぉ!?」


『うぎゃっ!? くっさ!!』


 嬉しそうに振り向いたテオドールの口から洩れた酒の匂いに当てられ、フィーニャは僕のフードから飛び出した。そして一目散に逃げるように、小屋に取り付けられている猫用の扉から中に入っていった。


「……まあ、あの通り今の状態ですと猫たちは逃げてしまうので、今日の所はお引き取りください」


「ぬぅん……」


 テオドールは肩をがっくりと落とし、見るからに落ち込んでいた。何か励ましの言葉をかけようと考えていると、彼に頼みたいことを一つ思い出した。


「テオドールさん、頼み……「店員さぁ~ん、ちょっといい~?」


 背後から呼びかけられ振り向くと、陽キャメンバーの女性二人とウォーレンがそこにいた。話しかけてきた方ではない女性の一人がなにやら落ち着きがなく、挙動不審で様子がおかしいのが目についた。


「ど、どうかしましたか?」


「この子があんたに言いたいことがあってぇ、ほら言いなよ」


「い、言っちゃっていい感じ?」


「おう。マシロだったら受けてくれんだろ」


 えっ、何? 何か要求があるの? 自分ができる範囲だったらできるだけ何とかするけど、魔獣たちが関わってくるなら話は別だぞ。……もしかして、あの子たちの誰かを自分のペットにしたいとか? だ、断じて許さんぞ!


「あ、あのぉ~、じ、実は~」


 その女性は顔を赤らめ、もじもじと身体をくねらせている。何なの? 何を企んでるの? それとも尿意? 悪いけど、ここには人間用のトイレはないので近場の民家か、教会のを借りてもらうことになるけど。

 やがて女性は意を決したのかのように言葉を紡いだ。



「うち裁縫が得意で……、ナルきゅんのために服を縫ってあげたいなって!」



「…………え?」



「きゃはは! そんな恥ずかしがることある?」


「だって、だってぇ!」


「どうしたマシロ? もしかして告白されると思ったのか? このこのぉ」


 何だこの男は? 頭大丈夫か? 


「これこれ。あまりマシロ殿をからかうんではない」


「あっ、テオドールさん、いらしてたんっすね」


 テオドールの介入でようやく自分が弄ばれていたことに気付く。ウォーレンめ、出禁にしてやるぞ? いや、そんなどうでもいいことよりも、彼女の要求の方が気になるのだが。


「推しのお洒落に少しでも貢献したい的な? 気に入ってくれたらマジ嬉しみ深しだし」


 無駄に警戒してしまったが、彼女はただナルに贈り物がしたかっただけのようだ。ナル自身も服のバリエーションを増やしたいだろうし、僕は快く彼女の申し出を受け入れた。


「マジ感謝! うち気合い入れていい感じに作ってくるし!」


 彼女の眩しい笑顔は魔獣たちを気に入ってくれた証だった。ここまでグリーン・ピースを発展させるために色々試行錯誤しながらやってきたが、あの子たちの評判が上がってくれるなら本望である。

 そして、このダンジョンに住む魔獣たちが人間たちにとっても、かけがえのない存在になってくれたらありがたい。


 ……そう願っていたら、この現状をぶち壊しかねない三羽が飛来した。




『見よ! 見よ! 見よ! 我らが勇士を! 称えよ! 我らが威光を!』


『かっけぇーっす! 兄者ぁ!』


『惚れ惚れしますぜ! 兄者ぁ!』



 ワシミミズクのホゥベルトがいつの間にか仲間に引き入れていた子分を連れて飛んできた。子分である小型のフクロウたちは、彼を大変慕っているようで、この後起こる惨状が拡大することが容易に想像できた。


『エバード! ビバード! 行くぞ、編隊だ!』


『『イエッサー!!』』


 変態を自称したかと思いきや、ホゥベルトを中心に子分たちが左右に分かれるように飛び始めた。彼らの狙いはグリーン・ピースの利用客三人だ。


「えっ……? あ、あの鳥は俺に糞を落とした奴じゃ……こっちに来やがる!」


「どしたん、ウォーレン?」


「あ、鳥が飛んでんね。フクロウかな、珍しい」


 ウォーレンたちに向かって滑空するように飛んでくるフクロウたち。彼らの頭に糞を落として、ここの評判が落ちたらどうしてくれる! だが、僕がその対策をしていないかと思ったか! ……あっ、数が足りない。


『いざ……』


「ウォーレンさん! 貴方は自分で何とかしてください! えぇい!」


「きゃっ」


「わぁ」


「えっ、ちょまっ、ぎゃぁあああ!!!!」



『『『うんちぷりっ』』』



 彼ら三人の頭目掛けてフクロウ三羽から排泄物が投下される。着弾する直前に、僕は懐に忍ばせてあった帽子を女性二人の頭に被せた。余った布で作った簡素な出来で帽子と言うには憚られたが、糞を防ぐには十分だった。ただ数が二つしかなかったため、彼の分は用意できなかったが……。


「え? なになに? どしたウォーレン。急に地面にダイブして」


「わっ、うんちかけられてやんの! うける」


「ちくしょう……またうんこかよぉおお!!」


『其方とは縁があるな。う~ん、好誼であるぞ!』


『くぅ~、俺らは失敗しちゃったっス!』


『あんな動いている標的に当てるなんて……流石っす兄者ぁ!』


 ホゥベルトは「ホホゥ~」と自慢げな鳴き声を上げながら子分を引き連れて、グリーン・ピースの奥へと飛んでいった。一応、一階層の広場の一画に彼ら鳥たちのスペースを作ってあるから、そこに向かったのだろう。


「ここって鳥とも触れ合えんの? アタシ興味あるんだけど」


「いや……今のところその予定はないです。今みたいにフンが降ってくると危ないので」


「つーか、うちらもフン浴びせられてたん? 店員さん守ってくれた感じじゃん! ありがと!」


「これ被ってたら平気じゃね? てか、動物と触れ合ったら汚れるのは覚悟の上だし」


 鳥たちの需要もあるなら、彼らとも触れ合える場を設けるのも検討しようかな。だがドドドのヒトを轢いてしまう癖を治せた時とは違って、奴らのヒトの頭にフンを落とそうとするのは性癖だ。言っても聞かないので、こっちが対策するしかないのが現状である。


「そうですね、考えてみます」


「できたら呼んでね。アタシらまた絶対来るし!」


「何度でも通いたい感じだし。あれ? ウォーレンどこ行く感じ?」


「帰って頭洗ってくるわ……。お前らはまだここにいるだろ?」


「そゆこと? じゃあアタシらはまたネコちゃんたちと遊ぶとするかあ」


「うち、ワンちゃんのとこ行ってみたいんだけど、いい感じ?」


「う、うん、とりあえず柵の外から見てみっか」


 ウォーレンは村の方へ、彼女たちはドドドがいる方へ向かって行った。トラブルはあったが、大事にならずに済んで良かった。魔獣たちの働きによって、自分たちの有用性が認められつつある。このまま彼らの居場所が脅かされず、平和に暮らしていけることを願うばかりだ。


「それでマシロ殿。儂に何か用があるのではなかったのかな?」


「あっ、すみません、テオドールさん。実はここにはストラというオズヴァルフぐらい大きな虎がいるんです」


「ほぅ」


「ストラは土の魔法が使えるんですが、オズヴァルフはその魔法は専門外のようで、テオドールさんにご教授をお願いしたいのです」


「いいよぉ。儂も主魔法は土ではないが、魔法剣の力でそれなりに使えるのでな。あ、家に置き忘れてしまったわ、がはは!」


 ストラの強くなりたいという願いを叶えるべく、テオドールに指導を仰いだらあっさり承諾してもらえた。と言ってもヒトが怖いストラを慣れさせる時間が必要なため、すぐに訓練を始めることはできないだろうが。


「それでストラという者は、あ奴で間違いないかのう?」


 テオドールが指を示した先にいたのは、水平に回転しながら宙を飛んでいたストラだった。


「きゃああああ!!?」


「や、ヤバぁあああ!!」


「ドドド!? お前か? お前が何かやってるのかぁああ!!?」


『ドドドくぅ~ん!! や~め~て~よぉ~!!!』


『あははははは!! ストラくんもあそぼ~よぉー!!!!』


 空中で水平に回転しているストラの真下にはドドドが走り回っている。どうやらドドドが風の魔法でストラを巻き上げているらしい。そしてその光景を眺めて困惑するお客さんたち。



 平和とはどこへやら。阿鼻叫喚の地獄絵図に、僕は頭を抱えるしかなかった。




一区切りつきましたので明日は本編の更新はお休みです。

その代わりに短めの幕間を19時に更新します。

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