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僕だけが騙されない超癒しダンジョン  作者: 東條水久
第一章 癒しが必要なあなたに
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1-38 回想・ドドドの特訓

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!



「う……うわぁああああ!!? ひぃいいいいいい!!!」


「ど、どしたのウォーレン!? そんなに怯えて……」


「この振動は……また悲劇が始まっ…………あれ?」



 ドドドは人を轢くどころか、柵さえも壊さずに立ち止まった。すでに彼は無暗にヒトを吹き飛ばすことはなくなった。僕たちとの血の滲む特訓の末に彼は学んだのだ。そう、あれは一ヵ月半前の出来事だ。


 ・・・・

 ・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 まだドックラン用の柵も設置していない頃、グリーン・ピースの一階層の広場にて、僕は村の農家の方から譲り受けた案山子を立てていた。その様子をフィーニャとオズヴァルフが見守っている。


『これで上手くいくといいんだけどねぇ』


『…………ふん、あいつの才能を潰す真似だけはしてくれるなよ、白ヒトよ』


「ま、まあ、意識して魔法を使えるようになる訓練だから……お~い、ドドドー!」


『わふっ!? 遊んでくれるの!? わーいわーい!!!』


 僕は訓練を受けさせる対象のドドドに呼びかける。遠くで遊んでいたドドドはこっちに気付いて駆け寄ってきた。いつも通り風を纏いながら段々と加速していく。僕は案山子の後ろに隠れながら、とある作戦を実行する。


「ドドド! この案山子を僕だと思って! そ、そう! そうだよね! やっぱりそのまま突っ込んでくるよね!? どぅわぁっ!!!」


 ドドドが案山子に突撃する直前で横に飛びのいて直撃を回避する。僕の代わりになった案山子は天井近くまで吹っ飛び、回転しながら地面へと落下した。見るも無残な姿になった案山子だったの周りをドドドはくるくると走り回っている。


『わっふーい! なになにー? 今日の遊び道具はこれなのー? 楽しいー!!』


『ドドド、違うわ。それは遊び道具じゃない。それは……マシロなのよ』


『わふ? フィーニャ、どういうこと? マシロならあっちにいるよ?』


『よく見なさいドドド。あなたがどれほどのことをしたのか……ね、マシロ』


 僕はドドドの突撃を回避し、その勢いのまま地面を転がり倒れていた。そしてフィーニャの合図に従い、僕の名演技が炸裂する。


「う、ウワー……い、イタイヨー。グワー……」


『……あ?』


 ごめん、フィーニャ。演技は苦手なんだ。


『ま、マシロ? どうしたの? どこか痛いの!?』


 幸運にも僕の下手くそな演技に、素直なドドドは騙されてくれたようだ。身体中に砂ぼこりを付け、うめき声をあげている僕の顔を心配そうに覗き込んでくる。


『これはあなたがやったのよ、ドドド』


『え? どういうことなの?』


『あの案山子とマシロは、ま、魔法で繋がってるの。案山子が傷ついたらマシロも苦しむのよ』


 僕たちの作戦はただ単純に「ヒトを轢いたらこんなにも可哀そうだから止めようね」というものだった。もちろん案山子と僕が魔法で繋がっているというのは嘘である。案山子はドドドの訓練のために何度も実際に轢かれるのは身がもたないための身代わりだ。


『えっ、で、でも、そのかかし? って、ぼくが近づいたら勝手に飛んでっただけだよ!』


『いいえ、それはあなたの力なの。あなたの風の魔法が原因なのよ』


 ドドドは無自覚で風の魔法を発動させている。それを改善するのも作戦の目的の一つである。ドドドには酷だが己の大きな力には責任を取ってもらわなければならない。


『風の魔法……? お師匠さまが使ってたのだよね? ぼくできないよ!』


『意識して使えないのも難点よね。でも信じられないなら何度でも再現してもらうわ。マシロ』


「ギャアーグワーあ、はい」


 僕は転がっている案山子を立て直し、ドドドに突撃させるように促した。ドドドは少したじろいでいたが、いつもの流れのように遠くから走らせると再び案山子は宙を舞った。


『……もしかして今までのも全部ぼくのせいだったの? みんな自分でジャンプしてたんじゃなかったんだ……』


『そうよ。あなたの魔法がヒトを吹き飛ばしてたの。その結果、今のマシロのように皆負傷してたのよ』


「グワー、イデェーヨー、イデェーヨー」


『……もういいわよ』


「はい、すみません」


『ご、ごめんなさい!! ぼくこんな力持ってるなんて知らなくて……もうヒトに駆け寄ったりしないよ……』


 ドドドは今までの行為を反省し、ひどく落ち込んでいる様子だった。自分の力を自覚できたのは良いことだが、そのせいで消極的になるのは本意ではない。ここで彼を諭したのは今まで黙って見ていたオズヴァルフだった。


『それは違うぞ、ドドドよ』


『お師匠さま……』


『お前の魔法は敵を排除するためのものだ。ヒトなんぞ片っ端から吹き飛ばしてしまえ!』


 いや極端!! ヒトを無自覚に轢いていたのが、意識して轢くようになるだけじゃん! その理論を容認したら誰もここに寄り付かなくなってしまう。


「もし君たちに危害を及ぼすヒトが来たなら吹き飛ばしてもいいと思うけど……せめて敵かどうか判断してからにして!」


『なら貴様ならどう判断する? 敵かどうか見極める前に攻撃されたら元も子もないぞ!』


 そ、それはそうだ。敵かどうか見た目で判断するのはヒトの文化に疎い彼らには酷だろう。今からでも敵が持ってそうな武器や装備を教えとくか? ……いや僕自身が詳しくないし、数も膨大だろうから得策ではない。

 何か策はないか悩んでいると、ふと最近設置した入り口のウェスタンドアが目に入った。


「……とりあえず、あの扉を開けずに壊して入ってきたら確定で敵なのでは?」


『? 壊すヒトが来たら、吹き飛ばすの?』


『ふん、確かにそういう輩は敵だな。だが巧妙に牙を隠し、騙し討ちしてくる敵も……』


 ドドドはいまいち話が理解しきれてなさそうだが、これ以上、敵の定義について論じていたら本題から脱線してしまう。納得しきれてないオズヴァルフを遮るように無理やり話を戻した。


「と、とにかく、ドドドはその力を意識して使えるようにしよう。ドドドもオズヴァルフみたいに格好良く魔法を使ってみたいでしょ?」


『う、うん! ぼく魔法を使えるようになりたい! でもどうしたらいいの?』


「そのための訓練だよ。この案山子相手に何度もぶつかって、魔法のコツを掴んでいこう」


『……でもそれを吹き飛ばしたら、またマシロが傷ついちゃう……』


 あ、案山子のダメージが僕にフィードバックするという設定を忘れてた。


「だ、大丈夫! 僕は耐えてみせるよ、ドドドのためならね」


『えっ、本当!? マシロすごいすごーい!! わっふわっふぅー!!!』


 僕が咄嗟についた嘘によって、しょぼくれていたドドドは一気にいつものテンションに戻ってくれた。うう、背後から感じる二匹の冷ややかな視線が痛い。


 こうしてドドドのヒトを吹き飛ばさないための修行が始まった。




 ・

 ・・

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・



 その修行の結果がこちら。


『わっふわっふ! やったやったー! 止まれたよー!』


『流石ドドドね! やればできると思ってたわ!』


「すごいよドドド。よくできました」


『わふふっ!』


 見事にヒトを轢くことなく魔法を止められたドドドは喜びのあまりにその場でくるくると回っている。結論から言うと、未だにドドドは無意識に魔法を発動してしまう。しかし、ヒトを轢く前に意識して魔法を止めることができるようになったのだ。


「こ、この子と遊べるのか?」


「はい、ドドドくんって言います。走るのが大好きな元気いっぱいな男の子です」


「あのでっかい狼が来るかと……」


「ああ、オズヴァルフはヒトと遊ぶような性格じゃないんで」


 犬派の男性はほっと胸を撫でおろしていた。寧ろあんな怖い目に合っておいてオズヴァルフと遊ぼうとしていた方が驚きだが。

 柵の向こう側でドドドがヒトと遊べるのを今か今かと心待ちにしているで、犬用のルールを早く伝えよう……と思っていたら猫の方で待機していた女性が一人こっちにやって来た。


「ワンちゃんもカワイイじゃん! ねえ他の子はいないの?」


「今は遊べるのはドドドくんしかいないです。でもこの子は一匹で何十匹分の元気がありますから、複数人で遊んでもらっても大丈夫ですよ」


「マジ? マジ悩むぅ」


 その女性もドドドと遊んでくれそうだった。こっちとしてはドドドと遊ぶ時は複数人の方が好ましい。リスク分散できるし。


「とりあえずここでの追加ルールを説明しますね。この柵の中に入る時は必ずこの玩具を複数持って行ってください」


「なんだこれ? 球や棒に……」


「縄と……皿?」


「それはフリスビーと言って、水平に投げると回転しながら飛んでいきます。基本的にこれらを投げたり、ドドドに引っ張らせたりして遊んでください」


 僕はドドドの玩具をあるだけ彼らに持たせた。次から次へと出てくる玩具に驚いている様子だったが構わず説明を続ける。


「あと絶対に玩具は絶対に一つは手元に携帯することをお願いします。そして、もし危険そうな気配を感じたら、できるだけ遠くにその玩具を放り投げ、柵の外側へと退避してくださいね。約束ですよ」


「え……?」


「お、おう」


「では、ドドドくんとの楽しい時間を過ごしてくださいませ」


 ドッグランを囲っている柵の一部を開け、利用者を招き入れる。やっと遊べることが嬉しいドドドのテンションは最高潮だ。彼らが無事であることを祈るばかりである。

 まあ、いつもの高台の上にオズヴァルフがいることが確認できたし、彼が見守ってくれているはずだ。うん、大丈夫。


「い、いくぜドドド。まずは俺について来い!!」


『わっふぅううううう!!!』


「よっしゃぁ! 俺に追いつけるか……ってはえぇぇえええええええ!!!!」


 うんうん、楽しそうで何よりだ。ドドドは素直な性格だし、ちゃんとルールさえ守れば危ない目には合わないはずだ、うん。……おや? ドドドと遊ぶために来たもう一人の女性が何故かまだ柵の中に入っていないぞ。


「どうかしました? 入らないんですか?」


「い、いや……アタシはやっぱ、猫の方がいいかなー……って」


 んんー?




この続きは明日の17時更新!

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