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僕だけが騙されない超癒しダンジョン  作者: 東條水久
第一章 癒しが必要なあなたに
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1-3 魔法と戦争、魔物と人間

 

 顎にね、強い衝撃が加わると、脳は揺れるんだよ。


               たとえそれがおっぱいでも。

                          マシロ




 マザー・エリーザはこの教会の修道院長だ。

 金色の瞳に穏やかそうな雰囲気を醸し出す目元、腰まで伸びる薄い金髪、そしてその毛先に向けてピンクのグラデーションがかかっている。何より目立つのは、片方で僕の頭以上の大きさがある乳房だ。

 特注のシスター服では隠し切れないその乳房は、彼女が立ち上がった勢いのまま僕の顎を正確に撃ち抜いたのだった。


「ね……寝ていませんよー。深く祈っていただけで……すやぁ」


 マザー・エリーザは立ったままこっくりこっくりと舟を漕いでいる。僕も頭がこっくりこっくりと揺れている。こっちは脳震盪でだが。


「……はっ、マ、マシロさん? こんなところで寝てはいけませんよ?」


 ようやく起きた彼女は地面に転がっている僕を心配してくれている。原因は貴方だけどね!

 くらくらしている僕を見て事情を察したのか、彼女は深々と深々と頭を下げた。勢いよく下げた頭に連動して真上から飛来するおっぱいを僕はギリギリ回避する。当たっていたら今度は顔が床にめり込んでいただろう。


「す、すみません! もしかして、おっぱいに巻き込んでしまったのでしょうか……? うう……気を付けているのですが、たまに事故が起きてしまうのです……」


 後に聞いた話だが、この村の住人の大半はマザー・エリーザのおっぱいによる衝突事故の被害者らしい。大きなおっぱいは時に質量の暴力になることを学んだ。……いや彼女がドジっ娘なだけなのでは? 『娘』という歳ではないだろうが。


 胸の印象が強すぎるため隠れがちだが、彼女の耳はボリュームのある髪をかき分けるように長く伸びている。



 マザー・エリーザはこの村で誰よりも長く生きているエルフだ。



 元々この土地に住んでいたところを村長の先祖が開拓してできたのがこの村だと聞いている。

 ある意味では村長よりもずっと偉いのだが、そんな彼女は権威を振りかざさずにのんびりと暮らしている。のんびりすぎて教会のボランティアの一環で、子供への読み聞かせを始めても、一冊の本を読み終わる頃にはその子供は老人になってしまったとか。エルフの時間感覚は恐ろしい……。



 それでも女神エクレノイアへの祈りは毎日欠かさず行っているという。



「さあ、マシロさんも主への祈りを捧げましょう」



 女神エクレノイア――この世界の創造主であり、全ての生命を常に見守っている神、と言われている。


 そして僕をこの世界に転生させた存在でもある。



 ――――私の神託には必ず従うように。



 転生する直前にエクレノイアは僕にそう告げた。だが転生してから未だに一度も神託とやらが来ない。彼女はこの異世界で僕に何をやらせたいのだろうか。


 女神の像への祈る振りを終え、マザー・エリーザに何か仕事はないかと尋ねた。


「そうですねぇ……、雑務は昨日やって頂きましたし、今日は私の授業を受けてもらいましょう」


 彼女は異世界に来たばかりで右も左も分からなかった僕を記憶喪失だと思っているらしく、たまにこの世界について知る機会を与えてくれる。

 僕としてはそれよりも何かしら役に立つことをしたいのだが……。



「今日の授業は『魔法』です♪」



 すっごい興味が引かれる題材が来た!


「魔法とは、主に自身の内なる力を用いて自然現象を生み出す技術を指します。例えばこのように」


 マザーは指先から小さな火を、ポッと出してみせた。おぉ~、と僕の口から感嘆の声が漏れると、マザーは少し照れつつも指先の火を消して話を続けた。


挿絵(By みてみん)


「こほん、魔法の実践の前に、この間あった出来事について話さなければなりません」


 この間……?


「十五年前の事です」


 うーん、割と昔の話!


「この世界には人間と、人間の敵である魔物が存在しています。人間と魔物は長い年月、小規模ながら衝突を繰り返していました。しかし、ある時、魔物たちの頂点に君臨する魔王が現れたのです。魔王は魔物たちを統率し、人間と魔物の争いは大きな戦争へと発展しました」


 まだ見たことはないけど、この世界には魔物が存在するのか。ファンタジーみたいな世界観だったからいるとは思っていたけど。魔法で魔物を倒しながら冒険するのって憧れるなあ。


「魔王軍と国王軍の戦いは拮抗していました。いえ、このまま戦争が長引けば国王軍は敗れ、魔王はこの国を支配していたでしょう。しかし、魔王はある方たちによって討伐されました。そう――




 勇者一行の手によって」




 勇者……異世界ファンタジーなら定番の人物(キャラクター)だ。魔王という存在がいるなら勇者も現れるのが道義というものだ。多分。

 それでこの話と魔法にいったい何の関係があるのだろう?


「そして世界に平和が訪れました。めでたし、めでたし」


「えっ、終わり!?」


 思わず声が出てしまった僕をマザーはきょとんとした表情で見つめている。え? 僕が間違っている?


「あっ、魔法でしたね! すみません、うっかりさんですね私」


 マザーは赤面しつつ話を続ける。子供たちへの読み聞かせもこんな風に脱線していった結果、何十年もかかってしまったのではないかと勘繰ってしまう。


「魔法は魔物との戦争で活用されました。戦場で飛び交う魔法は美しくも残酷だったと聞いています。終戦後は戦闘用の魔法を生活に応用しようと様々な研究が行われてきました。はい、ここで実践の時間です!」


 随分と急だな!?


「さあ、自身の生命力を『魔力炉』で魔力に変換しましょう」


 魔力炉!? 何それ!? この世界の人間はそんな臓器があるの? それとも魂や第六感といった目に見えないもの?


「魔力炉で練った魔力の方向性を決め、出力。これが魔法の基本です」


 マザーの手のひらからめらめらと炎が吹き出している。自分も真似してみたが何も起こる気配はない。


「あの……マザー、コツを……できればもう少し分かりやすく……」


 自分がおかしいのかと思い、恐る恐るマザーに尋ねると、擬音交じりに教えてくれた。


「心のグツグツをギューンって魔力炉に注ぎ込んでグルグルギュッポンって魔力にしてビュワオンって感じで出します」


 もー余計分からん!!!!


 全く要領が得られず混乱している僕をマザーはくすくすと笑っていた。もしかしてからかわれている?


「魔法は感覚を掴むのが最も大切で困難だと言われています。戦争時も魔法を行使できるのは一部の熟練者のみでした。生活の役に立つために一般にも普及させようと政策が行われたところ、誰かが言いました。



『火が必要ならマッチを使えばいいじゃない』と」



 …………ということは……。


「戦争が終わり、魔法は使用する者は激減しました。今でも貴族の方たちは嗜みとして学んでいるそうですが、何かの役に立つほど行使できるヒトはごく一部でしょう」


 つまり、魔法はすでに廃れた文化らしい。


 そんな……せっかく異世界に転生したというのに魔法が使えないなんて……。そりゃあそもそも何かと戦うなんて怖いけどさ、魔法が使えれば何かと便利になると思っていたのに。


「でも私の元で少し修行すれば、きっと魔法を習得できますよ」


「ほ、本当に……!? だけど『少し』ってどのくらいです……?」




「ざっと二、三百年といったところですかね」




 死んじゃう!!!!







 途方もない年月を魔法に捧げるのは無理だ。使えるようになったとして、その時の僕はよぼよぼ、そんな体になってまで何のために魔法を使うのか。特別な力を使えるようになったって活用できなきゃ意味がない。

 特別な力と言えば、転生したときに女神からもらった能力(ちから)とは結句何だったのだろう? 一向にその能力(ちから)が何なのか分かっていない。  

 それに従わなきゃいけない神託というのは本当に届くのか。



 僕は何をするために転生したのだろう?



 これからの人生に不安を抱えつつも教会を後にしようとすると、思い出したかのようにマザーは僕を呼び止めた。




「あ、そうそう。エクレノイア様からマシロさんに神託を授かっていますよ」




 最初に言ってよぉ!!!!!



この続きの1-4は21時更新!

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