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僕だけが騙されない超癒しダンジョン  作者: 東條水久
第一章 癒しが必要なあなたに
22/69

1-20 汚れ仕事、任されました。

『立ち去れヒトよ! さすれば我は手を出さぬ』


「うわぁああ!! 食い殺されるぅううう!!」


「で、デカすぎる! このダンジョンのボスに違いねぇ!」


「ひぃいいい!! あんたぁ!!」


「さ、下がってろ! く、来るなら来い!!」


『立ち去れっての』



 パニック発生中。突然ダンジョンから現れた巨大な狼――オズヴァルフにより村の住人は恐慌状態に陥っている。狼は向こうから攻めてこない限り何もしないつもりでも、その意思が伝わっていない村人たちにとってはいつ襲ってくるかも分からない脅威だ。

 また僕が彼の言葉を通訳した方がいいのか……? でもテオドールの時みたいに信じてもらえるとは限らないし、この能力(ちから)はなるべく秘密にしておきたい。

 そんなことを考えていたら、オズヴァルフの前にテオドールが村人を守るように立ち塞がった。


「オズヴァルフ殿、儂はもうお主とは私欲では戦わないつもりだ。だが、彼らを襲うというのなら再び剣を振るおう。それが元騎士としての務めである!」


『また貴様か! 帰れと言っただろう!』


 今度は互いに戦いたくないだろうに一触即発の空気だった。彼らの意志を伝えることができるのは僕だけだ。だけど、僕を通じて伝えられる言葉は皆に信じてもらえるのか? ちょっ、テオドールが剣を抜いた! このままじゃまた戦いが始まってしまう! ええいままよ!


「み、皆さん落ち着いて! こ、この方に戦いの意志はありません! ね、テオドールさん、ね!」


「あ……ああ、そうだったな」


 オズヴァルフのとテオドールの間に入って和解を勧めた。よ、良かった。剣を納めてくれた……。


「ま、マシロ! 危ねえぞ!」


「だ、大丈夫です。彼らは怖くないですよ」


「膝が震えまくってるぞ!」


 村長が心配してくれているが、この震えはオズヴァルフに対してではなくこの状況の焦りからだ。オズヴァルフはぶっきらぼうだが比較的常識を持っていて、誰よりも仲間想いだってことを僕は知っている。

 そうだ、村の皆を安心させるために彼の脚でも撫でて無暗に暴力を振るってこないことをアピールしよう。


「ほ、ほら彼は優しいんです! だから大丈……」



『触るな。阿呆が』




 おや、急に暗くなったぞ?




挿絵(By みてみん)




「きゃぁぁあああああああああああ!!!!??」


「ま、マシロ!? こ、この狼野郎! よくもマシロを喰いやがったなぁああ!!」


 村長の奥さんの悲鳴と村長の声が壁一枚隔てたようにこもって聞こえた。えっ、僕食べられてるの?


「オズヴァルフ殿!? 血迷ったか!! マシロ殿を離すのだ!! ぬぅ!?」


『なあおっちゃん! あんた俺の舎弟だからこっちの味方だよな!』


「レフ殿!? ぬぅう! ぬぅうううううううう!!!!」


 いや、どんな状況? こっちは身体が地面から浮いてブンブン振り回されている感覚がします。傍から見てみたいな。食べられているというより咥えられているという状況なため、意外と恐怖はない。というか本気で食べようとしたなら、最初のひと噛みで絶命してるでしょ。

 想像だが、オズヴァルフ的にはこの行動で村人たちを脅して退かせる算段なのだろう。やっぱり彼は優しい心をもった獣だ。でも口の中、くっさぁ。



『こーらオズヴァルフ! マシロは食べちゃダメ! ぺっ、しなさい、ぺっ!』



『むぅ……』


 フィーニャはまるで異物を口にした幼子を叱るようにオズヴァルフを諭した。僕を食べたらお腹壊すよーって言いたいけど普通に消化されそう、なんてどうでもいいこと考えていたら周りが明るくなった。どうやら無事に吐き出されたようだ。

 これで彼は安全な魔獣だと証明できたはずだ。僕は全身が涎でべちゃべちゃのまま、もう一度村長に告げた。



「ね、優しいでしょう?」



「どこがだよ!!」







「見てください村長。僕、無傷なんですよ。彼らには僕たちを傷つける意志はありません!」


「し、しかしだな……こんな巨大な生物が自由になっているのは……」


「村長の飼い犬のアレクも放し飼いでしょ。同じですよ、同じ」


 全身よだれ人間と化した僕は村長に説得を続けるが、もう一押し足りなさそうだった。


「村長殿、この狼は我らから手を出さぬ限り、争いへとは発展しないだろう。ここは儂の顔を立ててくれぬか」


『やったぜ! このおっちゃん、俺たちの味方にしてやったぞ!』


 いつの間にかテオドールの頭の上に乗っているレフが何故か誇らしげである。僕がオズヴァルフに食べられている間に何があったの?


「あ、あんたがそこまで言うのなら……」


 村長はテオドールに頭が上がらないのか、渋々だが納得してくれそうだった。魔獣たちは村人を襲わない、村の住人はこのダンジョンに近づかない。住み分けができれば何事も平和に暮らせるのだ。


「なーにが『争いに発展しない』だ! そんな保証がどこにあるんだい!!」


 それはそうだ。村長の奥さんが痛いところを突いてきた。彼らはこの魔獣たちがどのような者たちなのか知らない。信じるなんてできる訳ない。



「それにこんな危険な奴らがこんなに村の近くにいるという事実だけで、うちらにとっちゃ害なんだよ!」



『害……だと?』


 オズヴァルフが低く唸り始めた。でもこれはしょうがないことだ。この魔獣たちを何も知らない彼らは怖いんだ。怖いから不安で、その不安を排除したいだけなんだ。

 でも魔獣たちもこの居場所(ダンジョン)から離れるわけにはいかないだろう。だったら僕ができることはただひとつ。彼らの想いを僕が代わりに伝えるだけだ。



「……すみません、貴方の言うことは尤もです。でも彼らはただここで暮ら『うんち装填完了!』…………はぁ?」



 突如、僕の説得を遮った声は上から聞こえた。その声の主はワシミミズクのホゥベルトこと、変態(うんち)の伝道師だった。


 帰れ変態! いや、帰ってきたのか変態!


「ど、どうしたんだい? 急に黙って」


 村人たちは上空で旋回しているホゥベルトに気付いていないようだった。あいつは他人の頭目掛けて排泄するのが趣味の変態だ。見ないと思っていたら外で狩り(食事)でもしていたのか? 最悪なタイミングで戻って来やがって! お前のせいで村人たちの心象が悪くなったらどうする!


『ちなみにあいつは特にメスの頭が好きよ』


 ここでフィーニャによる新しい情報が入りました。本当にどうしようもないな、あの変態!


『見るのです。我が勇士を。称えるのです。我が威光を』


「なんか鳥の鳴き声が聞こえないか?」


 ホゥベルトは村人たちの真上で口上を述べている。狙いは村人、その中でメス……いや女性は、


『いざ……』


 村長の奥さん唯一人!


「危なぁぁああああい!!!」


「なっなんだい!?」


『うんちぷりっ』


 変態のターゲットにされた村長の奥さんをとっさに押しのける。当然、糞の終着点は僕の頭の上だ。



 マシロは全身よだれ頭糞人間に進化した!


この続きは明日の17時更新!

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