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僕だけが騙されない超癒しダンジョン  作者: 東條水久
第一章 癒しが必要なあなたに
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1-13 魔法戦争・再演

 この十五年間、儂は死んでいたのだろうか。そう思うぐらい冷えていた血が沸騰したかのような高揚感に煽られる。今、目の前にはかつて死闘を繰り広げた宿敵の魔獣が立ちはだかっている。お互い老いたのう、あの頃と同じ戦いはできぬかもしれん。だが、儂はこれまでずっと技を磨いてきた。お主を打ち破る技を!

 ああ、楽しみだ。お主にこの技を披露するのが。お主と再び相まみえるのが。


 ハハァ! お主もそうなのだろう!! フーロウよ!!!!









『誰だ、貴様』




「フーロウ」と呼ばれた体高が三メートルは超えているだろう大狼がテオドールさんに最初に放った一言がこれです。めっちゃ冷めてます。冷えっ冷えです。


 あんなに因縁がある様子だったのに人違……いや狼違いだったってこと? えぇー、これ恥ずかしいやつじゃん。テオドールさんに伝えた方がいいのかな……。


「どうした、『烈風の狼(フーロウ)』!! いつでもかかってこい!」


『勝手に名を付けるな!! 我は「オズヴァルフ」だ! 何故人間は昔から我を「フーロウ」などと呼ぶのだ……』


 フーロウ、改めオズヴァルフは吠えるように否定する。どうやらテオドールさんが求めていた狼で間違いなさそうだけど、となると……?


「凄まじい咆哮よのう。だがその程度、この魔法剣『炎華繚乱(えんかりょうらん)』がある限り怯みはせん!」


 テオドールが構えている剣の光が増し、周囲の気温が明らかに上がった。魔法剣……? この世界で初めて聞く単語だが、魔法で属性を付与(エンチャント)した特別な武器のことだろうか。


『その剣の焦げ臭い匂い……嗅ぎ覚えがあるぞ。貴様、十五年前の戦争で呆れるほどしぶとかった騎士だな』


「クハハァ! 遂に戦う気になったのだな! 我らの因縁の決着……今こそ果たそうぞ!」


『因縁なんぞ知るか! 帰れ!!!』


 つまるところ、テオドールさんの一方的な片思いっぽい? オズヴァルフは全くもって気乗りしてなさそうな雰囲気に対し、彼はまるで遠足の前日の夜のようにわくわくしているのが見て取れる。口元の裂けた傷が笑みに引っ張られて恐ろしい表情になっているが。


『オズ? どうかしたの?』


『セレニャ! 下がっていろ! 敵襲だ!』


 岩陰から現れた額に七三分けの模様がある老猫――セレニャにオズヴァルフは危険を知らせる。セレニャは引き返すように近くにいた仲間を連れ、ダンジョンの奥へと避難した。今まさに、元騎士と魔獣の戦いが始まろうとしていた。



「来ないならばこちらから行くぞ!《火翔(ひしょう)》!!」


 テオドールの魔法剣が一際輝くと刀身を覆うように燃えだした。そして空を切るように横なぎに剣を振るうと、剣筋を沿うように炎の刃がオズヴァルフへ放出された。


『ちぃっ!《風爪(ブラスト)》!!』


 オズヴァルフは前足を縦に振り下ろすと、風の刃が生成され、テオドールの《火翔》を相殺する。間髪入れずにさらに風の刃を飛ばすが、それらは全て火を纏ったテオドールの魔法剣で打ち消された。


『クソッ、火は我が魔法と相性が悪い。下手に放つと勢いを増強させてしまう』


「ハハハハハァ!!! 楽しいなあ! 楽しいぞフーロウ! お主も儂と再び戦えるのを楽しみにしとったのだろう?」


『黙れ! 貴様のようなしつこい奴には二度と会いたくなかったわ!』


「クックック、血沸き肉躍るのお!《渦炎旋(かえんせん)》!!」


『勝手に踊ってろ!《嵐の咆哮(テンペスト)》!!』


 火と風の渦がぶつかり合い、周囲に火の粉が舞う。これが魔法を使った戦い……。十五年前の戦争の再現なのか……。

 もし自分が魔法を習ったとして、ここまで戦えるようになるとは到底思えなかった。あの一人と一匹の間に入れる者はいない。戦いが終わるまで安全なところで見守ることしかできないのだ。


「フフ、狼よ。儂は気付いておったよ。時々、儂の命を狩ろうと狙っていたことを」


『はぁ?』


「だが、それは叶わなかった! 儂はこの十五年間、片時も隙を見せなかったからのう!!」


『誰の事を言っている? 我はこのダンジョンからほぼ離れたことないのだが!!!』


 それにしても、全く噛み合ってないな彼ら。オズヴァルフがいくら弁明してもテオドールには届かない。何故なら魔獣の言葉は人間には伝わらないから。だけど僕は女神から貰った能力(ちから)で彼の言葉の意味が分かる。

 二者の仲を取り持つことができるのは僕だけなのでは……?


「狼よ、動きが鈍くないか? 儂がつけたその目の傷が痛むのであろう。儂も同じだ。主に切り裂かれた頬の傷が疼いてしょうがないわい!」


『この目の傷は戦争よりも前に負ったものだ! ああ、思い出したぞ! 確かに我は貴様の口元をほんの少し切り裂いた。しかし、それで興奮したか知らんが、盛大に高笑いしたことで裂けたのではないか!! 正直、とてつもなく気色悪かったぞ!!』


 ここで明かされる元騎士の傷の真実。狼の様子から、当時相当ドン引きしたことが窺える。今の戦いを楽しんでいる彼から察するに、テオドールは昔からかなりの戦闘(バトル)中毒(ジャンキー)だったんじゃなかろうか……。


「ま、マシロ! い、いないと思って、探していたの。そ、その……あそこ!」


 魔法が飛び交う光景を怖がり、僕の背中に隠れていたヒト状態のフィーニャは戸惑いつつもある一点を指差した。その方向はテオドールとオズヴァルフの間のさらに奥。そこには怯えて蹲っている三毛猫がいた。


「レフ……?」


 三毛猫のレフはおそらく二者の戦いから逃げ遅れたであろう。このままだと戦いの余波に巻き込まれてしまう。戦っている張本人たちは彼の存在に気付いていないのか、さらに激しく魔法を振るっていく。


「あ、あの!! 攻撃をやめてくださ……そこにレフ……猫がいるんです!」


 咄嗟に呼びかけるが、普段大声を出さないせいか全然声が張れない。それどころか戦いの音にかき消されて、二者には全く届かなかった。


「ハハハハハハハハハハぁああああ!!!《火翔(ひしょう)連開花(れんかいか)》! 受け切ってみせよ!!」


『ぐっ……いい加減にしろぉおお!!! 《永久に(ゲイル・)啼く(オブ・)銀狼の風(オズヴァルフ)》! 奴を噛み殺せ!!!』


 放たれた火の刃の連撃はオズヴァルフの周囲から発生した風が切り刻んだ。その風が段々と纏まっていき、透明な二匹の狼が形成された。その狼の身体には風が渦巻いており、風に巻き込まれた小石が細かい砂に砕かれていくのが見えた。


「忌まわしいのう。その風の狼たちは剣も矢も効かんかった。そ奴らに何人儂の部下が殺されたことか。だが、昔は一度にもっと多くの狼を召喚しておらんかったか? 老いたのう、フーロウよ」


『…………行け!!』


 二匹の風の狼がテオドールに向かって駆け出した。風の狼は周囲を塵に変えながら突き進む。意志を持った絶対的攻撃魔法を前にテオドールは慌てることもなく剣を掲げた。


「儂の火魔法も呑み込まれ太刀打ちできんかった。しかし、儂は新しい技を編み出した! お主のその魔法に対応するためだけの魔法を!」


 真上に掲げた剣が今までにないくらい輝き出した。だがその剣は燃えることはなく、まるでエネルギーを内に溜め込むように光り続けている。テオドールは剣を半回転させるように持ち替え、そのまま地面に突き刺した。



「『火』(かさね)『土』! 咲き溢れよ!《烈火・激衝大噴炎》!!!!!」



 地面に刺した剣を起点に、オズヴァルフに向かって地面に数本の亀裂が走る。その亀裂から噴火するかのように炎が噴き出した。亀裂の上にいた風の狼たちは噴き出た炎に巻き込まれ跡形もなくかき消された。


『火と土の二属性魔法だとぉ!?』


「まだまだぁ!!!」


 テオドールは握っている剣にさらに力を込めると、亀裂から噴き出る炎に混じって燃える岩が舞い上がった。地面から放出された炎で攻撃し、大量の岩を降らして対象に追撃する魔法だったのだろう。しかし狙いが大雑把で岩がダンジョン内のあちこちに飛んで行ってしまう。




 怯えて蹲っているレフの真上にも。




「ッ!?」


 最悪の事態が起ころうとした瞬間、背後から突風が吹き上がった。その正体がレフに向かって駆け出したフィーニャだと気付いた時には、彼女はすでに溢れ出る炎の手前まで辿り着いていた。

 フィーニャは風を身に纏い、戦っている二者の間を跳び越すように跳躍した。次々と舞い上がる岩の間を縫うように空中で身を捻って躱し、レフの手前に着地する。そして、その勢いのまま彼を庇うように拾い上げた。



「なにッ!?」


『!? この匂いは!?』



 レフを抱えたフィーニャに舞い上がっていた岩が次々と落下してくる。逃げ場はない。このままだと岩が直撃して重傷を負うのは確実だった。



 フィーニャは岩に向かって手をかざした。




「水よ!!」




 魔法によって生み出された水は手のひらを中心に水面のように広がり、降り注ぐ岩を全て防いだ。


この続きは本日の21時更新!

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