食い違い
聞き込みをして数時間がたっただろうか。
俺はついにおそらく昨日の女の子がいるであろう家までたどり着いた。
「すみませーん」
俺は家のドアをノックし、おそらくドアの向こうにいるであろう彼女にそう尋ねる。
ガチャ
そんな音と同時にドアが開いた。
「やはり貴方でしたか。どうぞお入り下さい」
そう言ってドアの向こうからでてきた彼女は俺より2、3歳年上と感じられる少し大人びた雰囲気だった。
髪色は黒で白メッシュが入っている。
身長は俺より5センチほど低いだろうか。
白を基調としたパーカーにライトブルーのショートパンツというラフな格好をしている。
顔は可愛くスタイルもいいと思う。
ていうか顔に関して言えば今まで見た中で1番可愛い。
そんな方の家に俺はこうも簡単に上がってしまっていいのだろうか。
「お邪魔しまーす」
俺がそう言うと彼女は奥の部屋へ案内してくれた。
「おそらく魔族について聞きに来たんですよね。私がわかることならなんでも話しますよ」
そう言いながら彼女は紅茶を入れてくれた。
やはり彼女は何か知っているのであろう。
「まず最初に、貴方は一体何者なんですか?」
俺はそう尋ねた。
「何者、ですか。私の名前は七瀬葵。エラの友達です。葵とお呼び下さい。あだ名でもいいですよ。それから敬語もやめましょう。これから一緒に行動する機会も増えてくると思いますので。私もあなたのことはルーカスではなくルカと呼ばせて貰います。よろしくねルカ」
「えーっと、よろしく葵…」
疑問が多すぎて話に置いてかれそうだ。
まずなんで俺の名前を知ってるんだ?
それにエラの友達?
「あの、なんで俺の名前知ってるの?それにエラの友達ってどういうこと?」
「えっ、何も聞いてないんだ。そうだな、まずは歴史について話そうか。今から5年前、魔族軍対勇者軍(魔族以外の人間)の戦いが始まったんだ。最初は魔族軍もそれなりに人数がいてかなり善戦してたんだ。でも時間が経つに連れて争いは総力戦になっていった。それから徐々に魔族はやられていき、やがて残った街はここと暗黒郷の2つのみになってしまった。それでも魔族は自分たちの領土を守るため戦い続けた。でも結果は惨敗。最終的に魔族の領土は暗黒郷のみになりニューヴィクトリアのために亡くなった約3万人の命も無駄になった。これ以上戦っても無駄だと思った魔王は自らを封印し暗黒郷を守る道を選んだ。暗黒郷は他の街とは違って魔王が生きてる限り結界で守られていて1部の例外を除いて魔族以外は出入りすることもできないし、外から攻撃することもできないんだ。結果的に世間ではあの争いは魔族の進行を防ぐための正義の戦争ということになってるけど私はそうは思わなかった。だから戦争について色々調べて、それでエラに出会った。そこから定期的にエラとあって、話をしてそこでルカの事も知ったんだ。昨日目が合って逃げたのはルカがどれだけ魔族のことを真剣に考えていたのか確かめたかったから。ここまでたどり着いたってことはルカはかなり真剣に魔族のことを考えてるってことだね」
なるほどな。
大体はわかった。
でも今の話だとおかしなところがいくつかある。
「エラが俺に魔王の話をした時、あいつはあたかも勇者に封印されたかのように言ってた。それに魔王が自分のことを自分で封印したのなら勇者を倒したって封印は解けないはずだ。あと俺は暗黒郷の結界を普通に出入りできた。魔族じゃないのに。てことは俺は1部の例外ってことになる」
「そう!そこなんだよ。私もエラと初めて会った時、彼女はまるで勇者が魔王を封印したかのように言ってた。彼女は魔王が自分の力で自分を封印したことを知らないはずないのに。それにルカが何者なのかも気になる。1部の例外については私も詳しくは知らないから…」
とりあえず本人に聞いてみるしかないか。
「私も行くよ。言ったでしょ?これからは一緒に行動する機会が増えてくるって」
葵はそう言って立ち上がる。
仲間が1人増えるのは心強いな。「エラはこの街から出てしばらくしたところにいる。何を隠しているのか突き止めないと。」
エラが隠していることがなんなのか分からない限りエラを支持する訳にもいかないからな。