異変
戦いが始まった。
見た感じ魔物の中にドラゴンだとかそういう強そうなやつはいない。
魔物というのは人や動物を殺して得た生命魔力というものによって進化し強くなっていくらしいが、今回大量発生した魔物達はまだ発生してからそれ程経っていないためそこまで進化していないのだろう。
戦いは見た感じかなり上手くいっていそうだ。
大方の予想では今回の戦いでは上手く行ったとしても1000人程の死者が出るだろうと言われいた。
しかし、今のところ1人も死者は出ていないんじゃないだろうか。もちろん奴隷の方たちも含めてだ。
ほとんどの魔物は後方部隊の魔法使いの上級魔法でやられている。
そして残った魔物達も前線部隊の人達に倒されている。
これ、もしかして俺の出番ないんじゃね。
まぁそっちの方がいいか。
その時、向こうの方からまた何かがやってきた。
人のような形をしているが生きている感じがしない。
あれも魔物の1種なんだろうか。
俺はなんとなく前線部隊の方を見てみた。
するとそこには衝撃の光景があった。
魔物ではなく、人が人を攻撃していたのだ。
仲間割れという感じじゃなさそうだ。
操られていたりするのだろうか。
いや、どうやらそういう訳でも無さそうだ。
多分、魔物になってしまったんだろう。
もし、魔物もゾンビみたいな感じだとしたらありえない話じゃない。
そうだとしたら奥からやってきてる奴らは多分この魔物にやられた人達が魔物になってしまったやつだろう。
「となるとかなり厄介だな」
このまま放っておけば徐々に魔物は増えていく。
俺は最後方にいるからまだ大丈夫だが全滅するのも時間の問題だ。
かと言って今、魔法を魔物がいるところにぶっ放せば被害は魔物だけには収まらない。
おそらく前線部隊はほとんど全滅だ。
さて、どうするか。
後方部隊の魔法使いだって何回も上級魔法を放てる訳じゃない。
「前線部隊を避難させるか」
戦いの前、作戦会議の時にいくつかのサインについて教えられた。
確か撤退のサインは最後方にいる中心班の魔法使いが空に向かって火属性魔法を打てば良かった気がする。
俺はみんなが避難している間に雷雹の詠唱を済ませ、
魔物にぶっ放す。
撤退が遅れればかなりの被害がでるが、全滅するよりはマシだ。
俺は空に火属性魔法を放った。
〜ハリー視点〜
空に火属性魔法が放たれた。
撤退のサインだ。
やっぱりルーカスも気づいたか。
さっきから魔物に攻撃された奴らがどんどん魔物になっている。
このままだとオレらの仲間は減り、魔物の仲間は増える。
「みんな!撤退のサインだ!逃げろ!魔物から攻撃を受けないようにな!」
オレは前線部隊の奴らに呼びかけた。
こういう状況で前線部隊のリーダーであるオレがとるべき行動は仲間を優先的に撤退させることだろう。
そして、さっきから妙に後ろの方から驚異的な魔力を感じる。
前にもこんなことがあった。
確かその時は、能力検査の時。
ルーカスが雷雹の詠唱をしている時だ。
まさか!
「ルーカス、あいつここで雷雹を使う気だな!」
確かに、雷雹を使えばここの魔物は全滅するだろう。
でも、それはオレらにも被害が出る可能性がある。
恐らく、ルーカスはそのことも知っているだろう。
それでもこのまま全滅よりはマシと見たか。
「まずいな。俺もここにいたら危ない」
空が次第に黒煙で覆われていく。
「逃げろ!急げ!」
そう言いながらオレも逃げる。
仲間を助けるのも大事だが自分の命も大事だ。
前線部隊のリーダーであるオレがやられたら集団としての力は大幅にダウンするかもしれない。
そうなれば次の魔物との戦いの時はこれ以上の被害が出る。
確実に、だ。
何よりオレには2人の娘がいる。
そんな娘を残して死ねない。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
オレは全力で走った。
そして空から大きな雷の矢が落ち、破裂した。
オレは、その爆風で吹き飛ばされた。




