危機
そんなこんなで私は魔族のふりをすることになった。
私、七瀬葵は今日だけ魔族だ。
正直に言ってしまえばこの作戦はめちゃくちゃ怖い。
もう泣きたい。
誰かに抱きついて慰めてもらいたい。
どうしてそこまでの思いをしてやるのかって?
それはここが私の父の故郷だからだ。
私の父は魔族で勇者側の人間に殺された。
魔族の子供である私も命を狙われたが何とか逃げてきて今ここにいる。
私は母に似たので羽も角もなかったのがよかった。
そのおかげで逃げ続けられたというのもあるだろう。
私はこの争いが起きてからずっと魔族側の人間だ。
当たり前だ。
誰が父を殺した人達の味方なんてするもんか。
ただやっぱりこの作戦は怖い。
失敗したらなにをされるかわかったもんじゃない。
「あの、話したいことがあるんですけど」
私はそんなことを思いながら作戦を開始した。
私が話しかけたのは近所のテイラーおばさんだ。
普段は優しく温厚な人だ。
「私、ま、魔族なんです!」
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・
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「そうかい。だからなんだい?あんたもうこの街の人間だ。魔族だからって別になにも変わらないよ」
成功した、のかな?
多分そうだよね。
やった!
やったよお父さん!
私、街を取り返したよ!
その時だった。
私は横から急にすごい勢いで倒された。
倒れる時に見えたテイラーおばさんの顔は先程までとは違った命を狙う狩人の顔だった。
さっきまで私の首があったであろう所をナイフが通る。
「急に倒してごめん。残念だけど作戦は失敗だ」
そう言ったのはルカだった。
「おや、仲間かい?まぁいい。両方殺せばいいだけさ」
私は後ろを見る。後ろにはまた別の人がいた。
どうやら私達は囲われてしまったらしい。
「大変なことになっちゃったね」
正直私が想像してた中で最悪の結果だ。
そう思っていた時、
「やめんか。その方達は魔族ではない」
そんな声が奥から聞こえてきた。
私達の所に人がやってくる。
髭を生やした老人だ。
私はこの人を知っている。
この街では彼は結構有名だ。
なんて言ったって彼はこの街のトップなんだから。
ーロベルト・アウベスー
これが彼の名前だ。




