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第六十三話 攻城

「私は、このクラレンドン領を治めることになった伯爵のヘンリーだ。王国に凄腕の魔術師軍団が現れたと聞いていないか」

 他国で通じるかどうかは分からない噂だが、ひょっとしたらと思った。

 四人が一様に首を縦に振る。

 思わず口元が緩んでしまった。

「それは私たちのことだ。貴様らの魔力程度はすぐに看破できる」

 念の為に(そば)に奇襲から戻ってきたマシュー(元脱獄者エジン家郎党)を配している。

 ヘンリーは四人に訊く。

「お前たちの素性を先ず教えてくれないか。嘘は止めてくれ。言いたくなければ名前だけでいい。言葉遣いも改めなくていい」

 端から名乗らせた。

「マーチンです。親父は職人です、徴兵とかで有無を言わせず兵隊です」

「モリスです。親父は庄屋です、次男坊で無理やり兵隊にならされました」

「クラークです。家は貴族でしたが、追い出されました。金がなく、ただ飯食ったら否応なくここにいました」

「ハリスです。……。仕方なく……です」

 三人が素性を明かしたが、四十代と思われるハリスだけは名前しか言わなかった。訳ありだな。四人が生まれたのは真珠を身に着けさせる余裕のある家だったのだろう、望んで兵士になったのではなさそうだ。ハリスもその口だろう。

「この任務にはどう言われて来たのだ? お前たちは魔法を使えるのに」

「逃げた農民を戻す簡単な作業だと言われた」

 マーチン(職人の息子)が答えたが、任務を作業というくらいだ。兵士らしくない。

「魔法は使えるかどうか聞かれなかったですし、検査もされなかったので、それに……、魔法で目立つと本当の兵隊にされるんじゃないかと……」

 マーチン(職人の息子)は兵士にはなりたくないようだった。

 魔法を使えるというのは、貴重なことだ。特に兵士とならば危険任務に就かされる可能性もあるかもしれないと、一般人なら隠したくなるのも頷ける。ほかの三人も本当かどうか分からないが、マーチンの話に自分もそうだというように首を縦に振っている。

 共通するのは四人とも魔法を使えることを明かさず、嫌々ここに来たということか。

「ここは他国に当たるとは思わなかったのか」

 マーチン(職人の息子)モリス(庄屋の息子)はうなずくが、クラーク(家は貴族)ハリス(素性明かさず)は無言。

ハリス(素性明かさず)どう思ったのだ?」

 ハリスが重い口を開く。

「分かっていましたが、どうしようもないです。でも、まさか待ち伏せされているとは思っていませんでした」

 つまり他国だと分かっていたけれど命令に従うしかなかったということか。

 ハリスの話し方から貴族家出身なのは間違いないだろう。

マーチン(職人の息子)は家に帰りたいか?」

「あの領じゃ、ちょっと考えますわ。税が半端じゃありません」

「運上冥加のほかに窓税、戸口税、間口税に人頭税か。私も聞いたが酷いな」

「噂じゃ、クラレンドン領は四公六民になったとお伺いしました」

 クラーク(家は貴族)が問う。

「そうだ。他の税も全て見直しをかけている」

「ノース()()もそうなって欲しい」

 モリス(庄屋の息子)の呟きにマーチン(職人の息子)が大きく首を縦に振る。若い世代はノース()()とは呼ばないようだ。

 この四人からだけでも士気が低かった理由が分かる。

「お前たち、私に協力しないか。クラレンドン領と税を同じすることを保証する」

「本当ですか」

「ああ」

 ヘンリーは力強く言い切った。ハリス(素性明かさず)以外の三人は喜んでいる。ハリスは真贋を見極めようとしているのか、じっとヘンリーを見ている。

「言ったことは守る」

 ヘンリーの笑顔に、ハリス(素性明かさず)が肩の力を抜いた。此奴(こいつ)だけは要注意かもしれん。ヘンリーが言わずともエズラ(家臣・四番・映像記憶)マシュー(元脱獄者エジン家郎党)が気を利かせて対応するだろう。

 騎馬以外の兵士は全員懐柔できた。騎馬の隊長だけは頑として首を縦に振る様子もなかった。他の騎馬の九名の内、五名が自領に嫌気がさしており、四名は日和見のタイプに思えた。特に隊長の副官が使えそうだとマシュー(元脱獄者エジン家郎党)が後で言ってきた。内部事情に詳しいらしい。

 日和見の四名をヘンリーの使者として侵犯してきたノース公国ベリック領へ戻した。ノース公国の兵士の捕虜と国境侵犯した事への補償を求めた文書を持たせている。

 ノース公国のベリック領主の城へ向けて恐竜と伴に進軍を始めた。偵察隊を送りながら、四公六民への税の軽減とクラレンドン兵の強さを宣伝しながらわざとゆっくり進むと、義勇兵を名乗る兵士が続々と集まってきた。

 城を出た百人はいつの間にか千人に増えている。丁度坂を越えようとしていた。

 ヘンリーの後ろから老人の声が聞こえる。

「この坂を千人で進むとは、最初百人で出た際に通った最初の坂は言うならば百人坂だったな。そして国境を出る時は三百人を超えていたから三百人境か」

 バラッド(エジン家の隠居)が感慨深げであった。

「となればこの坂は千人坂か」

 ゴラス(グラス家の隠居)が応じた。


 陽が落ちるころノース公国のベリック城から一キロほど手前に陣取った。ここに来るまで抵抗らしい抵抗はまるっきりなかった。

 明日の朝、宣戦布告し相手が降伏すればそれでよし、しなければ攻城戦となる。

 戦いの方法を確認しようと主だった者たちが集まっている。

 ヘンリーは基本的に今までの戦法を踏襲するつもりだった。夜、魔術でトンネルを造って敵陣に入り込み門の兵を襲い、開門して味方を引き入れるいつものやり方。

「明日は、戦い方を変えませんか」

 エズラ(家臣・四番・映像記憶)が提案する。

「具体的には?」

「その前に、今のベリック城の状況を先日捕らえた隊の副官ベネットから説明させます」

 エズラがベネットをそばに呼ぶ。

「ベネットです。ベリック城は簡単に落ちます」

 いきなりそう言いだした。

 誰もがどういうことだ、と訝しげな雰囲気を醸し出す。

「堀は水もなく空堀です。城門への跳ね橋は人と物資の運搬用にいちいち上げ下げするのは面倒と常時下りたまま放置され、だいぶ前に一度上げようとしたのですが機能しませんでした。門は木製のものがあったのですが、これも往来の邪魔だと取っ払われて今は門番がいるだけです」

 冷静な口ぶり。

「敵が攻め入ればどう対するつもりだったのだ?」

 ボビー(家臣・一番)が訊く。

「城側には敵に攻められるという発想がありません。ノース王国から攻めて行ってもクラレンドン側から攻めてくると思っていないのです。来たとしても簡単に撃退できると考えています」

 このベネットという男は怜悧な質のように思えた。

「見くびられたものだな」

 アレックス(家臣・二番)が片頬を引きつらせる。

「さらに今、城には強兵がいません。全てセントラル王国との最前線へ城主と共に征っています」

「そういうことか。なら戦い方はどうする?」

 ボビー(家臣・一番)が訊いた。

「恐竜がいるようですので、前面に押し出していけばそれで城壁内に入れます。あとは城主のいる居館(きょかん・パレス)に入って代行の息子を拘束すればそれでおしまいです」

 ベネット(拘束した副官)が絵図を出す。

「これが簡単ですが城の見取り図です」

 正門から居館までの道筋が描かれている。居館の内部も記され、二階に城主代行がいると思われる部屋が示されていた。


 翌朝、先に行かせた日和見の四名が城を出てきた。

「ヘンリー伯爵へ、要求を断固拒否します」

 こちらの使者が応答する。

「では城を攻めさせていただきます」

 使者のやり取りが終わった。

 日和見の四名の内、二人が城に戻り二人がヘンリーのもとへやってきた。

「城主代行の息子は横暴です。私たちは彼にはとてもついて行けません」

 二人の戻ってきた理由が分かった。他の二人は色々と(しがらみ)があるのだろう。

 正門前に城兵が揃っている。味方の恐竜が入って行き、吼えるだけで敵兵は崩れた。

 城主代行の息子を捕縛し城はあっけなく落ちた。


 城の食糧庫を見て驚いた。大量とは言えないもののそれなりに備蓄されている。さらに商人の倉庫にも年貢として搾取した作物が保管されていたことが判明した。中央に納める予定のものが発送前だったらしい。

 良かった、これで棄民を救えるとヘンリーは安堵した。ノース公国の都に送るつもりはさらさらない。

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