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第三十九話 捕縛経緯

「ダスマンを確認してもらえたかな」

 ドラモンド(ユーチスバ監獄署長)の言葉にヘンリーたち十名がしっかりうなずく。

「大変な任務だと思うが、よろしく頼むよ。作戦に関することやほかのことはラッセル(第十警ら隊長)に聞いてくれ」

 そこで言葉を切り、みんなを見渡し、

「じゃあ」と言ってドラモンド(ユーチスバ監獄署長)は離席した。

 全員が起立して見送ったが、はてこれでいいのか? この監獄の最高責任者が今、最も注意しなくちゃいけない対応の作戦会議だろう、とヘンリーは理解に苦しんだ。

「申し訳ない、署長はこの後重要会議で外出しなくてはならんのだ」

 ラッセル(第十警ら隊長)は書記のフリーゼと名乗った女性と残っている。

「はあ」

 判然としない(なか)ばあきれたような返答をスミス(大尉)がした。

 ヘンリーも同感だ。接待にでも招かれたのでは、と勘ぐってしまう。いうべきことは言おう。

「本作戦会議以上の重要会議はないはずです。最高責任者が下へ丸投げするようでは、通常業務の遂行に支障が出るのではないですか? それが我々の任務にも影響が出ないとも限りません」

 そう言いながらヘンリーは粗さがしをしてみようと思った。

「例えば出入り業者です。全員身元が確かですか? 出入り口でのチェック、入る時と出る時きちんとできていますか?」

 語調をわざと強めた。

「中身の確認は?」

 敵はこっそり武器を搬入しかねない。

「そして二重での確認ができていますか?」

 一カ所ましてや一人での確認では不正が簡単にできてしまう。これは監獄内部にかかわる微妙な問題。

「ヘンリー先走るな」

 スミス(大尉)が強い口調で制する。

「すみませんでした」

「今からの作戦会議の内容は私が責任もって署長に報告します。それで収めてもらえませんか」

 ラッセル(第十警ら隊長)が下手に出た。

「分かりました」

 ヘンリーの了解の返事をスミス(大尉)が、まるで出来レースのごとく笑顔で引き取ってくれる。

「では、始めようか。先ずは疑問点を明らかにしたい」

 会議はスミスとヘンリーのペースになった。主導権を握れた。

「ダスマンを捕縛した経緯をお伺いしたい」

「それは……」

 スミスとヘンリー二人が圧をかける。

「ここだけの話にしてください」

「無論だ」

「今回は通称マル暴の第四警ら隊ではなく、第一警ら隊が行った作戦です」

 第四警ら隊(マル暴)は暴力組織の犯罪を取り締まる強面の集団と知られている。

 第一警ら隊といえば、肩で風切る一警という噂を聞いたことがある。警ら隊の花形、それに引き換えラッセルの第十警ら隊は監獄が主たる業務、警ら隊員にとっては天と地の差があるのは容易に想像できる。

「今までダスマンの居場所が特定できず、捕まえようとしても出来なかったのです。ガセネタばかりで空振りばかりが続きました。遂に捕まえたと思っても他人の空似。影武者と(おぼ)しきこともあったそうです。たしかな情報のはずですら、踏み込めどそこには目当ての人間はいない」

「情報漏れか」

「多分そうでしょう」

 相手の組織力が高い。

「ダスマンの居場所さえ分かれば捕縛し、タバコなど麻薬類の販売による『麻薬等覚醒剤取締法違反』という罪で裁けます。この刑法は我が国では重罪、最高刑が執行可能です。被害者と売人は確保してあります」

 刑自体が重い。少なくとも闇タバコで極刑は考えものだ。施行当時からタバコからアヘンまで十把一絡げで変えていないように思う。

「用意を整えたうえで、四警から一警に担当部署が変わったのだな」

「はい」

 四警の頭脳では太刀打ちできないと判断されたのかもしれない。

「一警が目を付けたのがダスマンの娘。学院附属の小学舎に通っていたのです」

 ヘンリーの後輩にあたる。ということは、娘は魔力持ち。

「それも寄宿舎に入っていました」

 それもヘンリーと同じ。その娘が寄宿舎を選択した背景には親の仕事の関係があったのだろうか。

「一警の計画は周到でした。まず、娘の行く美容室に、そのぉ……協力してもらって、彼女の毛髪を手に入れました。そして娘の友人の父親を、男爵家なんですが、口説き落としました」

 娘を出し(だし)にしたのか、あまりいい気はしない。

「男爵令嬢は言葉巧みにダスマンの娘を別荘に招待しました。丁度祭日が重なり四連休という都合の良い日程が組めたようです」

 学校は休みだから、寄宿舎にいてもいいし外出してもいい。

「一警はその間に街の不良たちを動員しダスマンのいる可能性のある場所に娘の毛髪と手紙を置かせました」

 髪の毛は魔力持ちならではの色付き、その為に美容室を『協力』という名で抱き込んだ。ひょっとすると弱みをつついて脅したのかもしれない。第一警ら隊は直接手を出していないが、卑怯な手だ。

「その手紙には、

『娘の命が惜しければ、指定日時に指定場所に一千万持って一人で来い』

と書いてあったそうです」

 一千万は街の不良たちが提示するには絶妙な金額といえる。

「娘の髪の毛と寄宿舎にいないことを確認したダスマンは、諦めたのでしょう。一人で現れたそうです」

 一警からの情報漏れはなく、目論見通りといったところか。

 でっち上げた誘拐にダスマンはまんまと嵌まった。何をしでかすか分からぬ無軌道な若者相手、と思うと半信半疑ながら従うしかなかった、のかもしれない。

「一警は捕縛以外に動いていません。美容院と男爵と街の不良を舌先三寸でそそのかしただけです。それが捕縛の真相です」

「決して褒められたやり方ではないな」

 スミスが苦虫をつぶしたような顔をした。

 ヘンリーは、手を汚さず自分の立てた作戦がまんまと上手くいったと、ほくそ笑んでいる奴が好きになれそうにない。頭がいい奴なのかもしれんが、まともな発想をしていない、ひねくれた考え方をする人間にはついていけない。

 ダスマンは必要悪ではなかったか。闇タバコ事業を、法律を盾に取り、策を弄し捕らえる意義があるとは思えない。無垢な娘さんまで巻き込むとは、出世亡者の点数稼ぎか、ダスマンに個人的恨みでもあったのか、とすら思う。

「ダスマンの娘さんはその後どうしているのですか」

 ヘンリーは気になっていたことを訊いた。

「家に戻っています。学校は休学中と聞きました」

 一人の少女の将来が変わってしまった。変えたのは市民を守る警ら隊であることにヘンリーは割り切れなさを感じる。

「先ほど接見室で弁護人が話していた件ですが、ラッセル(第十警ら隊長)さんは聞いていましたか」

「監視室で聞いていましたよ」

「本当のことなのでしょうか」

「おおむね、その通りと言って間違いありません。ただダスマンがいなくなったとしても我々がしっかりしていれば麻薬禍が広がると思いません」

 ということは警ら隊が怠慢ならばタバコ以外の悪質な麻薬までが蔓延(はび)り、国の生産力が落ちるということだ。

「教育については政治の問題なので私には分かりかねます」

 後釜に座る人次第ということか。

 この国の政治には期待できないのだろうか。今の王家は無能なのか? 議会はどうなのだろうか? 軍人になって三年目を迎えるヘンリーだがこの二年(いくさ)に関わることばかりで政治のことは全くと言っていいほど関心をもつ余裕がなかった。ラッセル(第十警ら隊長)の言葉からするとどうもダスマンは教育に関しては弁護人の言った通り正しいことを行っているようだ。

 この国の将来が少し不安になる。

 任務としてやるべきことはやるつもりだ。ただし正しいことだと納得して遂行したい。このままではどうだろう、わだかまりが残りそうな気がする。

 タバコなど麻薬類を扱うことは罪である。裁判で判決を受けるべきだ。その結果は自分のあずかり知らぬことである。ダスマンの善行を代わるべき人間がいて、国の制度が充実すればよい。悪行は正すべき組織がしっかりすべき問題である。そう無理やり自分の気持ちに折り合いをつけるしかないようだ。

 腕を組んだスミスと目が合った。細めた目、厳しい表情をしている。

 悩んでも仕方がない、ヘンリーは立ち上がった。

 そして、今考えていたことを話した。そして、

「私たちの任務は、ダスマンが裁判で判決を受け、刑の執行まで誰にも奪われないことだ」と冷静に話した。

 心の中でダスマン後の社会が、上手くいく確率は低いだろうな、と思いながら、任務遂行上いたしかたないことだと割り切った。

 それにヘンリーにはダスマン自らが脱獄を企てるとは思えなかった。そこまでしたら本格的に裏社会と表の社会との戦いになるのが読めているはずだ。抗争になれば社会生活に影響が生じ、弱者、貧しい人々が一番の被害者となる。ダスマンが最も望まないことだと容易に想像できる。また一味の人間が奪還に来ても無理だと思っている可能性が高い。成功すれば、その際は脱獄するだろうが、ダスマンの積極的な意図はないと国も判断するだろうから表と裏の全面的な戦いは避けられるはずと踏んでいるに違いない。こちらとしては脱獄と奪還が成功しないように努めるだけだ。

 みんなの反応を窺う。誰もがやむを得ないという顔つきをしている。

「そう言っていただけるとありがたい。何とか脱獄の阻止と襲撃への対処をお願いしたい」

 ラッセル(第十警ら隊長)が頭を下げた。

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