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第三十四話 『テオ・ベル』ファッション

 その日、ヘンリーはというと、朝一番で外出許可を取り、調髪と赤色に染めてもらうため近場の床屋、赤・白・青三色看板の店『ダイニ』に向かった。昨日フィン(二年目の伍長)に教わった店だ。フィンによると王城内にも床屋はあるが、「高くて融通が利かなくて、昔ながらの髪型しかできないから行かない方がいいですよ、行くのなら、この近辺だと『ダイニ』。今風に仕上げてくれ腕も確かです。赤・白・青の三色が縞模様のねじり棒の看板が目印です」と言って紹介してくれた店だ。

 軍に入るまで髪は生まれながらの赤色、染める必要がなかったのが、面倒なことだ。生まれて初めての毛染め体験になる。これからは髪の色を意識しなくちゃいけないのか、と思うと億劫だ。

 軍において前線で敵と対峙する魔術師が自分の魔法適性を知られるのは得策ではない。特に防御服を物ともしない希少魔法となればなおさらである。魔術師団は魔法を使えるのが前提なので、自分の適性以外の色に髪を偽装用に染めるのが一般的で、ヘンリーのように四種全ての場合は、何でもよいが、希少魔法の金銀(あかがね)そして紫の色は避けた方がよい。銀のメッシュは雷の魔法の使い手の多いサンダー領ならいざ知らず、王家領ではお洒落とみなされるが、ヘンリーは隠すことを選択した。今まで、本当の最前線、髪の毛など些細なことと誰も指摘しなかったのだろう。あの場で毛染めと言われても二の次三の次にならざるを得ない状況だった。

 王都に常駐する近衛それも支援師団の女性、クーツ嬢のような方は髪染めまで気にする必要がないのであろう、金色のままだった。

「一年分切ってくれ。それと赤に染めてくれ」

「髪型はどうしますか」

「軍人らしいカットで頼むよ」

「では、テオカットにしましょうか」

「そのテオカットはどんな髪型なのだ」

「基本は角刈りです。サイドを短く刈り上げ、前髪から頭頂部までの髪を残す髪型です。何でもヘルメットがかぶりやすい利点があるとのことです」

「短髪か」

「ええそれじゃまずいですか?」

「それでいい」

 今後前線に出れば、床屋はない。自分で染めることを考えたら短めの方がいい。

 ニイダと名乗った理容師はお喋りの三十代の男性で、『テオ』とは現代風ファッションをする若い男性のことを指すと教えてくれた。それに対し女性はベル、いずれも流行らせた人の名前でテオとベルはカップルだったそうだ。

「ベルが身につけるのは膝下丈のスカートか裾が広がったズボンやサーカスのピエロみたいに裾だけがキュッと絞られたズボンで、髪型はショートでフィンガーウェーブといって髪の表面になでつけたような『うねり』があるのが特徴です。もしくはミドルで片方耳掛けの大人女子」

 一瞬クーツ嬢のことが頭をよぎった。

「ブロンドにする方もいるようですが、それはちょっとやり過ぎ感があると思っていますがね。実際に金の魔法を使えないのにお洒落でやられちゃあねえ」

 同意を求められても困る。曖昧にうなずいた。

「テオは何と言っても髪型と裾が短めで足にピタッとしたパンツですね。お客さんのように痩せてなきゃ(さま)になりません。そんな出で立ちでさっそうと繁華街を歩くのが流行っているのですよ。通称テオ・ベル族ってみんな呼んでいます」

 まあ、ヘンリーには無縁な世界だ。そう言われてみれば学生時代に変なファッションをした男女がいた。今思うとテオ・ベル族の走りだったのかもしれない。

 長かった髪がカットされ床に落ちてゆく。短い髪が染められ、顔を当たってもらった。

 出来上がりに満足した。この髪型になって学生時代に変な服を着た奴らと同じだと認識した。でも悪くない。

「ありがとうございます。またおいでください」

 『ダイニ』のニイダは丁寧にも扉を開けて送り出してくれる。

「ああ」と答え、目尻を下げ謝意を込めて片手拝みに店を出た。

 外に出るとすうーと頭部が涼しくなった。朝出て来た時は感じなかった冷気。陽が高くなり気温は上がっているはずなのに、どれだけ長い髪をしていたのだろうか、と自分に驚く。

 散髪を終えさっぱりしてヘンリーは部屋に戻った。

 そして、せっせと手紙を書いている。北部方面基地に寄った際に婚約者のルナからの手紙が届いていたのだ。さすがに最前線までは配送されず、三通留まっていた。

 気になった内容は、第一報の大勝利の後、新聞報道で詳細が知らされたが、兵師団が大活躍した記事ばかりで、魔術師団の戦いぶりがどこにも載っていなくて寂しい思いをしていると、(したた)められていたことだ。

 今回の大本営発表『恐竜夜襲大作戦』はいい加減だ、真実は『ダイナソー作戦』といい、その成果を打ち明けたいが、まだ早い。書いても検閲に引っかかるのが関の山。後日最終報告があるのでそれまで待って欲しい旨を書いて投かんした。王都にいるのだから一度会ってみたいと思っても……まあできないな。許可を得ようとしてもその理由が、婚約者に会いたいから、なんて承認されるはずもない。

 一度も会えない婚約者、黒いシルエット姿しか思い描けないもどかしさが募る。


 夕飯前に部下たちが魔術師の資格試験の結果を報告しにきた。魔術師団では資格取得が奨励されており、結果も当日のうちに判明する。ただし正式な資格証は後日受け渡されることになっている。

「全員が合格しました。隊長のおかげです」

「魔力量も全員各適性の点数がアップしていて、余裕で合格ラインの十二点を超えていました」

 ボビー(准尉・一番上)アレックス(上級曹長・二番)の嬉しそうな声。目元、口元にも喜びがあふれている。後ろに続くみんなも同じだ。

 毎日、鍛錬した成果が出たようだ。特に|若い軍曹のエズラと伍長の二人オーリーとフィンは適性のある()()魔法二種で満点の二十点を記録していた。

「実技も各魔術で五十メートル問題なくクリアしました」

 魔術師資格の実技は火、水、風は五十メートル先の的を十秒間当て続け、土は五十メートル先まで影響を及ぼせれば合格、希少魔法は初級魔術を発動できればよいとされている。筆記試験は、免除対象に兵学校卒業が入っている。

「おめでとう。これからもよろしく頼むぞ」

 ボビー(准尉・一番上)アレックス(上級曹長・二番)が三種、カレブ(曹長・三番)が二種、エズラ(軍曹・四番)が三種一プラス、オーリー(二年目の伍長)が二種、フィン(二年目の伍長)が三種一プラスの合格である。

 資格のレベルは合格基準を超えた適性魔法の種類数を表し、プラスは金銀銅そして紫の希少魔法が使えることを示す。ヘンリーは基本四魔法と銀、銅の六種二プラスである。最高は八種四プラスだが、そんな人物は聞いたことがない。

 麻痺の魔術を習得させるにあたり、ヘンリーから部下に銅の魔力を供給して、マスターさせたのだが、ひょっとしてという期待通りに、ありがたい副産物もあった。全員が銅の魔力の適性がついていたのだ。元々銅の適性があったエズラ(軍曹・四番)は予想通り資格を取得し、フィン(二年目の伍長)にも水と土以外に銅の魔力も合格基準を超える力が身についていた。二人とも努力を怠らず戦場で鍛えた甲斐があったおかげで銅の資格取得にたどり着いたのに違いない。他の四名は、銅は麻痺の魔術を公にしていないので初級魔法が使えず合格はおぼつかなかったものの魔力検査で適性有りと判定されていた。ヘンリーからの供給により一旦銅の魔力の道が通ると適性がなくても発現し、あればスムーズになりより強くなるのかもしれない。これは人には軽々しく言えない、秘密にした方がよさそうだ。

「聞いてくれ、銅の魔力が発現した件についてだ。その理由は麻痺の魔術を習得したことがきっかけだと分かっているだろうが、このことは秘密にして欲しい」

「「「「「承知しました」」」」」

 元気よく応えてくれた後、全員が晴れがましい顔で四十五度の最敬礼を返してくれた。

 ボビー(准尉・一番上)によると、検査官に不思議がられたので、「今まで測ったことすらありませんでした。エズラ(軍曹・四番)が銅の適性持ちだったので、たまたま自分たちもどうだろうと測ったら、この結果だったのでこちらの方が驚いています」と口裏を合わせたらしい。


 夕飯は食堂ではあるが費用はヘンリー持ちでみんなの合格を内輪でささやかなパーティで祝った。魔術師試験とヘンリーの髪型で話が(はず)む中、高級そうなワインが差し入れられた。若い当番兵がヘンリーの部屋へ持って行ったら留守で【食堂】とドアノブ札が掛かっていたので気を利かせて持って来てくれたようだ。

 贈り主を訊くのが怖かった。

「近衛支援師団長付副官クーツ様からです」

 受取りたくなかったのだが……。

 目ざといフィン(二年目の伍長)が見逃すはずもない。

「超高級品、一度飲んでみたかった」

 みんなが声をあげ手を叩いて盛り上がる。

 こうなれば、封を開けざるを得ない。

 どれだけ高くつくやらと思うと気が重くなるのを、なんとか笑顔で隠した。

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