27.たのしいお茶会
幸せそうにお菓子を頬張り、次々と胃におさめていくシンクを眺める。
愛くるしい顔立ちとあいまって可愛いの相乗効果だな、などと斜め上に飛ぶ思考にはそっと首を振り、私もいちごのタルトをひとかけ口に運んだ。
「おいしいね!」
「うん、おいしい」
……なんでシンクってこんなに可愛いんだろう?
「あ」
「どうしたの?」
「シンク、クリームついてるよ」
「え、どこどこ?」
「このあたり」
「ここ?」
「もうちょっと左かな」
「じゃあこっち?」
「残念、行き過ぎ」
「むむむ……お願いケイト、クリームとって?」
「えー」
大きな紫水晶の瞳をきゅるんとさせ、シンクがあざとくおねだりをしてくる。
うーん、半年ぶりとはいえども、ひどく懐かしいやり取りだ。ちょっとだけ不満げな声を上げるものの、シンクに甘えられているのだと思うと満更でもない。
仕方ないな、なんて少し身を乗り出して。
「おいシンク、それくらい自分でやれよ」
「あっ」
「あああああ! 馬鹿! 馬鹿サイス! せっかくケイトがやってくれようとしてたのになんでサイスが取っちゃうの!?」
「馬鹿はお前だ馬鹿シンク」
「残念でした〜、ぼくの方がサイスよりずーっと頭がいいもんね! 天才にかなうだなんて驕っちゃ駄目だよーだ!」
「そのガキっぽい態度をやめて出直してこい!」
「うぎゃ! いったーい!!」
私がクリームをとるより早く、颯爽と現れたサイスがぐいっと乱暴に拭き取ってしまった。
まさか三人揃うだなんて思ってもいなかっただけに呆然としてしまう。
そんな私をよそにシンクとサイスは子どもみたいな応酬を繰り返し、サイスに頭を叩かれたシンクがえーんえーんと嘘泣きを始める。なんだこれ。
「わーん、ケイトー! サイスがいじめてくるよぉ! ぼくの方がお兄ちゃんなのに弟がクソ生意気だよー! うわーん!」
「この僕の兄を名乗るならもっとちゃんとしてから名乗れよ! かわい子ぶりっ子してるシンクにだけはクソ生意気とか言われたくないね! この腹黒!」
「……えー、あー」
本当になんなんだこれ。
一気に混沌と化したティータイムに私の戸惑いが最高潮へ達し、──ふと気付いた。
(よくよく考えれば、元々これが普通だった)
私があの人と婚約し、サイスがお茶会に姿を見せなくなるよりも前……定期的に三人で集まって話をしていた頃は、なんとこの混沌が当然だったのである。
今更ながらそれに気付いて戦慄する。
数年ぶりの三人でのお茶会なのに、私たち、まったくもって進歩がないのか……!
「ねぇケイト、聞いてる!?」
「おいケイト、聞いてるのか!?」
「……わかったから、二人ともいい子に座って……」
☩
話によれば、サイスは養父に呼ばれて来たらしい。
婚約破棄騒動でどさくさに紛れて求婚してきたことだとか、暴力沙汰のこと、あとはサイスの目から見たマイク・ハミルトンの浮気について訊きたいと言われたそうだ。
まあ、うん、確かに。求婚に関しては呼び出されてもおかしくない理由なので納得である。
わざわざサイスを学院から引っ張ってきて、ソレール家の別邸で話をする理由についてはいまいち理解できないが。
学院の応接室を借りるとか方法はあるだろうに、あそこでは話しにくい話題を出すつもりなのだろうか?
そう、例えば、わたしたちの出生をあの人が知っていたことについてとか。
恐らくだが、養父はその件についての確信が欲しいのかもしれない。
ハミルトン家がわたしに婚約を申し込んできた理由。
それを明確にし、ハミルトン家とあの施設──研究所の関係を明らかにすることが、皇帝陛下から与えられた養父の仕事の一環なのだろう。
施設の責任者も研究員もすべからく死に絶えているが、支援者についてはまだ明らかになっていない者も多いと聞く。
生命を造る、という最大の禁忌を犯した皇国の汚点たちを粛清すべく、もしあの家が支援者であったのなら決定的な証拠が欲しい……というところかな。
私が婚約することになったあたり、あの時点でかなり信憑性のある情報を得ていたのだろうと察せられる。
ずいぶん面倒な手順を踏むものだ、と思う。
同時に、どうしてもっと早く教えてくれなかったのかとも。
最初から私に教えてくれたなら、こんなまわりくどいことをせずとも情報を吐かせたのに。
ハミルトン侯爵も夫人も一人息子に甘すぎる。
それすなわち息子があの人たちにとって最大の弱点ということで、弱点を利用しない手はなかろう。
二人の前で息子を存分にいたぶり、本人たちにも拷問のひとつやふたつ行えば、簡単に口を割ってくれるはずだ。
許してもらえるなら私が手ずからやったっていいし、むしろやらせて欲しいとすら思う。
シンクや、サイスや、あの子たちを傷つけるヤツなんて要らない。トレイたちを死なせたアイツらを、生かしておけるはずがない──
「だめだよ、ケイト」
真っ赤に染まった思考に、ハイトーンボイスが歯止めをかける。
おおきな瞳がきらきら輝きながら、私の暗い部分を見透かし、照らして。
「シンク、でも、」
「でももへったくれもないの! せっかく久しぶりに三人揃ったんだよ? 今はぼくたちのこと以外、考えるの禁止!」
「むぐ」
食い下がる私の口へ、シンクがオペラを押し込んだ。
「ケイト」
「?」
「君はシンクと一緒になって、甘ったるいお菓子で馬鹿みたいにゆるい顔してればいいんだよ」
「ちょっとサイス、それどういう意味ー?」
懲りずに言葉の応酬を始める二人を眺めながら、もぐもぐと口を動かす。
舌の上でほろ苦いクリームとチョコレートの甘さが絡み合い、凍りかけの心を包みこむようにあたたかく染み込んだ。




