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牆壁

作者: Re:over


 届いていた封筒の束を机に広げ、ペーパーカッターで裂いていく。それらの中には手紙と小切手が入っている。手紙の内容は気色の悪い偽物の好意を羅列しているだけだ。小切手はただの金持ちアピール、こんなもの捨てる価値も燃やす価値もない。


 十数通開封したところで、異質な手紙が混じっていることに気がついた。


 宛名も切手も何もない。不思議に思い、他の封筒よりも丁寧に封を切る。中には素朴な好意が綴られた手紙と、白のカスミソウが押されたしおりが入っていた。なんでも、私はその人のことを助けたことがあるらしい。思い当たる人物はいるが、その人は女性であった。父親が同性婚を許すとは思えない。そう思いつつも携帯電話に手を伸ばす。


 十三件の着信履歴があったが、それらは無視して父親へ電話をかける。


 その思い当たる人物というのは、学園時代に気になっていた人だろう。あの時は自分の気持ちを勘違いや気のせいという言葉で片付けていたが、今、この手紙としおりを手にしてこれが恋でないわけがないと確信してしまった。等身大の気持ち、手作りのしおり。私にとっては数億円分の小切手よりも嬉しい贈り物だ。しかし、身分も性別も住んでいる場所さえも私たちの牆壁しょうへきとなる。


 呼び出し音が鳴っている間は彼女の好きだったところを思い出していたが、思い出は何の役にも立たなかった。父親は全てを否定し、拒み、受け入れなかった。挙句、まだまともな恋人も見つけきれていないのか、と怒鳴られた。


 耳を塞ぎたい。でもちゃんと相槌を打たないと余計に叱られる。父親の言葉は私の価値観に蝋を落とす。


 ようやく父親の声調が落ち着き、通話が終わる。一先ずため息。肩の力が抜ける。瞳の輝きを一つ失った気がする。


 心に染み付いた父親の言葉を拭えず、散らばった封筒へ目を向ける。自己に溺れ、偽物に塗れ、欲望に溢れた紙切れたちは鋭利で、慎重に扱わないといけない。毒蛇に巻き付かれ、首に牙を当てられているような錯覚に陥った。


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