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短編

俺の目の前に現れたのは神様の妻と娘だった?!

作者: 神通百力

 俺には小説を書く才能がない。総合評価も低いし、一番高いのでも129ポイント程度しかない。それに賞に応募しても一次選考すら通過できない惨敗ぶり。

 仮に天才や鬼才のストーリー構成力が10、演出力も10、発想力も10だとして、凡人のストーリー構成力が5、演出力も5、発想力も5だとした場合、俺はストーリー構成力も演出力も発想力も1くらいしかないだろう。

 総合評価の低さや何度か賞に応募するも一次選考すら通過できない事実を考慮すると、1が妥当ではないだろうか。『そうだ! そうだ!』と叫ぶモブキャラたちのやじが聞こえてくるぜ。

 それにしてもどうして俺は何の才能もないのだろうか。才能がある人が羨ましい。埃程度の大きさでいいから与えて欲しかったね。

 はっ! もしや俺は前世で神様の奥さんを略奪でもしたのだろうか? 奥さんのみならず、娘もたぶらかしたのかもしれない。神様は怒り狂い、『生まれ変わっても、貴様には何の才能も与えん! 無能にしてやる!』なんてことが? まあ、神様なんていないけど。

 おや、近くから足音が聞こえてくるぞ?


「久しぶりね。あなたに前世の記憶があればの話だけど」


 いつの間にか女性が立っていた。輝いているようにさえ見える黒髪に透き通った肌。この世のものとは思えないほどに美しい女性だった。

「あなたはいったい?」

「私は神様の妻――アリファ・マキナティア。そして前世のあなたと愛し合った女よ」

 そう言って女性――アリファ・マキナティアは笑った。なんと本当に神様の奥さんと愛し合っているとは思わなかった。

「まさかあたしのことも忘れてるわけじゃないでしょうね」

 いつの間にやらアリファの隣に可愛らしい女の子が立っていた。目つきが鋭く、見るからに気が強そうだった。

「分かった。君は水しょ――」

 喋っている途中で女の子に関節技を決められ、最後まで言えなかった。

「やっぱり前世の記憶はないのね。あたしは神様の娘――ルリエラ・マキナティア。ママと同様、前世のあんたと愛し合った仲なの」

 俺に関節技をかけながら、女の子――ルリエラは自己紹介した。だが、そんなことはどうでも良かった。今重要なのは痛みから解放されることだった。

 俺は手を伸ばし、ルリエラの胸を思いっきり揉んだ。

「きゃあっ」

 ルリエラの力が緩んだ隙に、俺は関節技から逃れた。すぐさまファイティングポーズを取り、身構えた。

「もうママの前で……バカ!」

 ルリエラは顔を真っ赤にし、叫んだ。そんな娘をアリファはにこやかな表情で見つめていた。娘の胸が揉まれたのに、にこやかにしていていいのかと思わなくもない。

 そう思っていると、どこからか途轍もない殺気を感じた。


「貴様! 娘の胸を触るなどけしからん!」


 怒号とともに現れたのはどことなく神々しさを感じさせる男だった。端正な顔立ちで黒髪が輝いている。

「娘ってことはあんた神様か」

「そうだ。私がイケメン神様のジーク・マキナティアだ」

 誰もイケメンなんて言っていない。

「生まれ変わっても私の妻と娘をたぶらかすとは懲りない奴だ」

「別にたぶらかしてなんか――」

「言い訳など聞く気はない」

 神様――ジークは俺をギロリと睨みつけた。

「貴様にはお仕置きが必要だな。――神の忠実なる兵士ゴッド・オブ・ソルジャー

 ジークが右手を前にかざした瞬間、地面が光り輝き、剣と盾を携えた兵士らしき異形が現れた。鎧の隙間からは爬虫類を思わせる鱗が覗き、優に数百体以上はいそうだった。

「ここは私たちに任せてあなたはエッセイに専念しなさい!」

 アリファは叫ぶと、ルリエラと共に俺を守るようにして兵士たちの前に立ちはだかった。

炎の雨(フレイムレイン)

 アリファが左手を上空に向けた瞬間、真っ赤に燃え盛る炎が雨の如く降り注ぎ、兵士を焼き尽くした。

「さすがママね。それじゃ私も――雷独楽ライジングスピン

 続いてルリエラが雷を独楽状に形成し、兵士に向けて放った。雷独楽は不規則に動き、兵士に直撃して吹っ飛ばした。

 その光景を眺めながら、俺はアリファが言ったようにエッセイに専念することにした。

 小説や漫画のあらすじを読むと……ジジジジ……己の無能さに打ちひしがれる。あんな魅力的なストーリー……バチバチ……は思い付けない。ありがちな……ドカバキ……ストーリーすら書けない。

 名言や名シーンも……バチバチ……一切ないし。俺には何もない。あるのは性欲……ジジジジ……ええいくそ、エッセイの中に戦闘音が乱入してきやがる。これじゃ集中できん。こうなったら俺も戦闘に参加するか。

 俺は手ぬぐいを頭に巻いてざるを両手に持つと、どじょうすくいを踊った。

「へへっ、どうだ、まいった――」

 言い終える前にアリファとルリエラが俺を蹴り飛ばした。ひょっとこの顔を維持したまま俺は不様に倒れた。

「……何もない俺にはこれしか」

 俺は立ち上がりながら呟いた。

「全然できてなかったけどね。ハミチンしてたし」

「え? 出てた?」

「何で嬉しそうなの」

「どのくらい? 一割、二割……やだ、もぉ」

「こっちがやだなんだけど」

 ルリエラは呆れたようにため息を吐いた。アリファも呆れた表情を浮かべていたが、どことなく嬉しそうだった。

 ジークの方にちらりと視線を向けてみると、こめかみがピクピクと動いていた。かなり怒っているようだった。

「……もう三分は経過した。あと二分ほどで神の忠実なる兵士ゴッド・オブ・ソルジャーの戦闘力はお前たちとあまり変わらなくなるぞ」

「は? 戦闘力? どういうことだ」

神の忠実なる兵士ゴッド・オブ・ソルジャーは時間が経過すればするほど戦闘力が上昇するのよ。五分ほどで私たちと同じくらいの戦闘力になるの」

 俺の疑問にアリファが答えた。ということは会話している間にも戦闘力は上昇するわけか。

「五分経過する前に倒したかったのに、あんたがふざけるから!」

 ルリエラはギロリと俺を睨み付けた。本当にルリエラは前世で俺と愛し合った仲なのか甚だ疑問である。

「あと二分も残っているんだろ? 残り二分で倒せばいいじゃないか」

「三分も経過してるんだから、そう簡単に倒せないの! あんたはエッセイのことだけ考えていればいいから、邪魔だけはしないでね」

 ルリエラはそう言うと、兵士に向かって雷独楽を放った。だが、兵士は盾でいとも簡単に雷独楽を防いだ。

 兵士はルリエラたちに任せることにして俺はもう一度エッセイに専念することにした。

 幅広い作風や……バチバチ……ジャンルも書けない。頭も良くないし……ジジジジ……頭脳戦や心理戦は無理。ましてや……バチバチ……難解な話とか絶対に不可能。

 ユーモアセンスもないし……バチバチ……文章力もない。俺の総合力は−273(あれ? 絶対零度並み?)……ジジジジ。

 さっきも書いたが……バチバチ……俺にあるのは性欲……ジジジジ……ええい、やはり戦闘音が気になってエッセイに集中できない。

 どうしたものかと思っていると、野太い唸り声が聞こえた。


「グガァアアアアア!」


 いつの間にか漆黒のドラゴンがいた。この世の黒を凝縮したかのような色だった。なぜか巨大なギターを肩から下げている。

「俺の名は〜月皇鬼龍げっこうきりゅうザンギアス〜」

 漆黒のドラゴン――月皇鬼龍ザンギアスは弾き語り始めた。しかもギターが引くほど下手くそだった。

「俺は宇宙最強〜弱点なんかありはしないんだぜ〜」

 月皇鬼龍ザンギアスは目を閉じて気持ち良さそうにギターを弾いていた。さてはこいつ、ナルシストだな。

「俺にかかりゃ女なんてイチコロだぜ〜あのバッグ買って〜高級レストランに連れて行って〜女共は何かと俺を頼る〜」

 いいように利用されているだけじゃねえか。ドラゴンがレストランに行くことには驚いたが、明らかに月皇鬼龍ザンギアスは女にATMとしか思われてないな。

 俺はため息をつきつつ、チラリとルリエラたちを伺った。表情から察するに俺と同じことを考えているようだった。

「俺のフェロモンは〜どんな女も落ちるほど強力なんだぜ〜お父さんと同じ臭いがする〜女共は必ずそう言う〜」

 ただの加齢臭じゃねえか。そんなのはフェロモンとは言わん。断じてな。っていうかこいつ、思いの外、年くってんな。ドラゴンはかっこいいイメージがあったのに、いろいろと残念だ。残念系イケメンならぬ残念系ドラゴンといったところか。

「最近、枕が臭くて目が覚めることが多い〜これが加齢臭ってやつなのか〜悲しくて涙が止まらねえ〜」

 加齢臭って自覚はあるのかよ。

「〜誰か涙を止めてくれ〜俺の名は月皇鬼龍ザンギアス〜」

 月皇鬼龍ザンギアスは締めを括るかのようにギターでジャンと弾いた。満足そうな表情を浮かべていた。

「センキュー」

 不快極まりない下手な口笛を吹きながら、月皇鬼龍ザンギアスは帰っていった。弾き語るだけ弾いて帰りやがるとは。何がしたかったんだ、あいつ?

「はっ、しまった! サイン貰っとくんだった」

 ルリエラは頭を抱えて項垂れた。目尻に涙も浮かんでいた。

「何だ? 有名な奴なのか。まさかコメディアン?」

「いや、奴は天界でも有名なアーティストだ」

 ジークが色紙に何かを書きながら、俺の疑問に応えた。いつの間に色紙を取り出したんだ。

「アーティストだって? ドラゴンなのに? それよりあんたは色紙に何を書いているんだ?」

「天界にも人間界と同じように多種多様な職業があるんだ。そしてこれは月皇鬼龍ザンギアスの代わりにサインを書いている。ルリエラにあげるためにな」

「ブチ切れられると思うけど」

「そんなことはない……さあ、ルリエラ、パパが代わりにサインを書いてやったぞ」

 ジークは笑顔で色紙をルリエラに渡した。チラリと覗くと、ミミズがのたくったような汚い字で『月皇鬼龍ザンギアス ルリエラへ』とサインが書いてあった。

「こんな汚い字のサインなんかいらないわよ!」

 ルリエラはギロリとジークを睨み付け、色紙を叩き付けた。

「パパの渾身のサインを……仕方ない。お前にやる」

 ジークはため息をつきながら、色紙を拾い上げ、俺に渡した。

「……あんたにやるよ」

 俺は笑顔でやりとりを見ていたアリファに色紙を渡した。

「私に? 別にいらないんだけど。まあ、オークションで売ればお小遣い程度にはなるかもね」

 アリファはそう言うとクスリと笑った。つられて俺とルリエラも笑い声をあげた。

「神様のサインを何だと思ってるんだ! そんなの一円の価値にもならんぞ! 汚い字で月皇鬼龍ザンギアスって書いたからな。すぐに偽物とバレる。自分の名前を書くんだった」

 ジークは額に手を当てると、大袈裟にため息をついた。

「まあいい。いらないなら返してくれ」

 ジークはアリファに向けて手を出した。アリファは頷くと、色紙をジークに返した。色紙を受け取ると、ジークはじっくりとサインを眺めた。

「なかなか味わい深いサインじゃないか」

 ジークは自分のサインを自画自賛した。

「どこが? 字が汚いだけじゃないか」

 俺は呆れながらそう言うと、ジークはギロリと睨み付けてきた。一瞬の間の後、十数体の兵士が近付いてきた。

「なっ?」

 思わず身構えた俺の全身を兵士はこちょこちょし始めた。

「ひゃひゃひゃ……やめろ!」

「地味に嫌な攻撃だろ」

 確かに嫌な攻撃で全身がこそばくて仕方なかった。こういう時こそ、エッセイの続きだ。心情描写も情景描写もまったく書け……ひゃひゃひゃ……無理でした。こそばすぎてエッセイ書けません。

雷独楽ライジングスピン

 ルリエラの声が聞こえ、雷独楽は背後から兵士に激突し、吹っ飛ばした。兵士はスタントマンもびっくりの動きで華麗に着地した。雷独楽はそのままの勢いで俺の鳩尾みぞおちに直撃した。

「ごほっ!」

 あまりの激痛に俺はその場に崩折れた。鳩尾が熱を帯び、立ち上がることさえできなかった。

「ちょっと大丈夫? いったい誰がこんな酷いことを」

「お前だよ、お前」

 俺は鳩尾を押さえ、ルリエラを睨み付けた。ルリエラは申し訳なさそうな表情を浮かべると、俺の背中に両手を回して抱きしめてきた。

「ごめん、傷付けるつもりはなかったの」

 ルリエラの沈んだ声を聞き、俺の手は自然とお尻に伸びた。

「痛たたたたた!」

 ルリエラのお尻に触れる前に、ジークに手を捻じりあげられた。ジークの目は胸だけじゃなくお尻までもと語っていた。お尻は触ってないけど。その前に捻じりあげられたし。

「貴様、性欲だけは一丁前にあるな」

「おっしゃる通りです!」

 俺は親指を立ててみせた。

「別に褒めてないがな」

 ジークは呆れたようにため息をついた。ルリエラはまだ俺に抱きついたままだった。そんな俺たちをアリファはまるで女神様のような表情で見ていた。

「おっと、もうすぐ七時じゃないか」

 ジークはどこか慌てたような声で言った。

 すぐに体内時計を確認したが、正確な時間は分からなかった。分かったのは何してるんだろう俺ってことだけだった。もう午後七時頃なのか。

「『魔法少女膀胱パンパンちゃん』は絶対に観ないと」

 どんなアニメ(?)だ、それ。膀胱みたいな魔法少女にでも変身するのか? それとも膀胱の魔法でも使うのか? 膀胱の魔法って何だ。ってか神様も娯楽を楽しむんだな。

「先に帰ってるぞ。お前たちもすぐに帰ってこい」

 ジークはそう言うと、一瞬の間を置いて姿を消した。

「ごめんなさいね、夫が迷惑をかけて。疲れたでしょ」

「ああ、疲れたよ」

 あんたが俺のところに来なければ迷惑をかけられることもなかったと思ったが、それは言わないことにした。

「本当はもっと一緒にいたいけど、帰らないとパパに怒られちゃうから。またね」

 ルリエラは俺にキスをすると、アリファとともに姿を消した。

 キスの余韻に浸りながら、俺はゆっくりと目を閉じた。

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