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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第5節
99/159

94.託された願い

「じゃあ、打ち合わせ通りに」

「うん。また後でね~」


 私たちは夜の闇に紛れて、町の中に戻って来ていた。

 今、私たちに出来ることは少ない。

 一つは、町の南にあると思われるカリン糖の取引場所の調査だ。

 大体の場所は分かっているけど、またあの人が出てきたら私たちだけではどうにもならないだろう。

 それで、ブロウさんたちにお願いすることにしたのだ。

 彼らはこの町の生まれで地の利もあるし、協力者としてはこれ以上ない人選だ。

 それに、カリン糖とバイゼンさんの繋がりを探しているという点では利害は一致しているし、断られるような理由は無いはずだ。

 で、もう一つはクリミナさんへの報告だ。

 こっちに関しては、山で見つけたあの鱗くらいで、他に報告出来ることは無い。

 本当は二人で行動する方が安全だというのは分かっているけども、のんびりやっている時間は無いので、危険を承知でミラとは別行動を取ることにしたのだった。

 ブロウさんはきっと冒険者ギルドか孤児院にいるはずなので、あの道を通る可能性を考慮してミラが行ってくれることになった。

 私は消去法で、クリミナさんがいる商人ギルドへ向かうことになった。

 当然、バイゼンさんとバッタリ鉢合わせ!なんて事故は絶対に起こしたくない。

 うまく隠れられているか、自分の姿を確認してみる。

 うん、薄汚れたフードを目深にかぶってるから顔は見えないし、物陰にうまく隠れているから姿も分かりずらいから大丈夫!

 ・・・ん?

 物陰からギルドを見てるフードを被った私って、ただの不審者では?!

 これ、ぜったい、ぜーーったい見つからないようにしなくちゃ!

 そんなことを考えていると、ギルドのドアが開く音が聞こえた。

 誰かが出てくるようだ。

 じっと身を潜めて、中から出てくる相手に注意を向ける。

 クリミナさんかバイゼンさんか、はたまた別の人物か。

 食い入るように見ていたドア影から出てきたのは、闇夜にもよく映えるピンク色の髪の持ち主、クリミナさんだった。

 しかし、すぐには声を掛けない。

 物陰に隠れながら少し後ろをついて行く。


 カツン。


 あ、しまった!

 足元が暗くて、何か蹴っちゃった!


「あら、私の熱狂的な追っかけの方かしら?でも、こんな夜道で声を掛けるなんて、もうちょっと礼儀を・・・」

「す、すいません!私です!」

「私・・・?ああ、そのフードと声はリアちゃんね」

「はい。その・・・」

「ちょっと待って。ここだとゆっくり話が出来なさそうだから付いてきて」

「あ、はい。わかりました」


 声を出さないようにクリミナさんについて行く。

 こっちの方向は、町の北側?

 しかもこの通りって、私が山に行くときに使った道だ。 


「着いたわ。ここよ」


 案内された場所は、華美とも質素とも言えない普通の家だった。


「さ、入って」

「はい、おじゃまします」


 中は普通の家族が住むような、普通の家だった。

 テーブルや椅子、棚や台所用品に至るまで、既製品と思しきものが一通り揃えられている。

 なのに、どこか、何かが欠けているような気がする。

 テーブルや椅子、棚の中にある食器は全部3つずつある。

 なのに、一人分しか使われた形跡が無い。

 ・・・そうか、人の気配が無いんだ。

 きっと、これは聞いてはいけない事なんだろうと思い、それ以上考えるのを止めた。


「今、お茶の準備をするから、そこに座って待ってて」

「はい」


 何だか、空気が重い。

 この場所にいると、時間が経つのがゆっくりに感じる。

 まるでここだけ、時間が止まってしまっているんじゃないかと思うくらいだ。


「おまたせ。あまりいいお茶じゃないけど、気持ちは落ち着くわよ」

「ありがとうございます」


 目の前のティーカップから立ち上る湯気が、酷く弱々しく感じる。

 そっとカップを持ち上げ、中の液体を少し口に含む。

 これ、少し鼻に抜ける爽やかな香りがする。

 好き嫌いは分かれそうだけど、私はこの味結構好きだ。

 はて、これと似たようなものを味わったことがあったような気がするけど、何だったかなぁ。


「あ・・・これって、ミンティアスの香り?」

「ええ、そうよ」

「でも、この前食べたのとちょっと味が違うような・・・?」

「これは、オーンジュ・ミンティアス。砂漠で採れるミンティアスよ」

「へぇ~。同じミンティアスなのに、こんなに風味が変わるなんて面白いですね」

「ふふ、気に入って貰えたかしら?」

「ええ、とっても」


 私の答えに、クリミナさんは少し嬉しそうな顔をする。

 さっきまで張りつめていたような空気が、少し柔らかくなったような気がした。


「じゃあそろそろ、本題に入りましょうか」

「あ、はい!」

「さっきの感じだと、いい報告が・・・って訳じゃなさそうね」

「ええ、その・・・」


 私は山であったことを正直に伝えた。

 カリン糖の件については、これからの行動次第で情報が届けられそうだと伝えた。

 それを聞いて『期待しているわ』という言葉だけが返ってきた。

 そして前ギルド長を殺害した証拠を見つけることが出来なかったことを伝えると、やはり残念そうな顔をしていた。

 当然の反応だけど、どこかやりきれない気持ちもある。


「ふぅ・・・やっぱり、そう都合よくは見つからないわね」

「本当にすみません。・・あ、そうだ!クリミナさんに見てもらいたいものがあったんだ」

「何かしら?」

「えっと、これです」


 バッグから、あの謎の鱗を取り出してクリミナさんの前に置く。

 それを見たクリミナさんが血相を変え、急に立ち上がり大声を出す。 


「ちょっと、これはどこで?!」

「く、クリミナさん?!」

「お願い!これをどこで見つけたか教えて!」

「えーと、第7休憩所って場所なんですけど・・・」

「ねぇ、他には、他には何か無かった?!」

「ちょ・・苦しい!」


 興奮するクリミナさんに襟首を掴まれたまま体を前後に振られ、呼吸がままならなくなる。


「あ・・ごめんなさい」

「ふ、ふぃ~~。クリミナさんに殺されるかと思った・・・」

「で、他には何か無かったの?」

「その・・・第7休憩所は、落盤が酷くて中に入れなかったんです」

「落盤・・・。ねぇ、そこに何か爆発したような跡は無かった?」

「外からだとちょっと分からなかったです」

「そう・・・」

「あ、でも、洞窟の上の方が不自然に低くなってたんだけど、何か関係あるのかな?」

「・・・やっぱり」

「やっぱり?」

「いえ、こっちの話よ。ありがとう、近いうちに調査隊を送ってみるわ」

「そうですか。良い知らせがあるといいですね」

「そうね、きっと良い報告があると思うわ」

「ところで、その鱗ってその・・・」

「ええ、これは私の・・・ううん、私のお父さんの物よ」

「それ、何の鱗なんですか?あんなに重そうな岩の下敷きになっていたのに、割れてないなんてすごいですよね」

「当然よ。これは竜の鱗だから」

「え・・・り、竜?!」

「そう。これは”千花の竜(フローリア)”っていう、とても綺麗な竜の鱗よ。ほら、ここにネックレス用の穴があるでしょ?これ、穴を開けるのに普通の方法じゃ開けられなくてね・・・」


 確かに竜の鱗なら、この大きさと丈夫さは納得できる。

 伝説級の武具には、竜を素材とするものがあるって聞いたことはある。

 それをお守りにするなんて、余程裕福な家庭じゃないと出来っこない。

 クリミナさんってもしかして・・・。


「ごめんなさい。勝手にどんどん話しちゃって」

「いえ」

「で、もう一つのお願いの方、そろそろ時間じゃないかしら?」

「そうだ!そろそろ行かなくちゃ!」

「うん、お願いね。あなたなら、きっといい報せを運んできてくれると信じているわ」

「ちょっと買い被り過ぎじゃないですか?」

「そんなこと無いわ。だって、あなたもエリスお姉様の教えを受けているんですもの」

「・・そうですね。いい報せを届けられるように、全力で行ってきます!」

「頼んだわよ」


 クリミナさんの家を後にし、私は再び町の南へと向かう。

 託されたもう一つの願いを叶えるために。


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