91.真相への兆し
「もぉーー、無理!今日の探索はここまでっ!終わりっ、おーわーりーっ!」
私が『第7休憩所』に辿り着いた時、最初に発した言葉がそれだった。
足は痛いし頭も痛い、辺りは暗いのに靄が掛かってて白いんだか黒いんだか、もー分かんない!
おまけに寒いわ息苦しいわで、もう立ってるのも限界!
早く中に入って、すぐにでも座りたい!
今日最後の力を振り絞り、逸る気持ちで中にあるはずの椅子に向かって歩きだした。
しかしその刹那、顔面に鈍い衝撃が走り、私の歩みは止められた。
「い、いった~~~~っ!も~~、何なのーーー?!」
ヒリヒリする顔を押さえながら、目の前にあるものを確認する。
私の目の前に立ち塞がったもの、それは洞窟の壁だった。
「何でこんな入り口近くに、壁なんてあるのよ~~っ!」
やり場のない怒りを壁にぶつけてみたが、当然反応など返ってくるはずがない。
前方を確認しなかった自分が悪いのは分かってる。
だけど、それは他の休憩所がみな同じ作りだったからだ。
他の休憩所は、どれも4・5人くらいが入れるくらいの大きさがあった。
だからここも同じように奥がある、と思い込んでいたのだ。
「はぁ~~~、やっとゆっくり休憩できると思ったのに」
確かに入り口に文字は彫ってあったし、少し古くなっていたけども入り口を隠す布は掛かっていた。
なのに中は作りかけって、おかしくない?!
前の休憩所まで戻れば、ゆっくり休めるのは分かっているけど、そこに戻るほどの体力は残っていないし、何より暗い中で歩き回るのは危険すぎる。
疾うに体の疲れは限界を超え、思考もほとんど停止している。
人は痛みや疲労が限界を超えると思考がとても単純になる、と言う話がある。
そして今、私が出した答えは『何が何でもここで休む!』というその一点だけだ。
改めて、入り口から壁までの様子を観察する。
目の前の空間を単純に捉えるなら、”狭い、痛い、寒い”の三拍子が揃った寝床と言えなくもない。
”誰も泊まりたくない宿屋選手権”というのがあったら、間違いなく優勝候補だと思う。
しかしここは魔物がうろつく山の中腹、こういう空間があるだけマシ、と思わなければやっていられない。
「むぅ・・・壁にもたれ掛かれば、何とか座って寝られそうかー」
朝起きたら体中が痛くなるんだろうなー、っていうのは分かる。
それに一度座ったが最後、絶対に動きたくなくなりそう。
・・・・・・よし決めた、今日はここで休む!
バッグの中から布製の物を全部出し、包まるように壁と入り口の間に座り込んだ。
「ユリ、こっちおいでー」
「キュー」
「あー、ちょっとあったかーい」
ユリを抱きかかえるように座ると、すぐに睡魔が襲って来てそのまま意識が吹き飛んだ。
次に目が覚めたのは、朝日が昇ってきた頃だった。
山に籠って2回目の朝だ。
はぁーっ、と息を吐くと白い湯気が上がった。
あんまり動きたくないけど、少し動かないと寒いなぁ。
「ほっ・・・うっ!!体中が痛い~~~!」
案の定、体のあちこちが痛くなっていた。
それでも堪えて強張った体を解そうと手足を伸ばすと、痛みでプルプルと震えた。
何とか動けるくらいまで回復したところで朝食を摂ることにした。
クッキーと茹で岩芋、それに温泉から採ったお湯だ。
と言っても、どれもすっかり冷めてしまっている。
元温泉水なんかは、ただの臭いお水だ。
それでも貴重な飲み水には違いないので、無駄にはしない。
実は、第5休憩所ぐらいから休憩所内に温泉が無かったのだ。
最悪、今ある水だけで山頂まで行くことになるのかも、と不安しかない。
この山の山頂まで行く人は、いったいどういう装備をして行くんだろう?
前ギルド長は、何だってこんな辛い場所に用事があったんだろうかと考えてしまう。
さてと、早めに動かないと戻ってこれなくなるから行かなくちゃ。
寝る時に出した布の束をバッグに戻し、忘れ物が無いか確認する。
「さ、行こうかな」
キラリッ。
靄の隙間から光が差し込み、さっきまで座っていた場所に何かが反射して光った。
近づくと、緑色に光っている欠片が埋もれているのが見える。
「綺麗だなー。でも、何でこんな変な場所に埋もれてるんだろう?」
不思議に思い、もう一度さっきまでいた場所を観察してみる。
欠片が埋もれている場所から、上に向かって視線を移していく。
「・・・あ!」
初めてこの休憩所に着いた時に感じていた違和感、その正体に気が付いた。
洞窟の上の方が不自然に低くなっている。
原因は分からないけど、洞窟が崩れて休憩所が塞がってしまったのかもしれない。
だとすると、ついさっきまで自分が壁だと思っていたものは、壁では無く落ちてきた岩の塊ということだ。
―――山から帰って来ない前ギルド長に、落盤のあった休憩所―――
自然と頭の中にあった二つの出来事が繋がった。
同時に、とある仮説が頭の中に浮かび上がる。
それは『前ギルド長を人が少ないこの休憩所に連れ込んだ後、バイゼンさんが天井を落として殺したのでは?』という仮説だ。
あのバイゼンさんの性格なら十分に有り得る話だ。
だけど、それを証明する証拠が無い。
もし、この岩の下に証拠があるとしたら・・・?
この岩をどかすには人手がいるけど、町に戻って捕まったら意味が無いし・・・。
「うーん、どうしよう」
せめて、この岩をどうにか出来ればいいのに。
そんな都合のいい話なんてあるわけ・・・。
「あった!」
ちょっと前までは、そんな都合のいい話は無かった。
だけど、今の私にはある!
あの魔法を使えば、この岩を何とか出来るはず!




