90.調査再開!
「さて、俺達はそろそろ狩りに戻るか」
「そうね。えーと・・・そういえば、まだ名前聞いてなかったわね」
「私は」
本当の名前を告げようと思ったけど、少し思い留まった。
私がここにいることを町の人、特にバイゼンさんとその関係者には知られるわけにはいかない。
けど、恩のある人に嘘を付くのも気が引ける。
少し考えた後、伝えるべき言葉を決めた。
「私は、”メリー”って言います」
「そう、”メリー”って言うのね。いい名前ね」
「ありがとうございます」
今、”メリー”と名乗ったけど、これは決して偽名じゃない。
というのも、私の”アメリア”という名前には、愛称が多く存在する。
私が知っているだけでも、”アメリ”、”メリー”、”メリア”、”リア”と、なぜか4つもある。
しかし、私にとって”リア”以外の愛称は馴染みが無い。
他は村の外から来た人、つまり冒険者が勝手に呼んでいる名前である。
「で、メリーは一人で下山できそうか?」
「いえ、まだ私はすることがあるので」
「そうか。じゃあ、ここでお別れだな」
「大丈夫?あまり無理をしちゃダメよ」
「はい。もう少し休んだら行きます」
「じゃあまたね、メリー」
「ありがとうございました。二人もお元気で」
二人が外に出て行ったのを確認してから、ぷはぁと大きく息を吐き出した。
こういうやり取りは、やっぱり慣れない。
嘘はついていないんだけど、正直に全部話せないので、気持ちがどこかモヤモヤしている。
今は隠さなきゃいけないことが多いから仕方が無いのだけど、どうにもうまく割り切れない。
「はぁ・・・慣れないことしたら、お腹が空いた~」
今は潤沢に食料がある状態では無いけど、お腹が空いて動けないという事態は避けたい。
そういえば、岩芋の肉芽って生で食べられるって書いてあったけど、ちょっと食べてみよう。
試しに一個だけ口の中に放り込んでみた。
シャリッ、シャリッ。
・・・・・・!
「う・・・、うぇぇっ!!ぺっぺっ!」
嫌悪感を感じ、思わず口の中に入れたものを吐き出してしまった。
苦いというかエグいというか、何とも言えない味が口の中に残っている。
しかも、皮がゴリゴリして固いし、噛むほどにエグさが滲み出てくる。
この食べ方じゃ、お腹が膨れる前に口の中が変になってしまう!
皮が悪さをしているんなら、むいて食べてみよう。
同じように、二個目に挑戦する。
皮を破くとヌルッと中身が飛び出してきたので、上を向いて口の中に落とし込んだ。
シャリッ、シャリッ。
・・・うん、さっきほどじゃないけど、やっぱりちょっとエグい。
でも食べられないほどじゃない。
美味しくも無いんだけど。
これを食料にするには、もう一工夫しないとダメかなぁ。
こういう時、ミラがいたら美味しく調理してくれるんだろうなぁ。
と、ここに居ない人のことをあてにしても仕方ない。
調理・・か。
「これ、温泉で煮たらどうなるかな?」
直入れすると、芋が取り出せないから布袋に入れよう。
あとは、袋の紐をコップの取っ手に括りつけて、温泉に入れて待つだけ!
待っている間に、図鑑の書き込みやバッグの整理でもしておこう。
「・・・さてと、そろそろ出来上がってるハズだけど」
温泉に付けた布袋を引き上げてみる。
袋からボタボタとお湯が落ち、白い湯気が立ち上っている。
このままだと熱いから、少し冷ましてからにしよう。
「さてさて、どうなってるかなー?」
触れるくらいの温度になったのを確認してから、中身を取り出す。
岩芋を摘まんでみると、中身がかなり柔らかくなっているようだった。
よし、皮をむいて中身を食べてみよう。
お、ツルっとむけた?!
これ、ちょっと気持ちいいかも!
中は・・・あ、ちゃんとホクホクとした感じになってる。
あとは味の問題だけどどうかなー・・・うん、生の時のようなエグみはほとんどない。
どうやら、これは茹でるのが正解っぽい。
「キュー?」
「あ、ゴメンゴメン!ユリも食べてみる?」
「キュッ!」
皮をむいて中身だけを食べさせる。
良かった、ユリも美味しそうに食べてる。
さて、残りの芋も同じように茹でてしまおうかな。
魔物のいる中で、調理なんてやってられないもんね。
同じくらい茹でるとなると、ちょっと時間があるけどどうしようかなー。
・・・そういえば、この休憩所の中ってちゃんと調べてなかったなぁ。
よし、待っている間にここの調査もしてしまおう!
まあ調べるっていっても、ここにはテーブルとイス、それに壁と天井くらいしかないんだけど。
それから調べること僅か、調査はあっという間に終わってしまった。
分かったことと言えば、ここは綺麗に使われている、ということくらいだ。
多分この休憩所は、人の出入りが多いのだろう。
手掛かりになりそうなものがあったら、真っ先に処分されていると思って間違いない。
ということは、人がほとんど使った形跡の無い休憩所ならあるいは・・・?
よし、次の目標は決まった。
安全の確保も含めて、休憩所を探して回ってみよう。
前ギルド長がこの山に何かをしに来ていたのなら、きっと何か残っているかもしれない。
さあ行こう、山が私を待っている!




