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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第5節
94/159

89.山中の休憩所にて

「ここが休憩施設?」


 二人に連れられてきたのは、岩に隠れた洞窟のような場所だった。

 洞窟の周りを見ると、入り口の横の岩には『第2休憩所』と刻まれている。

 あと何に使うのか分からないけど、布を巻いたものが上の方に掛かっている。

 『第2』っていうことは、他にもこういう場所がいくつかあるっていうことだよね。

 前ギルド長は、何のためにここを作ったんだろう?


「ああそうだ。それに、中に入ったらもっとビックリするぞ」

「はぁ」


 洞窟の中に入ると、3、4人くらいがゆったりできるような広い空間が広がっていた。

 中は薄暗いけど、何か色々置いてあるようだ。


「今、灯りを付ける」


 カチッカチッと何か硬い物がぶつかる音が聞こえ、小さな火花が少し散ったのが見えた。

 ボウッと音を立て、一気に部屋が明るくなる。

 同じようにもう一つ、二つと灯りが増える。

 どうやら、壁にたいまつが掛かっていたらしい。

 全てのたいまつに火が点ると、部屋の全体像が浮かび上がった。

 部屋の中央には、石で作られたテーブルとイスがあった。


「ソニ、入り口をたのむ」

「分かったわ」


 ソニさんが入り口に向かって行くと、入り口の上に掛かっていた布を下した。

 なるほど、どうやらあれは入り口を隠すための布らしい。


 もう一度部屋の中に目を向けると、部屋の片隅に泉のようなものが見えた。

 さっき思いっきり走って喉も乾いたし、ちょっと頂こうかな。

 泉に両手を差し出して水を(すく)おうとすると、急に横から腕を掴まれ止められた。


「それ、熱いから気を付けて!」

「え?表の泉は温かいだけで、手を入れても大丈夫でしたけど?」

「それはきっと、偶々運が良かっただけね。この山のほとんどの泉は、触っただけで火傷するようなものが多いから気を付けてね」

「そうなんですか。でも、これって何なんですか?」

「これって・・・ああ、”温泉”のことね」

「おんせん?」

「そう、熱いお湯が出てくる泉のことよ」

「湧き水って、普通は冷たい水が出てくるんじゃないんですか?」

「普通の場所にあるものは、ね。ここみたいに暑い場所だと、水が温められてお湯になって出てくることがあるそうよ」

「へぇー、ソニさんって物知りなんですね」

「そうでも無いわ。私は知識としては知っていたけど、実際に見たのはここに来て初めてよ」

「まあ、昔からソニは勉強熱心だったもんな」

「あなたが勉強嫌いなだけでしょ」

「お二人とも仲がいいんですね」

「そうかしら?コイツとはただの腐れ縁なだけよ」

「まあ、そう言うなよ。お前とはどんなに腐れても切れない縁だろ?あ、俺今良いこと言った!」

「あはは」


 二人の楽しそうなやり取りと、いつものミラとの会話が重なる。

 今まで張りつめていた緊張の糸が緩み、思わず笑みがこぼれ出てしまった。


「ほら、笑われちゃったじゃない」

「いや、俺はウケ狙いで言ったわけじゃないんだが」

「あ、笑ってしまってごめんなさい。二人とも楽しそうでいいなって思って」

「そう?これでも色々と苦労してるのよ」

「苦労はお互い様だろ?ソニはここに出る蜂の魔物が苦手だから、俺が全部相手してるもんな」

「そんなこともありましたね。それはありがとうございました」

「惚れ直しただろ?」

「はいはい、調子に乗らない」


 テイルさん、ソニさんのお尻に完全に引かれてるなー。

 さっきからソニさんの会話が全部棒読みだよ。

 でも何だろう、二人の間には嫌な感じとかしないし、むしろ自然な感じがする。

 っと、そんなことよりも二人に話を聞かなきゃ!


「ところで、さっきこの魔物を町で買い取ってくれるって言ってましたね」

「ああ。この大きさだと、そうだなぁ・・・200ジールくらいかな」

「え!そんなにするんですか?!」

「まあ、これでもまだ小振りな方なんだけどね」


 薬草の店売り価格が1枚5ジールくらいだから、ザックリ計算しても40枚分かな。

 これは普通の冒険者なら、食事付きの宿に2日くらい泊まれるくらいの金額だ。

 確かに1匹でこの値が付くなら、かなり効率のいい狩りだと思う。

 でも、この魔物から作られるものがどういうものか知っている側としては、手放しで喜べる話じゃない。

 ここは少しでも情報が集められるように、話を誘導してみよう。

 ミラやブレンダさんみたいに、うまくいくかはちょっと自信無いけど・・・。


「あの、魔物を町で買い取ってくれるってことは、やっぱり冒険者ギルドでなんですか?」


 私の言葉に、二人がを眉を(ひそ)めた。

 しまった、ちょっとストレートに聞き過ぎたかも!

 これ、絶対怪しまれてる!


「そうね。普通の依頼なら、ね」

「もしかして、この町は初めてなのか?」

「え、ええ!少し前に着いたばっかりなんです!」

「そうなのか。じゃあ、知らなくて当然か」


 テイルさんは私の話をそのまま聞いてくれたみたいだけど、ソニさんはまだちょっと険しい表情をしている。

 と、とりあえず、辛うじてギリギリセーーーフ?!

 とは言え、ここで引いてしまったら何も情報が得られないまま終了になってしまう。

 多少強引だけど、話を続けてみよう。


「あの、もし私があの魔物を狩れたとしたら、どこに持っていけばいいんですか?」

「ああ、それはだな・・・」

「テイル、いいの?」


 ソニさんが話に割って入ってくる。

 あ、やっぱりちょっと怪しまれてるっぽい。


「いいだろ?さっきのサイズでビビって逃げてくるようなら、横から掻っ攫われることも無いしな」

「まあ、そうんなんだけど・・・」

「それに、冒険者だったら旨い話の裏に危険があっても覚悟の上だろ?」

「・・・そうね、その子に覚悟があるんなら別にいいかもね」


 今の話で、何となくソニさんが険しい表情をしている意味が分かったような気がする。

 実力の無い私が、首を突っ込むには危険な何かがある、ということだ。

 そういう覚悟はすでに済ませているので、返す言葉は決まっている。 


「大丈夫です、覚悟なら決めてますから」

「ほほぅ。腕は無くとも度胸はあるみたいだな」

「はいはい、調子に乗らないの!でも、実力を伴わない度胸はただの無謀よ?」

「無謀でも、もしかしたらラッキーで何かあるかもしれないじゃないですか」

「ふぅ・・・そこまで言うなら、教えてあげてもいいんじゃない?」

「何だ、お前が説明してくれるんじゃないのか」

「そこは、何かあった時の保険よ」

「何かあった時って何だよ!」

「さてね」

「仕方ないな。場所はだな・・・」



 テイルさんから教えて貰った場所は、メイン通りの南側の裏通りにある青い屋根の家だった。

 そう、私が捕まったあの場所のすぐ近くだ。

 つまり、あの時会った女性が事件に関与している、と見て間違いない。

 でも、私一人で行っても同じことになるのは明白だ。

 となると、誰かに協力してもらう必要があるかも。


 事件の真相に近づいている気がするけど、まだ全部じゃない。

 この山には、きっとまだ何かがある。


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