88.遭遇!カリンカリン
「あれ・・・何も出てこない?」
ナイフを身構えている私を嘲笑うように、茂みはお尚もガサガサと音を立てて揺れている。
しかし、一向に中から何かが飛び出してくるような様子は無い。
あまりの溜めの長さに痺れを切らし、ナイフを構えたまま観察してみることにした。
葉っぱの間に、生き物の影は見えない。
心なしか、茂み自体がこっちに向かっている・・・ような気がする?
訳の分からない恐怖に、少し後退りをする。
ズズッ。
「い、今動いた?!」
ついさっきまで、茂みの前にあった黒い石が無くなっている。
いや、茂みが動いて黒い石が隠れちゃったんだ。
ということは、茂み自体が何かの魔物ってこと?
相手の動きが遅いなら、先手を打った方がいいよね!
ナイフを構えて、茂みを一薙ぎする。
シュパッ!
草を刈った時のような気持のいい音を立て、宙に葉っぱが舞う。
ガッサガッサガッサ!!
植物の魔物に痛覚があるのかは分からないけど、残った草の部分を激しく振って、苦しんでいるように見える。
思っていたよりも強くないみたいだ。
これなら私でも倒せるかも!!
追撃を加えようとナイフを構え直し、狙いを定める。
しかしどうしたことだろうか、刈り取られた土台が不自然に動き出し、急に持ち上がった。
「な、何っ?!」
土台の下からたくさんの足が生え・・・いや、あれは根っこ?
うにゅうにょ動くそれは、足がたくさんある虫を彷彿させるような動きをしながら、こちらに向かってきた。
「うぇ・・なにあれ、気持ち悪い~~~」
あまりの気持ち悪さに、思わず逃げ出す。
慣れない山道のせいか、上手く走ることが出来ない。
後ろを振り返ると、慣れたような動きでこちらに真っ直ぐ迫ってきている。
もしかして、中途半端に傷つけたのがいけなかった?
と後悔していても状況は変わるわけでは無く、ただひたすらに逃げ回る。
「ひえぇ~~っ!だ、誰か助けて~~っ!」
こういう時、いつもはミラが助けてくれるけど、そう都合よく現れてくれるはずは無い。
ただ、私の叫び声が周囲に響き渡っただけだった。
何とか撒こうと上へ下へと走り回るも、いつも以上に息切れがして体に力が入らない。
もうダメだと思った時、どこからか声が聞こえてきた。
「おい、大丈夫か?!」
声がした方向を見ると、明らかに『私は冒険者です』という恰好をした男女の姿があった。
私を探しに来た、という感じではしないが、万が一ということもある。
が、それを詮索するほどの余裕は今無い。
素直に助けを求めることにした。
「た、助けて下さい!」
「ちょっと待ってろ、すぐやる」
剣を構えた男の横を走り抜けると、すぐ後ろでザシュッという音が聞こえた。
音に気を取られた瞬間、足元がふらついて前のめりに倒れそうになる。
視界の先には見るからに痛そうな岩場、顔面強打は間逃れない。
しかしそれが分かったところで、空中に投げ出された体が反応できるわけもなく、そのまま倒れ―――ることは無かった。
「んぎゃっ!」
私の目の前には岩の代わりに、少し硬いなめし皮独特の触感と匂いがあった。
どうやら、連れの女性が受け止めてくれたようだ。
少し鼻の先がジンジンするけど、そのまま岩に突っ込むことから比べれば耐えられないほどではない。
「すごい声出てたけど大丈夫?」
「はひ、何とか・・・」
まだヒリヒリする鼻をさすりながら答える。
「おーい、終わったぞー」
「ありがとうございます、助かりました」
「いや、困った時はお互い様だ」
「その、何かお礼をしたいのはやまやまなんですが、今全然手持ちが無くて・・・」
「別にお礼が欲しくて助けた訳じゃないんだが」
「でも、そういう訳には!」
「・・・じゃあ、この獲物貰っていいか?」
「え?そんなのでいいんですか?」
「ああ。って、あんたはこれを狩りに山に来たんじゃないのか?」
「いえ、そういう訳では・・・」
「まあいい、俺達も休憩するところだったんで一緒にどうだ?」
「休憩ってどこでですか?」
「近くに休憩施設があるのよ」
「山の中に休憩施設?」
「ええそうよ。なんでも、前ギルド長が山を調査するのに作った施設って聞いたわ」
「ここから近いから、話は移動してからにしよう。カリンカリンは俺が運ぶから、ソニはそっちの女の子を頼む」
「わかったわ、テイル」
やっぱり、この魔物がカリンカリンだったんだ。
とすると、これを町で換金する仕組みがあるっていうことだよね?
助けてもらったのに騙すようで気が引けるけど、この人たちに聞けば何か進展があるかもしれない。
・・・それに、前ギルド長が作ったっていう”休憩施設”。
もしかすると、クリミナさんの依頼の手掛かりが何か残っているかもしれない。
私は二人に連れられるまま、この山の”休憩施設”なるものに向かうことにした。




