85.繋がる想い、受け継がれる力
「う、う~ん・・」
気が付くと、私はどこかの暗く冷たい部屋の中にいた。
意識はハッキリしているものの、頭がまだズキズキと痛む。
しかし、いったいここはどこだろう?
目の前の暗闇に向かって手を伸ばそうとするが、途中で手が止まり、ガシャリと音がする。
「えっ、何これ?!」
暗くてよく分からないけど、鎖に手を繋がれているようだ。
右足を一歩前へ踏み出そうとするも、半歩くらいで足が止まり、ガシャリと音がする。
どうやら足も鎖に繋がれているようだ。
う、動けない!!
こういう時は、どうしたらいいんだっけ?!
えーと、えーと・・・そうだ!
落ち着いて、周りの状況を確認する・・とか何とかだったはず!
まずは呼吸を整えて・・・。
「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ・・・よし、落ち着いた」
次は、今の状況を確認してみよう。
えーと、裏通りで怪しい女性に出会って、逃げようとした時に何かで殴られて意識が無くなったっけ。
そして、気付いたらこの部屋に居た、と。
手と足が鎖に繋がれているっていうことは、ここはどこかの牢屋ってことだよね。
うん、バッチリ!
・・・じゃ、なーーーーいっ!!
結局、身動きが取れない状態でピンチっていうのは、全然変わってないじゃないの!!
何とかして逃げなきゃ!
激しく手と足を動かして抵抗を試みるも、ガシャガシャと音が鳴るばかりで自由になる気配は無い。
それどころか、繋がれた手足が錠に擦れてチリチリと痛みが走る。
まぁ、こんなことで簡単に外れるようなら錠の意味が無いんだけど。
って、冷静に分析してる場合じゃないか。
「誰か―っ!誰かいないのーーっ?!」
叫び声が部屋の中に木霊する。
しかし、何も反応は返ってこなかった。
ここに絶対的な自信があるのか、見張りは必要ないということなんだろう。
事実、どうすることも出来ないし、完全にお手上げである。
それにしても寒い。
はぁーっと息を出すと、目の前に白い湯気が立ち上る。
「あれ?さっきよりも寒くなってない?」
背筋がさっきよりも、ヒンヤリとする。
錠に触れている部分が異様に冷たく感じる。
そして、異常なくらいに眠い。
眠い―――だけど、これは寝たらダメなやつだ!
手足を動かしても痛いだけだし、体力も無駄に消耗するのは分かってるけど、少しでも動いて体を温めなきゃ!
ガシャン、ガシャン!
くぅっ・・・まだダメだ!
ガシャシャン、ガシャシャン!
少し温まってきたけど、まだダメだ!
ガシャガシャン、ガシャガシャン!
痛い、寒い、眠い・・・!
ここまでしても、寒いなんてちょっとおかし過ぎる。
もしかして、これ・・・魔法?!
私を閉じ込めた相手は、本気で私を殺す気みたいだ。
くぅ・・激しく動いたせいか、眠気が強くなってきた。
何とか意識を保とうとするも、視界が瞼に押し潰されそうになる。
寝ちゃダメだ、寝ちゃダメだ、寝ちゃだめ・・・。
必死の抵抗も虚しく、瞼よりも先に意識が落ちた。
目の前は真っ白な世界、ぼんやりと綺麗な花畑が見える。
ああ、私死んじゃったのかな。
もう、みんなには会えないのかな。
お父さん、お母さん、ミラ、ユリ、旅先で出会ったみんな。
みんなごめんね、もう会えなくて。
私は強く無かった、賢くも無かった。
だから何も出来ないまま終わっちゃった。
悔しいけど、もう私の出来ることは何も無いんだね。
「・・・・・・疲れた、な」
私は目の前に差し出された事実を受け止め、全てを諦めた。
・・・どこからか、声が聞こえてきた。
聞いたことのある声、知らない誰かの。
でも、もう私には―――
「母さま!」
「どうしたのリア?」
「あのね、あたし魔法を創ったの!」
「魔法を?まあ、それはすごいわね。それはどんな魔法かしら?」
「んーとね・・・お家の裏の邪魔な岩を壊せる魔法だよ!」
「へぇ~、それは便利な魔法ね」
「うん!これから見せてあげる!」
「その魔法、危なくない?」
「んー、大丈夫だと思う。柔らかい物だと、あまり効果が無いみたいだから」
「何だか、強いのか弱いのか分からない魔法ね」
「でも、便利だよ!」
「そうね」
「岩が飛ぶと危ないから、少し下がっててね」
「うん。このくらいで大丈夫?」
「たぶん大丈夫だよー。一応、障壁は張っておいてねー」
「はいはい」
女性は目の前に両手を突き出して何かを呟くと、手の先に白い魔法陣が出現した。
それを確認すると、少女は小さな掌を岩に押し当て、大きく深呼吸をした。
「岩が粉々に砕け散るイメージを思い浮かべて・・・」
少女の足元に緑色の魔法陣が現れ、掌には緑色の光が集まっていく。
光が少女の顔くらいの大きさになったとき、言葉と共に大きな力が発生した。
「大地の重圧!!」
バンッ!!!
ガラガラガラガラーーーッ!
少女の放った力は大気を震わせ、岩は爆発するように四散した。
残ったのは岩のあった跡と、粉々に飛び散った岩の破片だけった。
「母さま、どう?!」
「本当にすごいわね。破片が結構飛んだみたいだけど、怪我は無かった?」
「うん、大丈夫だよ!」
「そう。でも、急に魔法だなんて、何かあったのかしら?」
「んーとね、母さまの力になりたいから!」
「お庭の手伝いなら、魔法じゃなくてもいいんじゃないの?」
「・・・この前、お家に黒い服の人が来ていたとき、母さま、少し困ってる感じがしたから」
「!!」
「・・・母さま?」
「ううん、何でもないの。あなたは危ないことをしなくてもいいの。何かあったら、自分の安全を優先してちょうだい」
「どうして?」
「ね?お願い」
「・・うん、分かった!」
二人の姿が消え、今度は白一色の世界になった。
・・・あの光、私の魔法と同じ色をしていた。
今、魔法を使えるようになったとしても、状況は何も変わらない。
それなのに、なぜだかそれを試してみたくなった。
右手に力を集め、自分を縛る鎖や錠、周りの壁が粉々に砕けるイメージを思い描く。
そして、あの少女と同じ言葉を発する。
「大地の重圧!!」
バンッ!!!
ガキィン!
ガラガラガラガラーーーッ!
カランカラーン!
「な、なになになにーーっ?!」
周りからは激しく金属や岩の砕ける音、それに鉄を転がしたような大きな音がした。
私の視界は、白い世界から黒い世界へと戻っていた。
そして、さっきまで手足に感じていた、重く冷たい感覚が無くなっているのに気付いた。
「キュィ―ッ」
「ユリ?!よかった、無事だったんだ」
暗がりのはずなのに、ユリがぼんやりと光っているように見える。
いや違う、私の足元にある魔法陣が、ぼんやりと緑色に光っているのだ。
その光で周囲を見ると、小さな金属片がいくつも散らかっているのが見えた。
そのままぐるりと一周すると、何かで抉ったような壁と石片、それと牢屋の鉄格子だったであろう鉄の棒が何本か転がっているのを確認できた。
・・・さっき、チラッと真っ白い骸骨のようなものが見えた気がするけど、私は何も見てない、見てない。
「これ、私がやったんだよね・・・?」
「キュイッ」
「っ!」
何気なく触った手首に、痛みが走る。
どうやらここは、夢でも無ければあの世でもないらしい。
「私、生きてる」
生きてることは確認できたけど、相変わらず周囲は寒いままだ。
急いでここを出なければ、本当に凍え死んでしまう。
バッグは当然というか、取り上げられている。
牢屋ならどこかに出入りする場所があるはずだけど、足元にある光が弱くて向こう側がよく見えない。
「ちょっと、今のは何?!」
誰かの声がする。
・・・もしかして、私を閉じ込めた人?!
このままだと見つかっちゃう、どこかに隠れなきゃ!
でも、隠れる場所なんてどこにも無いよ?!
私の焦りとは裏腹に、カツンカツンとゆっくりと階段を下りる音が聞こえる。
足音がだんだん近くなる、明かりもどんどん近くなる。
捕まったら何をされるか分からないという恐怖で、心臓の音だけがバクバクと大きくなっていく。
あわわわっ、どうしよう?!
ついに足音が止み、光が私の姿を捉えた。
もうダメだ、間に合わない!




