4.薬草の真実
窓辺からオレンジ色の日が射し込む。
「今日はもう帰るね」
「また今度ねー」
「・・・うん」
ミラに別れを告げ、逃げるように家路を急いだ。
勉強不足だった。
それ以上に、自分自身を過信していた。
だから知らなくてはいけない。薬草というものを。
ここから進むためには、誰よりも知らなくてはいけない。
―――私は無力だ。
家の扉の前に立つ。
毎日見ているはずなのに、今日は他人の家のように私を拒んでいるような気がする。
一呼吸置いて、ノブに手をかける。
開け慣れた扉がいつもより重たく感じる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
台所からお母さんの声が聞こえる。
いつもの風景、いつもの声。
「お母さん」
「なあに?」
私はここから変わらなければならない。
「私に薬草のこと教えて」
お母さんは少し考えながら、夕飯の野菜を私に差し出した。
「何があったかは聞かないけど、夕飯作りながら少しお話ししましょうか」
「うん」
正直、面と向かって話し合いをするのは少し怖かった。
たくさん機会なんてあったのに、今更なんて言われるのが怖かった。
きっと、そういうことも見抜かれているんだろう。
重たい沈黙を破ったのは母の一声だった。
「リアは、薬草のことをどう思うの?」
私がミラに聞いた質問と同じ。
今回のこと、全部知っているんだろうな。
「苦いけど、傷に効く草・・・かな」
きっと誰に聞いても返ってくるだろう同じ答え。
今まで疑問すら持たなかったこと。
「本当にそう思う?」
「・・・うん」
「じゃあ、今リアが持っている物は何?」
私の手の中にあるもの。それは、夕飯に使うただの野菜だ。
「・・・野菜」
「その答えは半分は合っているけど、半分は間違っているわ」
「・・・半分?」
「そ、半分」
「じゃあ、残りの半分は?」
「残りの半分は『薬草』よ」
野菜が薬草?どういうこと?
「その顔だと、あんまり理解していないみたいねー」
薬草って、あの苦い葉っぱだよね?
私の知っている薬草は薬草じゃないの?
「じゃあ聞くけど、『薬草』っていう名前の植物ってある?」
「あの葉っぱを薬草って言っているんじゃないの?」
「一般的に『薬草』って言うと、アレのことなんだけど、本来は『薬に使用する植物全体の総称』なのよ」
母の一言で、自分はとんでもない勘違いをしていたことに気が付く。そして理解した。
薬効のある植物全てが薬草であるということを。
「じゃあ、この野菜も何か効果があるの?」
「これ単品だと大した効果は無いけども、薬を調合するときの材料として使うのよ」
「あっちの野菜はどんな効果があるの?」
「あらあら、急に熱心ねぇ。でも今はお父さんがご飯待ってるから、夕飯作ってからにしましょうね」
私の知っている薬草は、薬草の全てでは無かった。
あらゆる植物が『薬草』になれる可能性がある。
これが薬草の真実。
―――本当の始まりはここからだ―――