78.あま~いお菓子の時間!
「う~ん、色々あり過ぎて目移りしちゃうなー」
町のメイン通りまで戻って来た私たちは、今日のおやつに丁度いいものがないか品定めをしていた。
来た時にはざっくりとしか見られなかったけど、よく見ると珍しい物も結構あるみたい。
「リアー、あの丸いお菓子見つけたよ~」
「ホント?どこどこー?」
「ほら、あそこ~」
ミラが指差した方向を見ると、来るときに見かけた砂糖をいっぱいまぶした丸いお菓子が並んでいた。
「当店”シュガーポット”名物のお菓子、ふんわり食感の”カスティ”と、サクサク軽い食感の”カスク”は、ここでしか味わえないよー!」
「へぇー、どっちも美味しそうだねー」
「うん」
「気になるなら、両方買っちゃう?」
「そうだね~。1個が小さいし、いけるかな~」
「じゃあ決まりだね。すみませーん、カスティとカスク2個づつくださーい!」
「いらっしゃいませ。合計で12ジールになります」
「はい、お金」
「ありがとうございます。すぐお召し上がりになるのでしたら、そちらに椅子が用意してありますので、どうぞご利用下さい」
「じゃあ、ちょっとお借りしまーす」
「ごゆっくりどうぞ」
店のすぐ脇にあった長椅子に腰を掛け、ミラの分を渡す。
まずはカスクから食べてみよう。
口の中にポイっと入れてかじると、『サクッ』という軽やかな音がする。
そのまま口の中でシュワーっと溶けるように消えていき、甘さが油に乗って広がっていく。
んーーーっ、甘くてジュワーってしてて美味しーーい!
さーて、こっちのふわふわはどうかなー?
さっきと同じように、口の中にポイっとカスティを放り込む。
今度は雲を食べたみたいに、抵抗なくシュワッと消えてなくなる。
口の中には、ミルクと卵と砂糖を混ぜたような優しい甘さが広がった。
こっちはこっちで、美味しーーい!
「ん~~っ、美味しかったーっ!」
「うん、どっちも美味しかったね~」
「そうだねー。でも、お砂糖ってそんなに安く無かったよね?あの値段で、お店は大丈夫なのかなぁ」
「うん、私もそれ気になってた~」
「ああ、そのことですか?それなら気にしなくても大丈夫ですよ」
「何か理由があるんですか?」
「砂糖はこの町の特産品なんです。それに何年か前に新しい砂糖が作れるようになったからって、普通の砂糖の値段が下がったんです」
「へぇ~、新しい砂糖か~。ちょっと興味あるな~」
ミラはいつも以上に目をキラキラさせている。
もしかして、次の新しい料理の参考にするのかな?
珍しい物だったら交易品としての価値もあるだろうし、ちょっと興味あるなぁ。
「ええと、確か名前は・・・”カリン糖”とかいう名前だったと思います。なんでも、普通の砂糖よりも甘いのに、太りにくいとかっていう噂ですよ?」
え、何それ?!
普通の砂糖より甘いのに太りにくいって、すーーーっごい気になるんだけど!
「それ、お店で買えますか~?」
「うーん、どうでしょう?数の確保が出来ていないみたいで、ギルドと直接やり取りしている一部の商店しか扱ってないって話ですから」
「そっか~、それはざんね~ん」
「代わりに、ハーブとか果物の味や香りのする砂糖なら結構出回っているので、買ってみてはどうですか?」
「へぇ~、ハーブを使った砂糖ってちょっと気になる!それって、どんなのがあるんですか?」
「昔からあるものだと、チョコの香りとスーッと抜ける爽やかさが特徴のチョコミン糖とか、深みのある香りと味があるニキ糖あたりでしょうか」
「へぇ~、変わったお砂糖って昔からあるんだー。でも、チョコってかなり貴重なものですよね?」
「ええ、もちろん本物のチョコじゃなくてチョコっぽい風味なんですけどね」
「ですよねー」
チョコのことはお母さんから話でしか聞いたことが無かったから、本物がどういうものかは知らない。
でも、そんな高級品っぽい味が手軽に楽しめるなんて聞いたら、絶対試してみたくなっちゃうじゃない!
次に見つけたら、買ってみよーっと!
「いいことも聞けたし、そろそろ行こうか~?」
「うん、まだまだ見始めたばっかりだから先は長いもんね。ごちそうさまでしたー」
「ごちそうさまでした~」
「ありがとうございました。またどうぞー」
私たちはお店を後にして、お菓子巡りを再開した。
このメイン通りでは、どこも一生懸命に呼び込みをしているようだ。
焼き菓子のお店が多いみたいだけど、よく見るとお店ごとに特徴があるようだ。
バラ売りのお菓子一つとっても、上に色が付いた砂糖を塗って綺麗に見せているものや、種類を豊富に取り扱っていたりと、それぞれ違う売り方をしている。
もちろん何個かまとめて売っているお店も、可愛いリボンで着飾っていたり、綺麗な入れ物に入っていたりと色々工夫をしているみたいだ。
そんな中でも特に変わっていたのが、『冒険のお供にこの一枚!』というキャッチフレーズが気になる”食事クッキー”なるものだ。
一番人気の”ソルト&ペッパー”は、塩味に黒いペッパーを使ったピリッとした辛いクッキーらしい。
最初は『甘くないクッキーってどうなの?』と思っていたけど、試食をさせてもらうと、なるほど携帯用食料としては十分ありかなと思えるものだったので、非常食として少し多めに買うことにした。
こうやってみると同じようなものでも、ちょっと工夫するだけで結構違って見えるんだなぁって思う。
あのギルド長のことを良く思っているわけではないけど、確かに勉強になるなぁ。
メイン通りも外れの方になると、日用品や雑貨のお店も混ざってくる。
この辺りは少し落ち着いた雰囲気で、カフェテラスを設けているお店もチラホラ見える。
ああいう場所でお茶するのもいいなー・・・と思ったけど、先客の服装を見て断念。
明らかに上流階級と思われる服装をしたご婦人たちが、優雅にお茶を楽しんでいたからだ。
さすがにあそこに混ざれる自信は無い。
お茶を邪魔しないように距離を摂って横切ると、パン屋が見えてきた。
ただのパン屋かと思ったら、食事用のパンに混じって果物がいっぱい乗ったケーキやパンなども一緒に販売している。
さすがお菓子の町だけど、甘い物ばかりだと飽きちゃいそうだ。
ふと、どこかから呼び込みの声が耳に入ってくる。
「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!砂糖よりも甘くて美味しい、カリン糖を使った焼き菓子だよー!一度食べたら病みつきになるよー!」
「ミラ、カリン糖だって!ちょっと試しに買ってみようよ!」
「うん。私も気になるし、一つ買ってみようか~」
「すみませーん」
「はい、いらっしゃい!」
「これ、一つください」
「毎度あり!」
思わず勢いで買ってしまったけど、値段はさっき食べたカスティの倍くらいしていた。
ちょっと焦りすぎたかなーと思ったけど、ここまでカリン糖を扱っているお店は無かったから、ここで買ったのは正解だと思うことにした。
「カリン糖のお菓子買えてよかったね」
「うん、そうだね~。でももうすぐ夕食の時間だから、後にしようね~」
「じゃあ、早めに夕食済ませてお部屋でゆっくりお菓子食べよう!ほら、レッツゴー!」
「あ~、待ってよ~!」
その夜、宿の部屋で食べたカリン糖のお菓子は本当に甘くて美味しかった。
なのに、不思議とその甘さに違和感を覚えた。
しかしそんな疑問の答えは見つからないまま、次の日がやってくる。