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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第5節
82/159

77.スウィーティアの商人ギルド

「ここがこの町の商人ギルドみたいだね」


 扉のすぐ上を見上げると、鞄のマークの看板がぶら下がっている。

 当然ながら、この扉の奥の人物とは初対面だ。

 今度は失礼の無いようにしなくちゃ!


「リア~、どんな人が出てきても失礼なこと言っちゃだめだよ~?」

「大丈夫、私だって成長してるんだから!」

「もー、そういうこと言ってるとボロが出ちゃうぞ~」

「大丈夫だってー」


 そう言いながら、ギルドの扉に手をかけ開ける。


「はーい!スウィーティア商人ギルドの受付アイドル、くりみんちゃんだよ~っ♪」


 奥の受付から、場違いな声と言葉が私の耳の中に流れ込んできた。

 一瞬固まってしまったが、聞いてはいけないものを聞いたような気がして、扉を閉めようとした。


「・・・えっと、すみません。間違えました」

「あーっ、ごめんごめん!合ってるから扉閉めないでーっ?!」


 受付嬢のくりみんさんは、泣きそうな表情で私たちを呼び止めた。

 こういうのって、今の流行りなんだろうか?

 とりあえず、ギルドの受付カウンターの所まで歩いていく。


「コホン。では改めまして、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 あー、一応ちゃんと受付は出来るんだ。

 そんなことを思っていると、横からつんつんと腕を突かれる。


「今、失礼なこと考えてたでしょ~?」

「そんなこと無いよー」

「でも、さっき扉をすぐに閉めようとしてたよね~?」

「えー、あれは不可抗力じゃない?」

「ちょっと、ちょっとぉー!二人とも、聞こえてるからっ!」

「すみませ~ん、うちのリアが失礼いたしました~」

「あれ、何か私だけが悪者になってない?」

「ふふ、仲がいいのね。あまり似ていないみたいだけど、二人は姉妹なのかしら?」

「いいえ、同じ村の幼馴染です」

「へー、どこの出身なの?」

「メディア村です」

「んー・・・そこって確か、私が小さい時に出来た新しい村だよね?」

「そうなんですか?」

「この国が出来たのと同じくらいの時期だったはずだから、15年くらい前だったかなー」


 ・・・あれ、何かおかしくない?

 今、私たちは16歳だよ。

 それなのに、村が出来たのは15年前?

 じゃあ私たちは、いつどこで生まれたの?


「ねぇ・・・」


 この答えがあるかもしれないという淡い期待を抱いて、チラリとミラの方を見る。

 しかしミラも知らないみたいで、無言のままふるふると首を横に振る。

 その顔は笑顔だったけど、少し青ざめたような感じにも見える。

 ミラのこういう表情は久しぶりに見る。

 ちょっと辛そうにしているし、話題を変えた方がいいかも。


「ところで、くりみんさんって本名なんですか?」

「いいえ、本名はクリミナって言うのよ。二人が村の出身っていう事は、年下かしら?」

「はい、今16歳です」

「あら、16歳?なら、どこかから村に越してきたのかしらねぇ?」


 なるほど、生まれは別の場所で、育ったのは村っていう考え方もあるのか。

 でも、お父さんもお母さんも昔の事ってあまり話してくれないから、どこに住んでいたのかも知らないんだよね。

 村に帰った時にでも、ちゃんと聞いてみようかな。


「すみません、あまり詳しくは知らないので・・・」

「そうなのー?まあ、『他人の過去を詮索する輩は、馬に轢かれて何とやら~』って言うからねー」

「はぁ・・・」

「で、話がかなり脱線しちゃったけど、まだ用件を聞いてなかったわね?」

「あ、はい。ここのギルド長へ挨拶の伺いを立てたいのですが」

「ん、と言うことは商人ギルドの関係者かしら?」

「はい、ウッドストックの商人ギルドに登録しています」

「あー、ブレンダさんの所の子かー。ということはー・・・」


 クリミナさんは悪戯な笑みを満面に湛えて、顔をぐぐぐぃーーっと寄せてくる。

 近い近い!!


「ねぇねぇ、エリスお姉様はお元気だったかしら?!」

「え、エリス()()()?!」

「あら、聞いていないの?お姉さまは、昔このギルドに居たのよー。といっても、研修で1年くらいしか居なかったんだけど」

「へぇ~、そうなんだー」

「そうなのよ!いつもクールで仕事も早くて正確で、おまけに美人で気が利いて、それはもう憧れの人以外の何者でもなかったわ!」

「は、はぁ・・・」

「そ・れ・な・の・に!あんな木屑臭い町に配属されるなんて、どうかしてるわっ!!きぃぃぃぃーーーっ!!」


 なんというか、クリミナさんが熱狂的なエリスさんの支持者であるのは十分に伝わってきた。

 色々と危ない意味でも。


「あ、私の事は”くりみんおねーさん♪”って呼んでもいいわよ~」

『遠慮します』


 私とミラの声がハモる。

 暴走系のお姉さんは面倒過ぎる気がするので、お引き取り願いたいです。


「そーお?遠慮しなくてもいいのになー」


 私たちの気持ちを察したのかどうかは定かでは無いとして、あれ以上の暴走はないようだ。

 暴走したり止まったり、緩急の激しい人だなぁ。


「そうそう、ここのギルド長はバイゼンって言うのよ。ちょっと癖が強いけど悪気があるわけじゃないから、何か言われても気を悪くしないでね?」


 癖が強いってどういうことだろう?

 まあ、会えば分かるかな。


「分かりました」

「じゃあ、ギルド長に取り次いでくるからちょっと待っててね」

「はい、お願いします」


 クリミナさんが行ったのを確認してから、ミラに様子を確認する。


「ミラ、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ~」

「正直言うと、私もちょっとショックだったかな」

「私もだよ。でも、リアが話を逸らしてくれて助かったよ~」

「ううん、私が出来るのはあのくらいだから」

「でも、ありがと」

「私たちって、意外と自分の村のことをちゃんと知らないんだね」

「そうだね~」


 私たちが居た村には、知らない秘密がある。

 だけど今はそれが何かを知るには、情報が少なすぎる。

 時間は掛かるかもだけど、ゆっくり調べていくしかないかな。


「おまたせー。そのまま上に上がってきてちょうだい」

「あ、はい。今行きます」


 階段を上りながら改めてギルドの中を見ると、ウッドストックと作りはほぼ同じだ。

 それとも、どこのギルドも同じような作りなだけだろうか?

 この扉の向こうにギルド長がいるんだ。

 素敵な人だといいなー、と少し胸をワクワクさせる。


「はい、中へどうぞ」

『失礼します』

「ふほほっ、チミ達がブレンダの所の子かい?」


 へ?

 私は目の前の風景に戸惑いを感じた。

 そこにいた人物は、ブレンダさんのようにカッコいいわけでもなければ、エリスさんみたいにクールでもない、どこからどう見ても小太りをしたただのおじさんだった。

 私の、私のワクワクを返してーーーーーっ!


「初めまして、ミラと申します。本日は忙しい中、お時間ありがとうございます」

「えっと、同じくアメリアと申します。よろしくお願いいたします」

「ふほっ、ちゃんと挨拶は出来るみたいだな。まあ、商人ならアホでも出来ることだがな」


 うう~、なんかこの人苦手だよ~。


「そんなチミ達に、一つ質問をしてみようか」

「はぁ・・・」

「まあ、気楽に答えたまえ。では質問だ。商人にとって一番必要なことは何だと思うかい?」


 商人にとって必要なこと、か。

 お金を儲けることも必要だけど、やっぱりお客さんの気持ちになって接客することかな?

 うん、この答えでいいはず!


「お客さんの気持ちになって―――」


 言いかけた私の言葉を遮って、野太い声が先に返ってきた。


「ふはぁ~~、やっぱりブレンダの所の子だな。基本がなっとらん!」

「あの、まだ全部言い終わってないですが・・・」

「ちっちっち、いや、それには及ばんよ。客の気持ちを考えるのは必要だが、一番大切なものじゃないんだな」

「じゃあ、一番必要なことって何なんですか?!」

「ふほっ、そんなことを聞くようじゃ商人は務まらんよ。さっさと辞めた方がいい。さて、そっちの嬢ちゃんはどうかな?」

「ミラ・・・」


 ミラは笑顔だけども、この固く強張った笑顔の時の気持ちはよく知っている。

 本当の答えを知っているけども、それを口に出して言いたくない時の笑顔だ。

 それでも口がゆっくりと、重たくその言葉を吐き出す。


「お金を、儲ける、こと、です」

「ふほっ!そっちの嬢ちゃんは商人というものが分かってるようだね!チミも見習いたまえ!」

「・・・」

「そう!商人が金儲けするのは、魚が水の中にいるのと同じだ!慈善事業じゃないんだ、生活が懸かっているんだ!分かるかね?!ふほっほっほっほっほ!」


 お金が大切なのはよく知っている。

 そのことは、お母さんからも良く言い聞かされている。

 でも!

 相手の気持ちよりもお金が一番というのは、うまく納得できない。

 それは、お金が人の気持ちを踏みにじっているみたいで、なんだか許せないからだ。


「ギルド長、そろそろ見回りの時間です」

「そうか。まあ、この町は商人の鑑みたいな者も多い。じっくり勉強していくことだな。ふほっほっほっほ」


 そう言い残して、ギルド長とクリミナさんは部屋を出て行ってしまった。

 部屋に残されたのは、私たち二人と静寂だけ。


「悔しいな」

「うん」

「何だかモヤモヤする」

「うん」

「どうしようか」

「どうしようね」

「・・・」

「・・・」

「あーーっ、もうダメ!!」

「わっ、びっくりしたよ~」

「ミラ、行こう!」

「え、え?待ってよ~」


 ミラの手を引いて、部屋を出る。

 こういうモヤモヤとした気持ちの時にやることはただ一つ!


「こんなところでモヤモヤしてても仕方が無いし、美味しい物でも食べに行こっ!」

「・・・うん、そうだね。折角お菓子の町に来たんだもんね。よーし、美味しい物いっぱい食べちゃうぞ~!」

「そーそー、その調子その調子!」

「じゃあ、さっきメインの通りに気になるお店があってね~」

「あ、もしかしてあの丸いお菓子の置いてあったお店?」

「うん。なら、最初の場所は決まりだね~」

「だね。よーし、いっくぞー!」

「お~~っ!」



 モヤモヤすることはいっぱいあるけど、いつまでも大事に抱え込んでたって勝手に解決なんかしてくれない。

 だったらスッキリした方がよっぽど楽しいし、解決への道筋が見えてくるかもしれない。

 だから今は、モヤモヤを吹っ飛ばしに行こう!

 さあ、楽しいお菓子の時間の始まりだー!


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