76.到着!お菓子の町スウィーティア
「ねぇ、何だか甘い香りがしない?」
私たちが進む道の先から、風に乗ってクッキーを焼いた時のような香ばしさと、ほんのりと甘い匂いが漂ってきている。
「うん。ほら、あそこに見えてるの、スウィーティアの町じゃないかな~?」
「ホントだ。ちょっと開けたところに白っぽいのが見えるね」
町に近づくにつれて、その外観が良く分かるようになる。
外壁は真っ白に塗られ、壁の上に三角形をした赤い屋根のようなものがいくつか見える。
それは、お母さんが誕生日に作ってくれたレッドベリーのケーキのようにも見えた。
お母さんのケーキ、すごく美味しいんだよねー。
中の生地はもっちりふわふわだし、クリームも真っ白でふんわり甘いのにくどく無いし、上に乗ったレッドベリーの酸味が口の中をスッキリとさせるから、いくらでも食べられるんだよね~。
ああ、思い出したら食べたくなっちゃった!
「リ~ア~?また何か食べ物のこと考えてた~?」
「そ、そんなこと無いよっ」
「ふ~ん?あ、ヨダレ垂れてるよ~?」
「えっ、えっ?!どこっ、どこっ?!」
「ほら~、やっぱり食べ物のこと考えてた~」
「え、もしかして嘘?!も~~、信じらんない~~っ!」
意地悪をしたミラに向かって、ポカポカと肩を叩く。
もちろん本気で殴っている訳じゃない。
「ごめん、ごめん~!でも、顔が緩んでたのは本当だよ~」
「ホント?嘘じゃない?」
「ホントだって~。誰かに見られたら恥ずかしいくらい緩んでたよ~」
「ウソッ?!」
私そんなに顔に出てたっ?!
思わず自分の顔に手を当てて、顔の部品が付いている位置を確認する。
そのまま元の表情になるように、顔中をグリグリする。
ちゃんと戻ったか、恐る恐るミラに聞いてみた。
「ねえ、顔戻った?」
「んー・・・」
ミラは腕を真っ直ぐ体と平行に、下から上へとゆっくりと持ち上げていく。
私は息を呑むようにして、その動きを見つめる。
そのまま胸元で、腕をバッテンの形に動かしていく。
ま、まだ直ってないの?!
あ、しかも向こうから冒険者っぽい人が来てる!
どうしよう、どうしよう!!
このままだと、変な顔見られて笑われちゃうよ!
焦る私と裏腹に、ミラの顔は真剣なままだ。
突然、バッテンを形作っていた腕が振り上げられ、そのまま大きなマルを作りあげた。
「おっけ~で~~~っす!」
「・・・・・・え?」
「ちょっとビックリした~?」
呆気に取られている私に、ミラの一撃が突き刺さる。
その一言は安心感と同時に、恥ずかしさと怒りをごちゃ混ぜにしたような感情を爆発させた。
「ちょ・・ちょっとどころじゃないよーーー!!」
からかい過ぎのミラさんには、お仕置きが必要だよね!
今度のポカポカは、ちょっと本気が入るよ!
「痛い、痛いって~!ごめんって、本当にごめんってばぁ~~っ!」
「ゆ~る~さ~な~い~っ!!」
「町に着いたらお菓子買ってあげるから、許して~!」
「だ~め~っ!」
「じゃ、じゃあ、今度の新作スイーツ作ったら、すぐに食べさせてあげるから~、ね?」
「・・・本当?」
「ほんとっ、ほんとっ!今回は果物いっぱい入れたスイーツ作るから!」
「それ、クリーム入る?」
「うん、入るよ」
「じゃあ、クリーム増し増しで!」
「分かった、分かったから!叩くのやめて~っ!」
「じゃあ、それで手を打とう。絶対だよっ!」
「分かったよ~!」
とりあえず、取引成立!
スッキリついでにスイーツゲットだ!
「むぅ~、まだ肩がジンジンするよ~~」
「それはミラの自業自得だよー」
目の前から来た冒険者は何事も無かったように私たちの横を過ぎ通って行ったが、後ろから「仲の良い姉妹だなぁ」と小さな声で言って、クスクス笑っていた。
やっぱり私たちって姉妹に見えるのかなぁ?
だったら、どっちがお姉ちゃんだろう?
ふと無意識に、自分とミラの胸を比べてしまう。
・・・やっぱり、ミラの方なんだろうなぁ。
そんなことを考えてモヤモヤしているうちに、門の前まで来ていた。
「旅の者、書状はお持ちか?」
「はいこれ、お願いします」
「中身を検めるので、しばし待たれよ」
いつものようにバッグから書状を取り出して門番に渡す。
なんだか少しピリピリしているようだけど、何かあったのかな?
「ふむ、ウッドストックを出てからかなり時間が掛かっているようだが、何か良からぬことでもしていたのでは無いな?」
当然と言えば当然の質問が返ってきた。
私たちがウッドストックを出てから結構な日数が経っている。
小さい子供連れの人だって、とっくに町に着いている頃だ。
だけど、ゴブリナさんの村の事は言えないし、なんとか誤魔化さなきゃ。
「えーと、その~、ちょっと道に迷って・・・」
「迷っただと?街道はここまで一直線で、道に迷うなんてあるはずが無い!おのれ怪しい奴、ひっ掴まえてやる!」
「え、えーーっ?!」
「ちょっと、そこのおじさ~ん?」
「失敬な!誰がおじさんだ!俺はまだ20代・・・」
「あのね~、女の子には人に言えない秘密がい~っぱいあるんだよ~?そんな無粋な事を聞いていると、女の子に嫌われちゃうよ~?」
「う、何でこのあいだ彼女に振られたことを知って・・・」
「・・・おい、通してやれよ」
「だって、こいつら怪しいじゃないか!」
「なあ、俺はお前のそういう仕事に一途なところは好きだよ。でも、それを家庭に持ち込むような事をするから、彼女さんに逃げられたんじゃないのか?」
「そ、それとこれとは話が!」
「この書状は正規のものだ。道中、体調を崩して途中で野宿する者もいる。ましてや女の二人旅だ、普通の冒険者たちから比べると歩みもゆっくりにもなるだろう。違うか?」
「く・・・分かったよ!」
「すまないね、お嬢さん方。書状は確かに受け取った。通って大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
「では改めて。ようこそお菓子の町スウィーティアへ!」
「なあ、そっちのお嬢さん、良かったら俺と・・・」
「お断りしま~す♪」
ミラの満面の笑顔と共に放った一言で、門番Aの心が砕け散った!・・・ような気がした。
慰めの言葉を掛けようかと思ったけど、私の方は眼中に無かったみたいなので心の中に押し留めた。
女の子の気持ちを勉強して、出直して来て下さいっ!
・・・まあ、来てもお断るする前提だけどね!
肩を落とす門番Aとそれを慰める門番Bを横目に町の中に入ると、絵の具をぶちまけたようなカラフルな建物が目に入ってきた。
同時に、町の外にいた時よりも強くいい匂いが辺りから漂ってくる。
大通りに面した店の前では、クッキーのような焼き菓子や見たことのない丸いお菓子など、歩いて食べられそうなものが色々と販売されている。
「ねえ、折角だしちょっと食べてからにしようよ~!」
「だめだよ~!先にギルドへ行かないと、閉まっちゃうよ~!」
「じゃあ、ちゃっちゃとギルドに行ってスイーツ巡りしよう!」
「ちゃんと終わってからだよ~?」
「うん、分かってるって!」
「あと、夕食が入らなくなるからちょっとだけだよ~」
「え~っ?!だったらお菓子を夕食にしちゃえばいいじゃない」
「だ~めっ!お菓子を主食にしちゃだめだよ~~っ!」
「ぶぅ~、ミラはダメダメばっかりー!」
「も~、そういうこと言ってるから子供っぽく見られるんだよ~?」
「そ・・・」
『そんなことは無いよ!』と言おうと思ったけど、さっきの冒険者の言葉を思い出して言うのを止めた。
あれって、ミラの方が大人っぽいっていう意味じゃなくて、私の方が子供っぽいって見られていただけじゃないかって思えてきた。
うん、きっとそうだ!そうに違いない!
・・・って、それって容姿も中身も子供っぽいってことだよね?
うーあー、なんか悲しくなってきたー・・・。
「リア、大丈夫~?なんか突然黙り込んだと思ったら、コロコロ顔色が変わるから調子悪いのかと思って心配になったよ~?」
「あー・・・うん、大丈夫。色々納得して、悲しくなっただけだから」
「うーん、よく分からないけど大丈夫なんだね~?」
「うん。さあ、ちゃっちゃとギルド行って、スイーツ巡りだっ!ほら、置いていくよーっ!」
「あ、走ったら危ないよ~」
悲しいことは、走って置いていくに限る!
折角の新しい町なんだから、新しい出会いと楽しいことを探さなくっちゃ!
さーて、この町のギルド長はどんな人だろう?
ブレンダさんみたいにカッコいい人かな?
それとも、エリスさんみたいにクールな人かな?
新しい出会いに胸をワクワクさせて、私たちはギルドへと向かう。




