73.オレンジ色の晩餐会
「は~い、お待たせしました~。ミラ特製キャロスペシャルだよ~!」
今日の仕事が終わって、待ちに待った夕食の時間が訪れた。
テーブルの上は、オレンジ色に彩られた料理で飾られている。
「すっごーい!これ、全部キャロで作ったなんて信じられない!」
「アタシも驚いたよ。同じ食材を使っているのにこんなに違う物が作れるなんてねぇ」
「エッヘン!でも、それだけじゃないんだよ~」
「というと?」
「それは食べてからのお楽しみで~。まずはサラダからどうぞ~」
ミラがこう言っているっていることは、味付けとか何か工夫しているんだろうか?
とりあえず、食べてみよう。
「じゃあ、いただきます」
最初はミラのオススメのサラダから。
見た目は葉物野菜の上に千切りにしたキャロが乗っていて、周りにトーマの実がコロコロに切って散りばめられている。
これは村の食堂でよく出されていた定番メニューで、私も食べたことがある。
味は当然知っているものだから、目新しい物は特になさそう。
なので、適当にフォークで一口分取って口へと運ぶ。
口の中で噛むと、シャクシャクという音がする。
やっぱり特に変わった事なんて・・・
「えっ、何これっ?!すごく美味しいよ!これ、本当にキャロなのっ?!」
キャロと言えば、独特の香りと味があって子供はもちろん一部の大人にも苦手な野菜の一つだ。
当然、目の前にあるものも独特の香りと味はあるんだけども、それを気にせず食べることが出来る。
普通のものは、乾いた感じの少し硬めの食感と口に残るえぐみがあって、甘さはほとんど感じない。
でもこれは、噛むとほんのりと水分が出てくる瑞々しさと、口の中にふわっと広がる甘さがあって、えぐみはほとんど感じられない。
「ねー?私も味見した時にビックリしちゃったよ~」
「これ、本当にいつもの野菜なのかい?なんだか、別のものを食べているみたいだよ」
「ねぇ、これって本当に何も手を加えていないの?」
「うん、ただ洗って切っただけのものだよ~」
「へぇ~、とてもそんな感じには思えないなぁ」
もしかして、これも魔法の手の効果なのかな?
植物の成長を早めた上に美味しくなるって、どれだけ農家向けの能力なんだろう。
あ、これで薬草を育てたら苦みの少ない美味しいのが出来るかも?!
今度、時間がある時にでも試してみよーっと!
「ささ、他のものも召し上がれ~」
「うん、これだと他のも楽しみー!」
「ユリちゃんには、こっちのキャロスティックだよ~」
「ん?そこに何かいるのかい?」
そういえば、ゴブリナさんにはユリの姿が見えてない感じだったっけ。
話しても特に支障は無さそうだし、いいかな。
「えーと、実は精霊がいるんです」
「そうなのかい?しかし、物を食べる精霊なんて珍しいねぇ」
「そうみたいですね」
正直、私自身もユリがどうして食べられるのかなんて分かっていない。
前にウッドストックのおじいさんが言っていた、半獣の部分が食べ物を求めているのかな?
理由はどうあれ、美味しい物を分かち合えるのはいいことだと思うし、気にするほどではないよね。
さて、食事の続きを楽しもうかな!
「ふぅ~、お腹いっぱーい!どれも美味しかったなー」
「普段はほとんどスープにして飲んでしまうんだけど、色んな調理法があるんだねぇ。勉強になるよ。今度試してみるよ」
「ふふ、ありがとう~。で、どれが一番良かった~?」
「うーん、キャロとお芋のパンケーキはモチモチしていて美味しかったし、焼き野菜やキャロのポタージュも程よく甘みがあって良かったなぁ」
「アタシは意外だったけど、ジュースが良かったねぇ」
「そうそう!締めに出てきたキャロと果物を使ったジュースも甘くて美味しかったよね!」
「リアはどれも美味しいしか言わないから、好みがよく分からないんだよね~」
「だって、ミラの作る料理はどれも美味しいんだもん。どれが一番かなんて答えられないよ」
「好き嫌いが無いのはいいことだと思うけど、好きな物がいっぱいあるのも困りものだねぇ」
「うんうん。だからリアに何が食べたいって聞いても大抵『ミラの作るものなら何でもいい!』って返ってくるから、作る物決まらなくて困っちゃうんだよね~」
「リア、食べたいものを聞かれたら、ちゃんと答えないとダメじゃないか」
「えー、でも本当にミラの作る物はどれも美味しいから選べないよー」
「そうじゃないよ。そういうことを聞く時は、大抵作る人が何を作るか困っているから聞いているんだよ」
「そうなの?」
「うん。だから、その時に食べたいものを言ってくれたほうが助かるよ~」
「でも、私だけで決めたら準備が大変じゃない?」
「そこは苦じゃないから、気にしなくてもいいよ~」
「なら、今度からはちゃんと答えるようにするね」
「うん、よろしく~。具体的な物じゃなくて、ざっくり肉とか魚が食べたいでもいいからね~」
「分かった」
「じゃあ、お片付けして明日の準備しようか~」
「あ、今日は私が洗うからミラはゆっくり座っててー」
「いいのー?じゃあ、お願いしようかな~」
「うん、まかせて!」
食事の片付けが終わってゴブリナさんにおやすみの挨拶を交わす。
外に出ると、空には満天の星が浮かんでいた。
今夜は根荒らしたちの声も聞こえない。
縄張り争いも一段落したのだろうか?
耳に入ってくるのは、時折どこかから聞こえてくる虫の声くらいだ。
まるで自分たちが世界から取り残されたみたいで、少し寂しく感じてしまう。
「そろそろお別れかなぁ・・・」
「うん。そろそろお別れだね~」
「もう少しここにいたいなぁ・・・」
「うん。でも、前に進まないとね~」
「そうだね、私たちには私たちの目的があるもんね」
「だよ~」
「ちょっと寂しいな」
「うん。でも、きっと次の町でも嬉しいこと楽しいこと、いっぱい待っているよ~」
「そうだね。さ、今日も疲れたしゆっくり休んで明日からまたしっかり動こう!」
「うん!」
初めてここに連れ去られてきた時は、食べられちゃうのかと思って怖くてビクビクしていた。
でもここにいる人たちは、そんな怖い人たちじゃなかった。
私たちと同じ、優しい気持ちを持っている人たちだった。
種族の差なんて関係ない、あるがままに自然に接してくれた。
それももうすぐ終わるんだ。
私たちは進まなくちゃいけない。
精霊王には世界を救ってみたいなこと言われたけれど、私にはそんな大きなことは分からない。
私はただ、触れ合ってきた色んな人のためにこの世界を守りたいだけだ。
自分のわがままかもしれないけど、それが私の本音だと思う。
そのためになら私は何でも出来る、きっとそう思えるから―――――




