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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第4節
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72.根荒らしといる日常

「何となく予想はしていたけど・・・」

「うん、育ってるね~」

 

 私たちの目の前には、青々と葉を茂らせた植物が列をなしていた。

 当然というか、雑草の類ではない。

 葉っぱの付け根と土の間に、オレンジ色の顔がひょっこりと覗いている。


「昨日芽が出てたからもしかしてとは思ったけど、もう収穫できる状態になってる」

「うん、少し小ぶりだけど、夕方までほったらかしにしたら育ち過ぎになるかもね~?」

「そうだねー」

「全部採っちゃおうか~?」

「んー・・・いや、半分くらい収穫して、残りは帰りに取ってみよう。どのくらいになるのかちょっと興味出てきた」

「りょ~か~い」


 早速収穫してみると、土の中からオレンジ色をした丸い根っこが出てきた。

 生で良し、焼いて良し、茹でて良しの万能野菜のキャロだ。

 葉っぱは少し苦みがあるから、一度茹でてから炒めて食べると美味しい付け合わせになる。

 寒さにも強くて一年中栽培できるから、各家庭の非常食用として人気が高い。

 ”豊穣の手”は、思っていた以上の効果があることは分かった。

 いや、”以上”というよりは、少し”異常”な気もする。

 他の所に何か悪い影響が出てないか、ちょっと気になるところだ。


「とりあえず、ここまでかな?」

「あっちのは取り終わったよ~!」


 畑の向こう側から、籠を重たそうに揺らしながらミラが戻ってきた。

 籠からこぼれた緑のふさふさが、ゆらゆらと揺れている。


「ほらっ、結構しっかりしてるよ~」

「ほんとだ」

「リアの豊穣の手だっけ?たった二日でここまで育っちゃうなんて、すごいスキルだね~」

「すごいとは思うけど、畑仕事限定じゃ使い道が微妙だよね」

「ならいっそのこと、農家に嫁いじゃうとか~?」

「うーん、お庭をいじるのは好きだけど、農家になりたいっていうほどじゃないからなー」

「そう?ちょっと勿体ないな~」

「とりあえずその話は置いといて、やっぱり味が気になるよね」

「そうだね~。折角だから、今日の夕食はキャロのフルコースにしちゃおうかな~」

「キャロのフルコースかぁ。どんな風になるか、今から楽しみーっ!」

「んふふ~、期待しててね~」

「うん、期待して待ってる!」

「あとは、アレ・・・栄養剤を撒くんだっけ~?」

「そ、水で思いっきり薄めてこの畑に撒くだけかな」

「私たちだけでやっちゃう~?」

「それでもいいけど、この村の人にやってもらったほうがいいと思うんだ」

「そうだね~。用法・用量を間違えると、屋敷の二の舞になっちゃうからね~?」

「それは言わないお約束でっ!」


 黒歴史が増えるのは、私の望む所じゃないからっ!

 コレはあくまでも植物用で、人が飲んじゃダメッ!

 ・・・あ、もしかしてこれをゴブリナさんに使ったら、巨大化するんじゃ・・・?

 って、馬鹿なこと考えている場合じゃないか。

 畑に来ていたゴブリたちを集めて栄養剤の使い方を説明し、私たちは根荒らしの方に向かうことにした。


 私たちが着いた時には既に柵の改修が始まっていて、中にいた根荒らしたちは木の箱の中に入れられていた。

 箱の中の状況、特に臭いについては推して知るべし、だけど。

 今日ここに来たのは、小屋のを手伝うためじゃない。

 もう一つ、重要なことをするためだ。


「折角住処が綺麗になるのに、住人が汚くちゃ仕方ないよね」

「うん、徹底的に綺麗にしてあげようね~」

「じゃあ、早速移動しようか。ミラはそっち持って」

「りょうか~い」


 二人で木の箱を持ち上げ、ゴブリナさんの家の裏手へと足を向ける。

 泉のお湯を借りて、根荒らしたちを綺麗に洗うためだ。

 もちろん泉で直接じゃなくて、表で洗うんだけど。

 道中、臭いが鼻の奥をツンツンと突くも、何とか耐え抜いた。

 気が付くと、私たちの近くからユリの姿が見えなくなっていた。

 あまりの臭さに逃げたとか?

 まあ、あの子は自由に歩き回っていることも多いし気にしても仕方ないか。

 さて、ここからが大仕事だ。

 本当は嫌だけど、私たちも汚れるのも覚悟しないとね。

 後ろを向き、すぅっと一息綺麗な空気を吸って息を止め、気合を入れる。


「じゃあ、1匹づつ順番に洗いますか!」

「あ、待って~」

「え、なに?」

「はい、これ使って~」

  

 そう言ってミラが差し出してきたのは、大きな葉っぱで作られたエプロンだった。

 かなり簡素な作りだけども、水はしっかりと弾きそうな作りになっている。


「無いよりはマシかと思って、作っておいたよ~」

「ありがとうー」

「あと、これも~」

「これは?」


 小さめの布の袋の中に何かが入っているようだ。

 袋を揉むと少し爽やかな香りがした。

 この香り・・・薬草だ。


「これでポンポンしたら、少しはいい匂いになるかなーって作ったんだ~」

「嬉しいけど、こんなのいつ作ったの?」

「ん~っとねー、時間見て、かな~?」


 いつものように微笑むミラの顔をしっかり見ると、目の下に薄っすらとクマが見えた。

 どうやら、昨日の夜にこっそり作っていたらしい。


「病み上がりなんだし、あまり無理しないでね?」

「うん。昨日の夜はちょっと寝付きが悪かっただけだから。大丈夫、今日はゆっくり眠れると思うよ~」

「そう?なら、いいんだけど・・・」


 ミラはああ言っているけど、心配だから今夜は確認してから寝よう。


「ほら、早く根荒らしたちを綺麗にしてあげよう?」

「あ、うん、そうだね」


 木の箱から1匹づつ根荒らしを取り出し、丁寧に洗っていく。

 かなり暴れられるのを覚悟していたのだけれど、大人しい子が多かったのは意外だった。

 とは言っても、時々やんちゃな子もいて、濡れた体をブルブルさせてお湯を飛ばす子もいた。

 洗い終わった子は、ミラに渡して体を拭いてもらい綺麗な箱の方に入れていく。

 洗いながら数えてみたら、全部で13匹いた。


「はいっ、これでみんな綺麗になりました~」

「小屋もそろそろ出来上がっている頃だろうし、戻ろっか?」

「うん、どんな感じになってるか気になるね~?み~んなでいーこう、根荒らしハウス~♪」


 色々と突っ込みたいところだけど、それをやったら残りの体力が全部持っていかれそうなのでスルーしよう。

 結局、小屋に着くまでミラはずっと一人で歌っていた。

 途中で根荒らしが、『チューチュー』と合いの手を入れていたような気がしたけど、そんなことは無いよね?

 キノセイキノセイ、ワタシハナニモキイテナイ。


 さっきまで柵しか無かった場所には、屋根と個室、それに餌と飲み水を入れる場所が付けられていた。

 柵の中の土も、綺麗なものに取り替えられていて、端っこの方に藁が積んである。


「おー、ちゃんと小屋だ」

「残念、ただの小屋か~」


 ミラさん、『残念』って一体何を期待していたんですか?!


「じゃあ、根荒らしたちを放そうか」

「うん。ほーら、新しいお家だよ~」


 小屋の中に放った根荒らしたちは、思い思いの方向に歩き回る。


「食べ物はさっきのを少し入れておくにして、トイレの方はどうやったら覚えてくれるかなぁ?」

「んー、ニオイを付けたら覚えてくれないかな~?」

「そうだね、何事もやってみないと分からないもんね」


 ちょうど目の前で、こちらにお尻を向けてプルプルしている子がいた。

 よく見ると耳の後ろに白い点がある、さっき洗った時にやんちゃしてた子だ。

 尻尾がピンと立ち、お尻からポロポロと茶色いものが零れ落ちた。

 タイミングがいいのか悪いのか、とりあえず適当な木の板を使ってそれをトイレに移動した。


「ほら、今度からここにしてね?」


 その子は分かったのか分からないのか、こちらの顔をちらっと見て『チュチュッ』と鳴くと、すぐにみんなの所に戻ってしまった。


「うーん、うまくいくかなぁ・・・」

「長い付き合いになると思うから、気長にだよ~」

「そうだね、気長にやろうか」

「じゃあ、餌をあげたら私たちも夕飯にしようか~」

「待ってました!今日一番の楽しみ!」

「そんなに期待されると、ちょっと緊張しちゃうな~」

「キューイ!」

「あ、どこに行ってたの?さっきは臭くて大変だったんだからね!」

「キュイ?」


 『何のこと?』と言わんばかりに、顔を右に傾けるユリ。

 本当は伝わっているんじゃないかと思いつつも確認する手段が無いから、ただの私の思い込みだと思うしかない。


「ユ~リちゃん、今日は美味しい夕食を出してあげるからね~」

「キューイキューイ!」


 ユリは喜んでいるのか、ピョンピョン飛び跳ねている。

 今の絶対分かってるよね?!

 食い意地が張っているのは誰に似たのやら・・・。

 そう思った時にふと、テレジアさんの「精霊とは心の形」という言葉を思い出した。

 なんだ、食い意地が張っているのは私譲りだったか。

 そう思った途端、今までこういう風に見られていたのかと、ちょっと恥ずかしくなってしまった。


「じゃあ、残りのキャロを収穫したら夕食の準備にしようか~」

「あ、収穫は私の方でやっておくから、ミラは先に戻って夕食の準備してて」

「そ~お?じゃあお願いしようかな~」

「うん、また後でね」


 手を振るミラに私も手を振って答える。

 私の顔は畑の方に向かったままだ。

 先にミラを帰したのは、分担する方が効率がいいからというのもあるけど、本当は恥ずかしさで変になってる顔を見られたくないということのほうが大きい。

 察しのいいミラの事だから分かっているかもしれないけど、それでも隠さずにはいられなかった。


「ユリ、私もうちょっと食べるの控えた方がいいかなぁ?」

「キュイ?」


 覗き込んだユリの顔は、何となく『無理じゃない?』って言っているような気がした。

 美味しい物のために頑張るのだって、悪いことじゃないよね?

 さあ、美味しい夕食も待ってるし、もうひと仕事がんばろうっ!


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