67.反動
「んん・・・眩しい~」
私を叩き起こすような勢いの朝日が、家の隙間から射し込んできた。
隣には気持ちよさそうに、スヤスヤと寝息を立てているミラがいる。
体全体が少し怠けど、頭の中は思ってたよりもスッキリしていた。
今日もやらなくちゃいけないことは沢山ある。
少し早いけど、朝食を取ってからにしよう。
「ミラ、朝だよー」
「えへへ~、珍しい食材はっけ~ん!これでスペシャルメニューを、むにゃむにゃ・・・」
夢の中のスペシャルメニューとやらは興味はあるけど、今はそんな場合じゃない。
とりあえず起こそう。
「おーい、起きてよー!」
「んむ~~、つまみ食いはダメだよぉ~?」
「そうじゃなくてー!ほら、今日もやることいっぱいあるんだから起きないと!」
「んーー・・・もう朝?」
「うん、朝だよ」
「おはよう?」
「おはよう、だよ」
「・・・じゃあ、おやすみー」
「あ、ちょっ・・寝ないでー?!」
再び寝ようとするミラの両肩を掴んで前後に揺さぶり、なんとか起こすことに成功した。
一応宿屋の娘だけど、こんなに朝が弱くて大丈夫なんだろうか?
毎朝、家族の人がどうやって起こしているのか、ちょっと気になるところではある。
まだ目を閉じてうつらうつらしているミラを引きずって、ブレンダさんの所に向かう。
「おはようございます」
「おや、もう起きたのかい?」
「はい。今日もやることはいっぱいありますし、昨日掴まえた根荒らしもどうなっているか気になって」
「それならさっき見てきたけど、最初からそこにいるみたいに大人しくしていたよ。で、そっちの子は立ったまま寝てるみたいだけど大丈夫なのかい?」
「え?」
横を見ると、口を半分開けたまま立って寝ているミラがいた。
器用な子とは思っていたけど、立ったまま寝るなんて器用・・・って、ちっがーう!
いくら朝が弱いと言っても、ここまで酷くなかったと思うんだけど。
「ねぇミラ、もしかして調子悪いの?」
「ん~んぁ?私?」
「うん、ちょっと様子がおかしいから大丈夫かなって」
「んー、普段よりちょっと体が重たく感じるだけかな~?それ以外は割と普通だよ~」
もしかして熱があるのかな、と思ってミラの額に手を当ててみる。
うん、熱は無いみたい。
昨日って、何か変った事ってしたかな?
んー、ちょっと思い浮かばないなぁ。
「ねぇ、いつ頃からそんな感じになったか分かる?」
「んーと・・・昨日の夜、捕獲作戦が終わった後くらいかな~?」
捕獲作戦の後ということは、明かりの魔法が原因ってことかな?
私たちはついこの間まで魔法は使えなかった、ただの村娘だ。
自分たちが使える魔力の上限とか出力の加減とか、まだよく分かっていないことが多い。
そういえば、魔法を使った時に『出力強め』とか言っていた気がする。
もしかすると、今のミラは魔力を使いすぎた反動が出ているのかもしれない。
幸い今日することは一人でもできるから、大事を取ってミラには休んでもらう方がいいかもしれない。
「ミラ、今日は休んだ方がいいかも」
「え、でも・・・」
「大丈夫、今日することは私一人でなんとかするから!」
私は精いっぱいの笑顔で、”大丈夫だよっ!”とアピールをする。
それを見てミラは少し悩んだようだったけど、すぐに返事が返ってきた。
「じゃあお願いしようかな~。あ、でも一人でどうにもならなさそうだったら、手伝うから叩き起こしてね~?」
「うん、その時はお願いね」
「話は終わったかい?朝食の用意が出来てるから冷めないうちにお食べ」
「あ、はい。いただきます」
テーブルに向かいあった後、3人で朝食を取った。
出された料理は相変わらず素朴な味わいだった。
いつもの塩味と薬草の効いたミラのご飯が恋しい。
食事が終わった後、私は着替えて畑に行くことにした。
「じゃあ、気を付けていってきてね~」
「うん、行ってきます」
弱々しく手を振るミラの姿が一瞬、ミラのお母さんの姿と重なったように見えた。
このままミラが倒れて旅が終わる、そんな悪い予感が頭を過る。
しかしそれはきっと気のせいだと自分に言い聞かせた。何度も、何度も。
だけども不安を完全には拭いきれなかった。
そんな拭いきれない不安を胸に、私は畑へと向かう。