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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第4節
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65.闇に紛れて

「ふぅ、これで完成!」

「リア、そろそろ時間だよ~」

「うん、こっちも準備オッケーだよ」


 思っていたよりも準備に手間がかかってしまい、辺りはすっかり暗くなっていた。

 というのも、今回は夜戦なので明かりが必要だということに途中で気が付いたからだった。

 作戦前だったから良かったものの、忘れていたらどうなったものか。

 本当に間に合って良かったと思う。

 外に出ると村の中央には、ゴブリたちが集まっていた。

 一応、作戦指揮は私がするということになったんだけど、あんまり自信は無い。

 しかも、こんなにいっぱいの人の前で話すのは初めてなので緊張するし。

 えーとえーと、こういうのを始める時はお決まりの言葉があったよね?


「えー、本日はお日柄も良く・・・」

「リア、それ違うよ~っ!それと、時間が無いから手短にね~?」

「あ、うんそうだね。じゃあ、早速作戦の最終確認をします」


 今回の作戦はこうだ。


 まずは作戦の対象。

 今回は、作物が残っている畑を作戦の対象にしている。

 次に待機するときの注意点。

 明かりが見えて根荒らしが逃げてしまっては元も子もないので、ギリギリまで火を付けないで待機する。もちろん、おしゃべりをしたりゴソゴソ動くのもダメ。静かに行動しましょう。

 そして作戦実行、ここが一番重要だ。

 昨日の状況で分かったけど、暗闇でも根荒らしの目が光って見えるのでこれを利用しようと思う。

 あと、特製痺れキノコ爆弾を投げるタイミング。

 根荒らしが畑の中に入ったのを確認してから投げ入れてもらう。

 この時に、自分たちは煙を吸い込まないように気を付けること。

 ある程度煙が落ち着いたら、明かりを点けて根荒らしを捕まえる。

 捕獲したらすぐに指定の柵に入れること。


「っていう感じですが、何か質問ありますか?」

「ハイ!」

「はい、そこの人どうぞ」

「もし、トり二がしたらどうする?」

「その時は無理に追わないで下さい。全部捕まえる必要は無いので、危ないと思ったら逃げて下さい」

「ワかった!」

「他にはありますか?」


 ゴブリたちはお互いの顔を見合わせると、納得したようで頭を上下に振る。


「じゃあ何も無いようなので、合図したら各自担当の畑に向かってください」

「絶対無理しちゃダメだよ~!」

「それじゃあ、すぅー・・・」


 息を大きく吸い込んで、右手を真っ直ぐに上げる。

 

「根荒らし捕獲作戦開始!!」


 右手を真っ直ぐ畑の方角に向け、作戦の開始を告げた。


『ワアアアアアアアーーー!!』


 ゴブリたちは一斉に大声を出して畑に向かって行った。


「ちょ、ちょっと!静かにしないとダメだってーー!!」


 ダメだ、全然聞こえていない。

 元気なのはいいことだと言うけれど、元気すぎるのも困りものだ。


「みんな元気だね~」

「そうだね。私たちも行こうか」

「うん、そうしようか~」


 私たちも他の人たちの後を追うように担当の畑に向かう。

 もちろん、目指すのは一番被害に遭う可能性の高い畑である。

 危険なのは分かっているけど、言い出した本人が安全な場所でのほほん、なんていうのは無責任だと思うからだ。

 私たちが畑に到着した時、空はほとんど黒に染まりかけていた。

 先に来ていたゴブリたちが、黒い輪郭になって畑の近くにいるのが何となく分かる。

 そろそろ、昨日根荒らしが出てきた同じくらいの時間のはずだ。

 しかし、森の方角からは光はおろか足音一つしない。

 不気味なくらい辺りが静かだ。


「うーん、来ないねー」

「もしかして、今日はお休みなのかな~?」

「私だったらご飯抜きはあり得ないと思うんだけどなー」

「それって、単にリアは食いしん坊だからじゃないの~」

「え、私そんなに食いしん坊じゃないよね?!」

「んー、それはどうかな~?」

「そこは違うって言ってー!」

「ふふふ~のふ~♪」


 それにしてもおかしい、一向に根荒らしが現れる気配が無い。

 ・・・もしかして読みが外れた?!

 だとしたら、どの畑に行ったのだろうか?

 既にどこかの畑では捕獲作戦が始まっているのかもしれない。

 こんなところで座ってないで、急いで向かわなくちゃ!


「リア、落ち着いて」

「あ、ごめん」


 どうやら思っていた以上にソワソワしていたらしい。

 ミラが気にかけて声を掛けてきたようだ。


「心配なのは分かるけど、他の畑にもみんなが待機しているのは知っているよね?」

「うん、分かってる。でも、読みが外れたんじゃないかって不安になってた。ごめん」

「ううん、心配なのは分かるよ。そのために準備をしっかりしたんだから、みんなを信じよう?」

「そうだね、私もみんなを信じてるよ」

「キュイ?」

「どうしたの、ユリ?」


 何かを察したのか、ユリが前方の森に注意を向けた。

 森の奥から光がやってくる。

 その数は一つ、二つ、三つと徐々に増えていく。

 根荒らしだ。


「来た!」

「みたいだね。私は明かりの魔法の準備をするよ~」

「じゃあ、合図したらよろしく!」

「うん、りょーかい」


 相手はまだ畑に入ってきていない。

 私は爆弾を投げるタイミングを見計らっていた。

 もしタイミングを間違えてしまったら、折角立てた計画が台無しになってしまう。

 それどころか相手に警戒されて、さらなる被害がもたらされる可能性もある。

 何としてもそれだけは絶対阻止したい。

 様子を伺っている間も、森の中の光の数は増え続けていた。

 既に昨日の数を超えているように見える。

 黒い塊が畑の縁に差し掛かるのを確認できた。

 まだ、まだ早い、もう少し、あと少し。

 額から一筋の汗が流れ落ちる。

 爆弾を握る手がしっとりとする。

 そして、光が畑の真ん中付近に差し掛かるのを確認した。

 今だ!


「みんな!息止めて!」


 爆弾を畑の真ん中付近に投げつける。

 着弾と同時に光と煙が周囲を包み込んだ。

 私も煙を吸い込まないように、服の裾で口元を覆う。


『ヂヂュー?!』


 煙の中から根荒らしのものと思われる鳴き声が聞こえてきた。

 徐々にその鳴き声が止んでいく。

 どうやらちゃんと効いているらしい。

 煙が風に流されると、畑の上にいた黒い集団は動かなくなっていた。


「ミラ、明かりをお願い!」

「うん、ちょっと強めで行くよ~!ライト!」


 ミラの放った光の玉が周囲を照らす。

 辺りは昼間のような明るさになり、畑の上で根荒らしたちが倒れているのが見える。

 その姿はミラの絵と同じ、ちょっと大きめのネズミの姿をしていた。


「みんな今だよ、捕獲して!」

「イくぞ!」

「ホカク、ホカクぅ!」


 みんなの手には捕獲用の道具が握られている。

 さあ、根荒らし捕獲作戦の始まりだっ!


 

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