64.良案は突然に
「なんだって?それ、正気かい?!」
私たちが出した答えを聞いた、ゴブリナさんの第一声がそれだった。
当然と言えば当然の反応である。
それは私たちの出した答えが、”根荒らしを飼う”という選択肢だったからだ。
まさか、”害獣”と言われている根荒らしを飼うという発想が出てくるとは思わなかったのだろう。
「はい」
「本気なんだね?」
「もちろんです」
「・・・はぁ、ちょっとずれている子とは思っていたけどここまでとはね。で、アタシらは何をしたらいいんだい?」
うう、相変わらず酷い言われようだ。
だけど今は時間が勿体ない、気持ちを切り替えていこう。
「まずは根荒らしを捕まえる道具、それに捕まえたのを入れる柵を作って欲しいんです」
「捕まえるって・・・まさか、森にいるヤツ全部じゃないだろうね?!」
「いいえ、捕まえるのは一部だけです」
「一部ってどのくらいだい?」
「えーっと、畑一つにつき10から15匹くらいってでいいかな?」
「そうだね~、最初は多めの方がいいかも~」
「随分半端に捕まえる気なんだねぇ?」
「まぁ、数は様子を見ながら調整するつもりなので、最終的にはもっと少なくなる予定です」
「そうかい。で、柵はどこに作ればいいんだい?」
「畑のすぐ近く、森との境界くらいにお願いします」
「はぁっ?!それじゃ畑を荒らしてくれって言っているようなもんじゃないかい!なんだってそんな場所に作るんだい?!」
これも想定内の反応だ。
害獣の前に餌をチラつかせるなんて、『どうぞ食べて下さい』と言っているようなものだ。
だけどこの作戦の真意はちゃんとある。
「みんなの話を聞いてて思ったんです。縄張りを持って集団で行動したりしているんなら、畑のすぐそばに縄張りを作ったらどうなるんだろうかって」
「つまり、畑の近くに縄張りがあるならこっちには入ってこないだろうって事かい?」
「はい、そうです」
「それだったら、村のみんなで交代して見張りをするほうが手っ取り早いんじゃないのかい?」
「もちろんそれも考えました。でも、誰かが襲われても殺すのは嫌なんですよね?」
「多少の抵抗はするけど、殺すまではしないねぇ」
「ゴブリナさんたちは殺さない、向こうは殺す気で襲ってくる。これってゴブリナさんたちが不利じゃないですか」
「確かに不利だねぇ」
「だから、同じ根荒らしに見張りをさせればいいんじゃないかって思ったんです。根荒らし同士の争いなら、ゴブリナさんたちは手を出さなくてもいいですよね?」
「自然のある様になっているものなら手は出さないよ」
「なら決まりだね!」
「じゃあ、今回の対策に何か名前を付けてみない~?」
「いいね!じゃあ、”ゴブリナ村再生計画”とかどうかな?」
「うわぁ、リアのセン・・・ううん、何でもな~い」
今、ものすごい露骨に嫌な顔をされた気がする。
「じゃあ、ミラは何かいい案ある?」
「ん~、根荒らしってネズミっぽいよね~?で、ネズミのお家を作って見張りの番をさせるから”ネズミの番屋大作戦!”ってどうかな~?」
私のよりは可愛い名前だと思うけど、ミラらしい感じが出ている。
余談ではあるけど、うちの村には収穫祭の時に”豊作祈願水割式”という儀式がある。
これはバルーンフラワーに水を詰めた水風船を、二手に分かれて投げ合い、次の豊作を祈るといったものだ。まあ裏には、鬱憤の溜まっている大人たちの気晴らしの為に始めた、とも言われているけど。
水風船と言っても当たると結構痛いし、服もびしょびしょになるので私はあまり好きでない。
ミラと初めて儀式を見に行った時に、「もっと可愛い名前がいい!」と言って議論したことがある。
その時に提案した名前が、”風船どっかーん大作戦!”だ。
最初は「えー?それは無いよー」と言っていたのだけど、村の男の子には「いーじゃん!なんかカッコよくね?!」と言われ次第に広まっていった。
それがいつしか親に伝わり、今では「今年もどっかんの時期がやってきたなー」なんて言われるようになっていた。
娯楽の少ない村だったから、こういう目新しいものというか、新しい感性は割と寛容に受け入れられたのかもしれない。
流石に村全体に広がるところまでは想像できなかったけど。
「うーん、私のよりは親しみやすいのかなぁ?そういえば薬草集めの時もそうだったけど、ミラって”大作戦”好きだよね?」
「うん。なんかこう、”〇〇大作戦!ちゅどーん!”って感じで気合入る感じがしない~?」
「その、”ちゅどーん!”は分からないけど、気合が入りそうって言うのは何となく分かるなー」
「よく分からないけど、名前なんて必要かねぇ?」
「必要だよ~!だって、これから始めるぞ!えい、やーっ!って感じになるでしょ~?」
「そんなもんなのかねぇ」
「そーだよ~!」
「まあ、そのナントカ大作戦っていう名前は置いといて、捕まえたヤツの餌はどうするんだい?」
「ナントカじゃなくてー、ネズむぐぐぐ?!」
このまま暴走するミラを放置しておくと、いつまでも先に進めなくなる。
私は熱が上がっていくミラの口に手を押し当てた。
しかしミラとの力差があるので、すぐに手をほどかれてしまう。
「ぷぱー!ちょっとリア、苦しいよ?!」
「ゴメンゴメン。でも今は時間が惜しいからね?」
「むぅ~、分かってるよ~」
ミラはちょっと不機嫌になったけど、空気が読めない子というわけでも無い。
すぐにまた、いつもミラに戻っていた。
「餌についても考えてあります。昨日、畑の手伝いをしていて気が付いたんです。間引いたものだけでも結構な量があるから、それを餌に回したらどうかなって」
「確かに、毎回結構な量が出てるね。一部しか食べきれていないから問題無いよ」
毎回結構な量が出てるって、畑の管理がザックリすぎじゃない?!
・・・心配だから、あとで畑の方も見ておこう。
「柵はこちらでなんとかするにして、どうやって捕まえる気だい?」
「うん、これを使おうかと思って」
バッグから例の洞窟で採集したキノコを取り出した。
「何だい、このキノコは?」
「これは光茸って言って、痺れ薬の材料になるんです」
「痺れ薬だって?そんなもの使って大丈夫なのかい?」
「まあ、多少吸い込んだとしても毒性はあまり強く無いので、ちょっと痺れるくらいです」
「それじゃあ相手にも効かないんじゃないのかい?」
「そこは体の大きさの差があるから、それなりに効果はあると思います」
「そうなのかい?」
「これから薬を調合するので、柵と捕まえられる道具があれば今夜にでも実行できるんですが・・・」
「柵なら夕方くらいまでに何とか作れるよ。あとは捕まえるのに使えそうな道具だね。ちょっと待ってておくれ」
そう言うと、ゴブリナさんは近くのゴブリに指示を出した。
戻ってきたゴブリの手には謎の道具が握られていた。
手元は木製で先が二つに分かれていて、先っぽに引っ掛けるようにして籠が括りつけられている。
「これは高いところにある果物を取る道具だよ。棒の先にある籠で果物をキャッチするんだ」
「へぇ~、これも人間の村で使われているのを真似たんですか?」
「いいや、これはアタシたちで作ったものだよ。アタシたちは木に登れないからね」
「これいいなぁ~。木に登らなくてもいいから収穫しやすそう」
「終わったら返しておくれよ?アンタにあげたら、木に生っている果物を根こそぎやられそうだからね」
「そんなことしないですよ!」
「どうかな~?リア食いしん坊だから、根こそぎ食べちゃうんじゃないの~?」
「ドロボウ?マタ、ドロボウするか?」
「だーかーら、しないってー!」
「アハハ。しかしよくこんな案を思いついたもんだね、どうやったんだい?」
「えーと、そのー、それはー、発想のテンカ?」
「リア~、それを言うなら発想の転換だよ~?」
「そうそれ!あ、あはははは」
「そうなのかい?」
私は頭の後ろを押さえてその場を誤魔化した。
二人の視線が痛い、前にもこんなのがあった気がする。
時は流れ歴史はルールルルー、とか言うんだっけ?
・・・なんか違う気がするけど、まあいいっか。
今回のは我ながら良案だと思うけど、発想元がその・・・あんまり言いたくない内容なので誤魔化してしまっただけである。
というのも今回の件、本当は捕まえて柵に入れるという発想はだけで、それ以上は考えていなかった。ほとんどがここに来る途中、ミラと話をしていて閃いたことだった。
「捕まえるのは何とかするにしても、誰かが見て無いとダメだよねー」
「そうだね~。夜通し、寝ずの番をしないとね~」
「え、何?ネズミが番?」
「ネズミが番?それ、面白そうだね~!」
とまあ、こんな感じで話が弾んで今回の作戦が決まったのだった。
世の中、どこに良案が潜んでいるか本当に分からないものである。
たとえ間違いでも、結果が良ければそれでいいと思うんだ。
とは言え、結果の行く末もちゃんと見届けないとだよね!
さあ、夜に向けて準備しなくちゃ!




