62.森の人
「アタシたちゴブリ族の先祖は『アルラ』って呼ばれていたんだ」
「アルラ?」
「ああ、このくらいの小さな植物の魔物さ」
「ま、魔物?!」
ゴブリナさんたちの先祖が魔物・・・?
驚きはあるけども、同時に納得のいく部分もあるのは確かだ。
元が植物なら肌の色が緑色なのも納得できる。
ゴブリナさんの足元を見ると、少し茶色っぽいのは根っこだった時の名残なのだろう。
だけど元々のの大きさは30センチくらいだから、今の半分の大きさも無い。
何かがあって今の大きさになったっていうことなのかな?
ゴブリナさんは尚も話を続ける。
「・・・まあ、当然の反応だね。」
「すみません、ちょっと驚いています」
「だろうね。どうする、アンタたちは冒険者だろ?魔物って分かったんだ、アタシたちを退治するかい?」
「そ、そんな、とんでもない!退治なんてしませんよ!それに私たちは商人ですから!」
「まあ、どっちだっていいさ。人間は自分たちと違う物を受け入れられない種族だっていうのは分かっているさ。魔物の話なんてこれ以上聞きたくないだろう?」
確かに村では魔獣や魔物は、人に危害を加える危ない存在だと教えられてきた。
だから村の人が遠くの町に行く時に護衛を付けるのが当たり前だったし、自警団が村の周囲の見回りをするのはいつもの事だった。
私たちも安全が確認されていた近くの森以外には行ったことが無い。
・・・あれ?そういえば、お父さんが遠出する時に護衛の人って誰も付けていなかったような?
もしかして、お父さんってかなり強いのかな?
疑問は色々と湧いてくるけども、ゴブリナさんの話にも興味がある。
魔物だったゴブリナさんの先祖が、今の姿になったのは何故なのか?
どうして私たちと話せるようになったのか?
疑問の種を挙げればきりがない。
なら、答えは一つだ。
「ううん、私はゴブリナさんの話に興味があるの。だからちゃんと話が聞きたい」
「ホントにアンタは物好きだねぇ。これからアタシが言うことが本当のことだって保証は無いんだよ?」
「うーん、知らないことが多いから嘘が混ざっていても分からないかも」
「他人の嘘を見抜けない人が商人やってるなんてねぇ、大丈夫なのかい?」
「確かにリアって感情はすぐに表情に出るし~、察しの良くないところも多いよね~?」
「むぅ~」
二人の言うことは当たってるから反論できない。
『感情が豊か』と言えば聞こえはいいけど、それって『顔にすぐ出る』っていうことだ。
村で売り子はしていたけど、商人向きでは無いのかも。
「でも、大丈夫だと思いますよ」
「まったく、どこからその自信が湧いてくるんだい?」
「んー、根拠は無いけどゴブリナさんなら大丈夫かなーって」
「はぁ、とんだお人好しだねぇ。商人よりも聖職者か何かの方が向いているんじゃないかい?」
「それは無理だと思うな~」
「み、ミラ?」
「だって、疚しいこととかあったら顔にすぐ出ちゃうから、信者の人たちが不安になっちゃうよ~?」
「アハハ、確かにそれもそうだね!」
「でしょ~?あはは~」
「もー、二人ともひどーい!」
「まあ、話の続きでもしようかね」
「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」
「何だい?」
「ゴブリナさんたちの先祖のアルラって、どんな魔物だったんですか?」
「あ、それは私もちょっと気になるな~」
「そうさね、アタシも直接会ったわけでは無いから詳しくは知っているわけでもないけど、それでもいいかい?」
「はい」
「アタシが知っている限りでは、頭の上に大きな花が付いていて長い蔓で獲物を捕らえて養分にしていたっていうことくらいかね」
「へぇ~。でもそんなのが歩き回っていたら、森中の動物がいなくなっちゃうんじゃないの?」
「いや、移動は出来なかったらしいよ。なんでも、花から獲物が好む香りを出して近寄ってきたものだけを捉えていたらしいよ」
「え?それじゃあ、獲物が捕まらない時はどうしていたんですか?」
「水と光それに大地から栄養を吸収していたから、特に問題なかったみたいだよ。獲物は間食みたいなものだったんだろうねぇ」
お肉が間食って、魔物ってよく分からないなあ。
でも、私も小腹が空いたときに木の実とかつまんでいたけど、そんな感じだったのかな?
「ねえ、アルラって今でもいるのかな?」
「残念ながら、アルラは絶滅しちまったと聞いているよ。もう数百年以上前のことさ」
「そっか、じゃあアルラにはもう会えないんだね。ちょっと残念だなー」
「そうかい?でも、アタシたちみたいに知性が無かったみたいだから、取って食われちまうよ?」
「うーん、それは嫌だなぁ」
「そういえば、アルラは歩けなかったみたいだけども~、ゴブリナさんたちは歩いているよね~?どうしてだろ~?」
「詳しくは知らないけど、冒険者を襲うためとか逆に逃げる為に歩けるようになったとか言われているねぇ」
「へぇ~、じゃあそのうちその辺の薬草にも足が生えて逃げちゃうようになるのかな~?」
「さすがにそれは無いと思うけどねぇ」
薬草に足って、ものすごく変なんだけど!
逃げる薬草に追いかける薬屋ってかなり面白い光景だと思うけど、自分がその立場になるかもと考えるとちょっと嫌だ。
そういえば、獲物を捕らえているんだとしたら、ゴブリナさんたちも狩りとかするんだろうか?
でも、それっぽい道具も見当たらないし、どうしているんだろう?
「そういえば、ゴブリナさんたちは動物を捕らないんですか?」
「ああ、今は捕らないね」
「今は?」
「そうさ、獲物を捕ることを禁止しているんだ」
「禁止?それって、時期が決まっているってことですか?」
「いいや、ずっとさ」
「ずっと?!」
「この村が出来る少し前、今の姿に近い形を取るようになった時に事件が起きたのさ」
「それってどんな事件だったんですか?」
「いつものように捕まえた獲物を吸収した時、一部の者に異常が起きたんだ。急に狂暴化して、他の仲間を襲い始めたんだ」
「狂暴化?!」
「当時の半数くらいがその時の事件で命を散らしたもんだ。かなり凄惨な状況だったらしい」
突然狂暴化して襲い掛かってくるなんて、少し前にどこかで聞いた話みたいだ。
でもあれは施設で行われていた実験で、ゴブリナさんの先祖が捕まえたのは森にいる普通の動物だ。
関連付けるにするには、要素が足りなすぎる。
「残った者たちの間では、暗黙の了解で動物を捕らえることを禁止した。そうすると、今度は別の問題が出てきた」
「別の問題?」
「ああ、栄養が足りなくて倒れる者が出てきた」
「え?水と光と大地からの栄養で賄えていたんじゃないの?」
「それは移動できるようになる前の話さね。移動できるようになってからは、大地からの栄養が絶たれた状態だったのさ」
「それじゃあ、ゴブリナさんの代になる前に栄養不足でみんな倒れちゃうんじゃないの?」
「確かにそのままじゃ全滅していただろうね。だけど当時の者たちはあることに気が付いた」
「?」
「自分たちが大地から栄養を摂れないのなら、大地の栄養を蓄えたものを食べればいいってね」
「確かに森の中だったら食べられそうなものはいっぱいあるよね」
「ああ、でも全てを賄えるほど森は豊かでなかった。だからある計画が立てられた」
「それが、村の周りにある畑ってこと?」
「そうさ。だけど畑なんて誰も作ったことが無いから、人間の村を参考にしたんだ」
そっか、だから道具や畑が古い作りのものばかりだったんだ。
でも見ただけで作れるなんて、結構器用な人たちがいたのかもしれない。
「それから見様見真似で畑が作られ、村が出来たってわけさ」
「へぇー、村が最初じゃなかったんだ」
「畑や道具作りはもちろん、作業の指示を出す為に言葉も覚えたっていう話だよ」
「そっかぁ、それで私たちと普通に会話できるんですね」
「ちなみに、その時に先頭に立ってみんなを導いていたのが初代ゴブリナという訳さ」
「初代の人もゴブリナっていう名前なんですか?」
「ああ、そうだよ。村の長になる者が代々『ゴブリナ』の名前を継いできたんだ。アタシはその7代目ってわけさ」
「そうだったんだー」
何もないところからみんなをまとめてこの村を作るなんて、私には到底無理だ。
初代ゴブリナさんって、結構すごい人だったんだなぁ。
今のゴブリナさんの話を聞いていて、この村に留まろうとしていた理由が少し分かった気がする。
だとしたら、根荒らしの対策と畑の維持もしくは改善、これが今回の会議の主体になるはずだ。
よし、みんなが納得できる方法を必ず見つけなくちゃ!




