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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第4節
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60.闇に潜むもの

「ハタケ、ツいた」


 辺りは真っ暗で畑の全体は見えない。

 畑として切り開かれたであろう空間が、何となく見える程度だ。

 持っていた灯りを畑に近づけると、被害の断片が見て取れた。


「何これ、酷い・・・」


 土の上に野菜が投げ出されたように横たわっているが、無残に真ん中付近だけがかじられた跡があった。

 それも1本や2本の話ではない。

 明かりの当たっているところを数えただけでも、5・6本ほど見える。

 この状態が目の前の空間全部に広がっているとすると、この畑はほぼ全滅という話になるだろう。

 向こう側を見ているミラの方はどうだろう?

 明かりを目印にミラの元に向かう。


「ミラ、そっちはどうだった?」


 明かりの当たったミラの顔は悲しげで、首を横に振った。


「こっちはダメだよ~。全部かじられちゃってる。リアの方はどうだった~?」

「向こうもダメだったよ。多分、この畑全部がやられているんじゃないかな」

「そっか。かじった跡からすると、それほど大きな生き物じゃない感じだと思うんだけどね~」

「そうだねー、大きさ的には小型の魔獣かそれよりも小さいっぽい感じだよね」

「これが畑全体ってことは、一匹二匹の仕業って訳じゃなさそうだね~?」


 うーん、今回は相手が大群ってことかー。

 だとすると、大がかりな仕掛けが必要になるかも。

 畑の周りに高い囲いをして入れなくしようか?

 ああ、でも木製だとかじられて中に入られる可能性もあるか。

 むぅー、どうしたらいいもんだろう。


 そんなことを考えていると、肩をちょんちょんとつつかれた。 

 

「・・・ねえ、リア。考えているところ悪いけど、ちょーっと落ち着いて聞いてね~?」

「なーに?今、大事なことを考えて・・」

「ちょっとだけ右見て?静かに、だよ?」

「右?暗くて畑なんか・・・」


 真っ暗な畑の向こうに、無数の光が瞬いているのが見える。

 星・・にしては位置が低すぎるし、何かの灯りだろうか?

 いや、灯りにしては小さすぎるし、瞬いているのは変だ。

 ・・・なんだろう、すごく背筋がゾクゾクする。

 暑いわけでも無いのに、額から汗が一筋流れ落ちた。

 不意に腕をグッと引っ張られる。


「リア、逃げよう」

「う、うん!」

「他のゴブリさんたちにも合図を送るね」


 持っていた灯りでクルクルと円を描き、村の方に向かって横に振る。

 向こうからも、クルクルと明かりが円を描いた。

 どうやら伝わったらしい。

 私たちは急いでその場から逃げ出した。

 判断が早かったおかげか、ゴブリナさんの所に無事戻ることが出来た。

 

「お帰り、何か分かったかい?」

「すみません、ちょっと危ない気配を感じたので戻ってきました」

「もしかして、根荒らしかい?」

「暗くてよく見えなかったんですが、多分そうだと思います」

「そうかい。まあ無事で何よりだよ」

「ねえ、さっきの光ってやっぱり?」

「うん、たぶん根荒らしの目が光っていたんじゃないかな~?」

「だとすると、ものすごい大群だってことだよね?そんな量の根荒らしが頻繁に出ていたら、ゴブリナさんたちの畑は全部ダメになっているんじゃない?」

「いいや、根荒らしが増えたのはごく最近の話だよ」

「え?」

「昔からこの辺りに根荒らしはいたんだけどね、被害が大きくなったのはここ数日の話さね」

「それっていつ頃くらいか分かりますか?」

「そうさね~、大体10日くらい前だったかねぇ」

「10日前かぁ・・・」


 10日前というと、私たちがウッドストックにいた頃だ。

 あの時は魔獣が出てきて、町の外に出られなくなったっけ。

 なんとか魔獣を倒したけど、あんな思いはもうこりごりだ。

 ・・・あれ、何か引っ掛かるなぁ。


「まあ何かをするにしても、今日はもう暗いし明日にするさね。夕飯にするから少し待ってておくれ」

「あ、何か手伝うことがあったらやりますよ」

「じゃあ、今日自分たちが寝るところの掃除でもしてもらおうかね。うちの隣に空き家があるから自由に使っておくれ」

「わかりました。ありがとうございます」



 ゴブリナさんに一礼をして空き家へ向かう。

 中は思っていたほど荒れていなかったけども、少し埃っぽかった。

 寝床というには簡素な、藁の上に布を乗せたような作りだった。


「ねえリア、気付いた?」

「んー、何か繋がりそうなんだけど、ちょっとまとまらないんだよねー」

「そっか。あのね、これは私の予想なんだけどね、ウッドストックの魔獣の件と関係あるんじゃないかと思ってるんだ」

「やっぱりミラもそう思う?でも、どう繋がっているのか分からないんだよねー」

「うーんと・・・じゃあね、例え話なんだけど聞いてみる?」

「例え話?」

「うん。例えばさ、リアが森に住んでいて、近くにこわーい魔獣が出てきたらどうする~?」

「嫌だなーって思う」

「だよねー?で、どうする~?」

「んー、とりあえず安全な所に逃げるかな?」

「だよねだよねー?でね、その魔獣がいつまでそこに居座っちゃったらどうする~?」

「早くどこかに行ってくれないかなーってイライラしてくる」

「じゃあ、そんな時にご飯って美味しく食べられる~?」

「ご飯は美味しく食べたいけど、自分が食べられちゃうかもしれないのに美味しくなんて・・・あ、そうか!」

「どう?考えまとまった~?」

「うん」

「そっか、たぶん私と同じじゃないかなーって思うけど、答え合わせしようか~?」

「そうだね、じゃあ、私から言うね?」


 話を整理するとこうなるはずだ。



 伐採場近くの洞窟に魔獣が居着いて、あの周辺の森に食べ物を探すためにうろついていた。

 森を根城にしていた根荒らしが危険を察知して、他の森に逃げようとした。

 でも、拒絶の森の奥には入れないから、逃げられる場所が限られていた。

 んで、森に逃げてきたのはいいんだけど元々住んでいた根荒らしたちがいて、縄張り争いになった。

 そして負けた根荒らしが、たまたまゴブリナさんたちの畑を見つけて根城にした。



「っていうのが仮説だけどどうかな?」

「うん、私も大体同じ感じかな~」

「まあ、結局どこから魔獣が現れたのかも原因も分からないし、私の勝手な妄想なのかもだけどね」

「案外、妄想じゃないかもだよ~?」

「っていうことは、何か確信があるの?」

「ほら、私たちがウッドストックに着く前に冒険者が狩りをしていたでしょ?」

「うん、あの時は攻撃外して逃げられていたみたいだけどね」

「そ。だから安全な私たちの村の方には逃げられなかったんじゃないかって思うんだ」

「それだと北側に逃げたのがいるんじゃないの?」

「北側って、例の山があって危ない魔獣が出るっていう話だったよね~?」

「そっか、だからこっち側に逃げてきたんだ」

「そういうこと~」

「だったら、根荒らしってあんまり強くないんじゃないの?」

「うん、そんなに強く無いとは思う」

「だったら、楽勝じゃないかな?」

「うーん、そうでもないと思う。だって相手は群れで襲ってくるんだよ?」

「そっかー、相手は数の暴力で来るんだもんねー」

「まあ、戦わなくて良ければその方がいいんだけどね~」

「うん、ゴブリナさんもあまり戦いたくなさそうだったもんね」

「そろそろご飯の準備が出来ていると思うし、行こうか~?」

「そうだね」



 ゴブリナさんの作ってくれた夕食は、どれも素朴な物だった。

 主食は芋を茹でただけのもの、おかずは野菜がいっぱい入ったスープだった。

 料理は塩味が全然しなかったけど、野菜の甘味でなんとか食べられるという感じだった。

 良く言えば、『大地そのものの味がする』というやつである。

 そういえば肉や魚は無かったけど、そういうものは食べないのかな?



 片付けが終わった後、ゴブリナさんは『今日は疲れたから早く休む』と言っていたので、私たちも早めに寝ることにした。

 藁が少しチクチクとする寝床の中で、さっきの事をずっと考えていた。

 相手は弱い魔獣で数がいっぱい、出来れば戦わない、そんな都合のいい方法。

 それはあくまで理想なのは分かっている。

 でもそれが出来れば、誰も傷つかないで幸せに収まる、そう思うんだ。

 そんなことを考えながら、ゆっくりと意識は闇に溶けていった。


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