59.緑のお仕事
「さて、ここがアンタたちの仕事場だよ」
ゴブリナさんに連れられてきたところは、森の中とは思えないほど立派で大きな畑だった。
畑は綺麗に区割りがされていて、一望しただけでも色んな種類の植物が植えられているのが分かるくらいだ。
「わぁ~~、すっごーい!」
「色んなお野菜があるね~」
「アンタたち、畑仕事は出来るかい?」
「ええまあ、家庭菜園くらいなら・・」
「私も同じ感じかな~」
「なら、説明することは特になさそうだね。アンタたちにやってもらいたいのは、この畑の世話だよ」
「世話?」
もう一度、畑をよく見てみる。
綺麗に並べられている植物の中に、枯れてしまっているものや隣と比べて明らかに成長の差が出てしまっているものなどがチラホラと見えている。
もちろん、所々に本来の目的以外の植物も見えている。
俗に”雑草”と言われているものだけど、私はこの”雑草”という言い方は好きではない。
『どんな植物も理由があって存在している』と言えば聞こえはいいが、実際はそうではない。
昔うちに薬草を買いに来た冒険者が、売り物の薬草を見て『なんだこの雑草は?』とか『ここでは客に雑草を売りつけるのか!』とか文句を言う人がいて、悲しさと悔しさと怒りが混ざったような複雑な気持ちになったことがあった。
まあ、大抵が初心者丸出しの冒険者だったし、こちらは売り子だったから怒らずにきちんと説明はしたけど。
それでもやっぱり自分の命を守るものだし、ちゃんと覚えておいて欲しいと思う。
・・・あと、道端で適当に草を拾って『これは薬草だ!』とか言って毒草食べちゃって、うちに駆け込んでくる人とかいて、本気で勘弁して欲しいと思ったものだ。しかもあの、”私、毒に掛かってます!”的な真っ青な顔でヨロヨロしながら店に入ってこられて、何度ビックリしたことか。
そのおかげでというか、多少の事ではあまり動じなくなったのは良かったのか悪かったのか。
「うーん・・ざっと見、間引かないといけなさそうなところもありますね」
「まあ、それが分かれば大丈夫さね。道具とかはほら、あそこにいる奴らに聞いて適当に使っておくれ」
「わかりました」
「じゃあ、早速始めちゃう~?」
「うん、結構広いからちゃっちゃっと始めよう!」
「りょうか~い」
「じゃあ、アタシは別の仕事があるから頼んだよ?」
「はい、任せてください!」
ゴブリナさんはそのまま別のところへ行ってしまった。
他の畑も見てみたいけども、今は目の前の与えられた仕事に集中しよう。
「まずは、道具を借りてこないとね」
「うん。畑仕事用の靴と、要らない植物を刈るときに使うナイフがあったらいいかな~?」
「そうだね、どんなのがあるかちょっと聞いてこようか」
私たちはゴブリナさんに教えてもらった人たちに、話を聞きに行った。
「あの、畑に入る時の靴って無いですか?」
「クツ?オレタチ、ハタケハイるトキ、コレツカう!」
そう言って見せられたのは、植物を編んで作った少し丈のある靴だった。
しかしいかんせん、サイズが小さすぎて私たちには履けなさそうだ。
「これの大きいのって無い?」
「ナい。ミンナこのオオきさ!」
「そっかぁ・・」
「ㇹかにヒツヨウなモノ、アるか?」
「じゃあ、植物を刈るときに使うような刃物は無いの?」
「イシのならアる。イらないのトるときは、ヒっこヌく!」
「え?じゃあ畑を耕す時って、何を使っているの?」
「ハタケタガヤすの、キのクワツカう!」
「そ、そう。わかった、ありがとうね」
どうやらここで使われているのは、木製か石製の道具しかないようだ。
結局借りてきたものはというと、要らない植物や間引いたものを入れる籠くらいだった。
靴は無いみたいだし、仕方が無いから今使っているものを使おう。
道具も自分たちの持っているものの方が良さそうだ。
これが終わったら、色々と手入れしておかないとなぁ。
「んじゃ、私はこっちの畝でやるね」
「じゃあ、私はこっちの畝で~」
枯れた物や間引いたものは籠に入れていく。仕分けは終わった後でまとめてやった方が効率的だ。
もちろん、使えそうなものは夕飯に入れてしまう予定だ。
時間との勝負なので、小さなものは無視してどんどん進めていく。
最後の一つが終わった時には、すっかり辺りは夕闇に包まれていた。
「やっと終わったね~」
「うん、もう腰がバッキバキ!」
「あはは、後でほぐしておかないとね~」
他のゴブリたちも仕事が終わったようで、村の方に帰ることにした。
村に帰ってくると、なんだか少し騒がしいようだった。
何かあったんだろうか?
「ヤられた!」
「マタデたのか?」
「アア、ムこうのハタケ、ゼンメツ!」
「ゼンメツ?!それタイヘン!」
状況はよくわからないけど、何やら不穏な言葉が飛び交っているのだけは分かる。
もしかして、また恐ろしい魔獣とか出たんじゃないだろうかとちょっと不安になる。
とてもじゃないけど、今の装備で戦うのは無理だと思う。
「何かあったみたいだね」
「うん。ゴブリナさんに詳しく聞いてみたほうがよさそうだね~?」
「そうしよう」
私たちはゴブリナさんの家に入って事情を聞くことにした。
「何かあっ・・」
入り口の布を持ち上げて入ろうとすると、ものすごい怒声が飛んできた。
「まただって?!一体どうなっているんだい?!」
思わず立ち止まって、身を屈めてしまった。
「わわ!も~、急に止まってどうしたの~?!」
「あ、ごめん。ちょっと驚いて・・」
「おや、仕事は終わったのかい?」
「あ、はい。ところで村が騒がしいですけど、何かあったんですか?」
「ああ、そのことかい。実は”根荒らし”が出ちまったんだよ」
「ネアラシ?」
「そう、根荒らしだ。あいつらは畑を食い散らかす害獣だ」
「それって危険な魔獣なんですか?」
「魔獣?なんだいそれは?とにかく厄介なヤツが出たもんだよ・・・」
ゴブリナさんは頭を抱え込んでしまった。
ブレンダさんもそうだったけど、上に立つ人ってやっぱり大変だ。
根荒らしがどんなのかは分からないけど、頑張って手入れした畑が荒らされるのは嫌だ。
何とかするにしても、詳しく話を聞かないことには対策も立てられない。
そうなると、また巻き込んじゃう人がいる。
ミラの方に視線を向けると、いつものようにコクンと頷いた。
ありがと、ミラ!
「あの、よかったら詳しく話を聞かせてもらえませんか?」
「ん?アンタらは自分の仕事をこなしたんだ。これ以上首を突っ込んでもいいことなんて無いよ?」
「それでも、目の前で困っている人を見捨てるようなことはしたくないんです」
「いいのかい?」
「はい。それに、困っている人を見捨てたなんて言ったらお母さんに合わせる顔が無いから」
「そうかい。アンタのお母さんは、きっと真っ直ぐな人なんだねぇ」
「うーん、真っ直ぐというか曲がっているというか、捉えどころの無い感じかなぁ?あ、でも、優しいし面白いし、時々すごい怖い時も・・って、今日会ったばかりの人に言う事じゃないですよね。あはは」
急に恥ずかしくなって、頭の後ろに手を当てる。
ミラも笑顔のまま『仕方が無いなぁ~』という表情をしている。
しかしゴブリナさんは、声を潜めて泣き出してしまった。
「あの、すみません!私また何か傷つけるような事言いました?!」
「いいや、嬉しいんだよ」
「嬉しい、ですか?」
「最初に会った時もそうだったけども、アンタらは私たちの事を”人”って言ってくれるんだね」
「え?だってこの村の人たちだって、人なんでしょ?」
「ああ、そうだよ。でもほとんどの冒険者は違う。私たちのことを”魔物”と言って襲ってくるようなヤツばかりだった」
「そうなんですか?肌の色はちょっと違うくらいで、他は変わらないと思うんですけど・・・」
「そう言ってもらえると嬉しいねぇ」
「もしかして、街道に姿を見せないっていうのも、冒険者に襲われない為ですか?」
「そうさね。アタシたちは争い事は好まない。でも、相手は違う。自分と違うから敵だと決めつけて襲ってくるのさ」
「自分と違うからって、そんなの勝手すぎじゃない!」
「そうでもないさ。大抵の人間は自分と違う物は排除しようとする。自分を守るためにね」
「そんな・・・」
「でも、アタシたちも同じさ。自分たちを守るために根荒らしをどうにかしようとしているんだ」
「それは、畑を育てているのがゴブリナさんたちで、その根荒らしが畑を滅茶苦茶にするのを守っているだけじゃない!」
「過程はどうあれ、結局は根荒らしを住んでいる場所から追い出したり殺したりするんだ。私たちに罪が無い訳じゃない」
「じゃあどうすれば・・・」
ゴブリナさんの『罪』という言葉が重く圧し掛かる。
攻めるのは罪、守るのも罪。
じゃあ、何もしない?
ううん、それは違う。
なら、どうしたらいい?
考えろ、考えろ私!
・・・・・・・・・・・・・・・。
ダメだ、何も考えつかない!
こういうとき、いつもどうしてたっけ?
お母さんがいたらなぁ・・・。
ふと、家でいた時の事が脳裏を過る。
「リア、うちの家訓覚えてる?」
「家訓・・・」
「そ、頭を使って分からないときは」
『体を使って考えろ!』
そうだ、そうだった!
こういう時こそ体を使うべきだ。
そのためには、まずは状況を見に行くべきだ。
もしかすると何か分かるかもしれない。
急いで行こう!
「とりあえず、根荒らしが出たって言う畑が見てみたいんですがいいですか?」
「荒らされた畑なんか見て、どうする気だい?」
「うまく説明できないんですけど、何か手掛かりになりそうなものが無いか見てみたいんです!」
「・・・辺りはもう真っ暗だよ。灯りを持っておいき。誰か、この子らを案内してやっておくれ」
「ありがとうございます!」
「あいつらは夕方から朝方にかけてやってくることが多い。今から行ったらちょうど鉢合わせる可能性が高い。気を付けるんだよ」
「はい、行ってきます」
私たちは灯りを持って、問題の畑に向かうことにした。
結局、根荒らしが何かは分からなかったけど、怖いものじゃありませんよーに!




