58.ゴブリナの村
「誰か助けてーー!!」
何度も何度も助けを呼んだけども、返事は帰ってこなかった。
街道から離れていっているのだろうか?
体は厚手の布のようなものに包まれていて、身動きするのはもちろん周りの状況を確認することも出来ない。
外からは時折、『エッホエッホ』という掛け声とガサガサと草を掻き分けているような音がするくらいだ。
どこに連れていかれているのか分からないけど、このまま黙って連れていかれる道理も無い。
「助けてーー!!」
「シズかにしろ!」
「コイツ、ムこうのヤツよりウルサい!ダマらせろ!」
外からバンバンと布を叩く音がするが、生地が厚いせいかそれほど痛みは感じない。
しかし叩いている場所が耳元の近いせいで、ものすごくうるさいし耳も痛い。
「やーめーてー!」
「ミえてきた!」
見えてきた?それって何かの目的地ってこと?
もしかして、このまま崖に突き落とされたり、丸焼きにして食べられちゃうとか?!
やだやだ!そんなの絶対にやだ!
「はーなーしーてーーー!」
叫びながら体を右へ左へとくねらせながら抵抗を試みる。
「コラ!アバれるな!あ・・・」
下で体を支えていたものが無くなり空中に投げ出されるような感覚がしたかと思うと、すぐに地面にぶつかる衝撃が来た。そして勢いのままゴロゴロと転がる。
「わ、わわわわわっ?!」
そのすぐ後、ドンっという音と共にお尻を柱にぶつけたような衝撃が走る。
「い、いったぁ~~~~っ!!」
とりあえず止まったようだけど、お尻が痛い。
お尻に手を当てたいけども、こんな状態では身動きが取れない。
ザッザッっと誰かが近づいてくる足音がする。
「ドウする?ナカミ、カクニンするか?」
「ナカミキョウボウ、ミるのイヤ。ママのトコロにヒきずってイこう」
「リョウカイ」
「・・わっ!」
足の方を持ち上げられ、ズリズリと引きずられる音がし始めた。
どうやら『ママ』という人の所に連れて行かれるみたいだ。
・・って、それって大ピンチじゃないの?!
もしかしてこの人たちって、人さらい・・いや、人食い種族なんじゃないの?!
だったら私たちは今日の晩御飯?!
食べるのは好きだけど、食べられるのはいやーーーーっ!
「ママ、イるか?」
「イるぞ。ナンだ、そのフクロは?」
「コイツら、キのミドロボウだ」
「キのミドロボウか。ワかった、ママにツタえる」
ああ、私の人生もここで終わりか・・・。
最後の晩餐がクココの実なんて、ちょっと寂しいよぉ!
そんなことを考えていると、目の前の闇が晴れて光が飛び込んできた。
「まぶしっ!」
視界が戻ると、目の前には緑色の肌をした人間らしき人がいた。
「だ・・誰っ?!」
「オイ、デろ。テイコウはするな」
緑色の人は、私の方に手に持った武器を向けている。
武器とは言っても、棒に石を括りつけたような原始的な槍のようなものだ。
それでも突かれれば痛いだろうし血も出る。
とりあえず、私は大人しく従うことにした。
首を縦に振って手を上げ、抵抗しない意思を伝える。
相手も分かってくれたのか、それ以上のことはしなかった。
「タってアルけ」
言われるままに、立ち上がって前に歩き出す。
目の前には他よりも一回り大きな家が見える。
これが『ママ』が住んでいる家だろうか?
家には植物の蔦が這わせてあり、所々に可愛らしい白や赤の花を咲かせている。
意外とメルヘンな人なのだろうか?
扉というには簡素な布で作られた入り口がある。
「ハイれ」
「わ、わかったから突かないで~!」
中に入ると、見知った顔があった。
「ミラ!無事だったんだ!」
「リアも大丈夫みたいだね~」
「うん、でね・・・」
「アンタらかい、木の実泥棒って言うのは?」
声のした方に視線を向ける。
視線の先には大きな緑色の塊・・・訂正、大きな体をした緑色の人が座っていた。
「あ、あわわわわわ!」
「リア、落ち着いて~」
「だ、だだだだだって、私たち食べられちゃうんでしょ?!に、に、に逃げなきゃ!」
「り~~あ~~?!」
両肩を痛いくらいにがっしりと掴まれ・・って、痛い!本当に痛いってば!
「痛い!分かったから離して!」
「ほ~んと~?」
「ほんと!大丈夫!落ち着いたから!」
「ふぅ~」
「おい、その子大丈夫かい?ここに連れてくるときに、変なところでもぶつけたんじゃないかい?」
「ちょぉ~っと話してくるんで、時間いいですか?」
「逃げる相談じゃなければ、アタシは構わないよ」
「ありがとうございます。リア、こっち来て~」
「うん」
私たちはそのまま部屋の隅へ移動した。
「で、ごめん。これいったいどういう状況なのか、説明してもらっていいかな?」
「うんとね~、どこから説明しようかな~」
ミラからざっくりとした説明が入る。
さっきの緑色の恰幅のいい人は、『ゴブリナ』という名前で、この村の村長らしい。
私たちは木の実泥棒をしたからという理由で、ここに連れてこられたようだ。
食べるために連れてきたわけでは無いらしい。良かった~!
・・・そういえば、エリスさんが街道の木の実を管理している種族がいるって言っていたけど、この人たちのことだったんだ。
あれ?ということは、今回も私が元凶ってことじゃないの?!
何だかミラを巻き込んだのが申し訳なすぎる。
「ミラ、ほんっとゴメン!」
「もー、そうじゃないでしょ!謝る相手が違うんじゃないの?ぶんぶん!」
そうだ、木の実泥棒をしたのは私で、被害者はゴブリナさんたちの方だ。
謝るならゴブリナさんたちにするべきだ。
「私も一緒に付いて行ってあげるから、ね?」
「うん、ありがとう。私、謝ってくるね」
再びゴブリナさんの前に戻ってきた。
「おや、話は終わったのかい?」
「はい。あの、本当に申し訳ありませんでした!!」
「ごめんなさい!」
「・・・本当に悪いと思っているのかい?」
「その、この村の人が大切に育てているのに、知らなかったでは済まないとは思うんですけど、本当に申し訳ありませんでした!」
私とミラは深々と頭を下げたまま返事を待った。
場に流れる僅かな時間の沈黙。しかし私には一瞬が永遠に感じられるような長さだった。
「・・・本当に反省しているみたいだから、今回はゆるしてあげようかね」
「あ、ありがとうございます!」
「よかったね~、リア!」
「ただし、条件があるよ!」
「条件・・ですか?」
「ああ、食べた分はしっかり働いてもらうよ。それが許す条件だ。いいね?」
「えーと、何かは分からないけど食べた分はちゃんと仕事します!」
「よし、決まりだね。じゃあ早速仕事をしてもらおうかね」
「はい!」
こうして流されるまま、ゴブリナさんから仕事を受けることになった。
うん、自業自得なのは分かっている。
でも仕事として受けたからにはしっかりとこなさなきゃね!
さあ、どんとこーい!!




