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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第3節
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56.木の村に別れを告げて

「短い間ですが、お世話になりました」


 町を出る準備をし、私たちはブレンダさんのところに出発の挨拶に来ていた。


「二人がいなくなると、この町も少し静かになるね」

「私たちそんなに騒がしかったですか?」

「ある意味、この町で二人は有名人だよ」

「へーすごーい、有名人だって~?」


 ミラが悪戯な笑みを浮かべて私の方に振り向く。

 『ある意味』があまり良い意味でないのは何となく分かるけど、深く考えないようにしよう。


「そ、そうだねー」

「はは、相変わらずリアは感情を隠すのが下手だね。まあ、裏表が無い子は好きだけどね」

「ぜ、善処します・・」

「そういえば、山を探しているって言っていたね?」

「はい、どこの山かはちゃんと分かっていないんですけど」

「そうか。で、アタシが知る限りでは二つある」

「二つですか?思っていたよりも少ないんですね」

「ああ、アタシが交易で行く範囲はそれほど遠くないんでね、一番遠くでも王国までなんだ。悪いね」

「いえ、私なんか山って言われても樹海の向こうに見える山くらいしか知らないですし、助かります」

「アタシの知っている山の一つがそこだよ。名前はベスレ山だ」

「へー、あの山ってそういう名前なんだ?」

「ああ、でも樹海を抜けられない以上、かなり北側を迂回して登る羽目になるだろう。色々理由があるが、そっちは後にした方がいいよ」

「え?近い方がいいんじゃないですか?」

「いや、あの山は見ての通り結構険しい山だ。しかも、危険な魔獣が住んでいるらしい」

「今の私たちじゃ無理ってことですか?」

「そうだ。だからもう一つの山から探索する方がいいじゃないかと思って」

「それって、どこにあるんですか?」

「ここから東の街道を行った先にあるスウィーティアの町の北側に位置する山だ。名前はポップ山と言う」

「ポップ山?何だか楽しそうな名前の山ですね」

「そうでもないぞ?昔はよく噴火する危ない山で、ボム山なんて言われていたみたいだぞ?」

「えーっ!そんなところに住んでいて、大丈夫なんですか?!」

「ああ、もうここ数十年爆発は起きていないらしい」

「よ、よかった~」

「まあそれでも、山では何があるか分からない。麓の町でしっかり準備していくといい」

「ところでそのスウィーティアってどんな町なんですか?なんか、甘そうな名前だけど」

「あそこは昔から、菓子を作る職人が多くいてね、王宮にもお抱えの菓子職人を輩出している町だ。別名『お菓子の町』なんて言われているよ」

「お菓子?!私、すごい気になる!よし行こう、すぐ行こう!」

「ちょ、ちょっとリア~?!」

「おいおい、お菓子を食べに行くのが目的じゃないだろう?それに食べるにしてもほどほどにな」

「急いでも、お菓子は逃げないよ~!」

「そういえば、旅の資金は大丈夫なのかい?」

「あ、それならまだ報酬の残りがあるので大丈夫です」

「でも、まだ先は長いんだろ?」

「はい、だから報酬の一部で交易品を買ってあるんです」

「ほう、リアはどんなものを選んだんだい?」

「それは、これです」


 私はバッグから木製の食器類を出した。

 お皿やスープ皿はもちろん、フォークやスプーンなども一式だ。


「ふむ、これはこの町の特産品の一つだね。リア、いい目利きをしてるじゃないか」

「はい、初めてこの町に来た時に食堂で食事をしたんですけど、そこで使った食器の感触がとても良くていいなーって思ってたんです」


 木製の食器は私たちが住んでいた村でも広く使われている一般的なものだ。

 もちろんこの町でも、木製の食器が使われている。

 ただ、他と大きく違うところも多い。木の町だけあって、加工が丁寧なところだ。

 まずは見た目。全体が柔らかな曲線で仕上げられていて、木目もそれにそって綺麗な線を描いているところだ。それに、手にしっかりと馴染むように細部が細かく削られている。もちろん、木独特の優しさと質感はしっかり残っている。色は少し黒っぽいけども、気になるほどではない。むしろツヤがあって、見ていて心地よいくらいだ。

 もう一つが、軽いのにかなりの強度もあるというのことだ。

 色が黒いのはこの村周辺で採れるオブシディアという木の樹液を塗っているためで、食器を腐食などから保護したり強度を上げたり光沢が出たりと、何かと利点が多い。

 しかしこのオブシディアは採集してからの日持ちが悪く、また扱いも難しいため交易品には向かないと踏んで完成品の食器にしたのだ。

 もちろん、自分たち用の分も別に買ってある。

 いい食器で食事をするとちょっと嬉しい気分になるし!


「そうか、ならアタシが心配することはなさそうだね」

「では、そろそろ出発しますね」

「ああ、長く引き留めて悪かったね」

「いいえ、こちらこそ色々ありがとうございました」

「いや、こちらも世話になった。それに、二人ともうちの家族みたいなもんだ。いつでも帰ってくるといい」

「はい、近くに来た時には必ず寄らせていただきます」

「それと通行証と地図は下でエリスから受け取ってくれ」

「わかりました。では、ブレンダさんもお元気で」

「ああ、行ってらっしゃい」


 階段を下りていくと、受付にはエリスさんとミリーが並んで待っていた。


「これを」


 エリスさんが二つの書類を差し出す。もちろん中身は通行証と地図だ。


「いよいよ出発ですね」

「はい、短い間ですがお世話になりました」

「ギルド長から色々言われているでしょうし、私から申し上げることは特にありません」


 さすがエリスさん、こういう時でも表情に出ないんだなぁ。


「あの、これよかったらお昼にでも」


 ミリーから布に包まれた長いものを渡される。


「これは?」

「それはナッツンスティックっていって、木の実がいっぱい入ったパンです。今朝、お母さんが焼いて持たせてくれたんです」

「ありがとう、後で美味しく頂くね」

「はい、お二人もお元気で」

「うん、ミリーも元気でね」

「そういえば、二人はスウィーティアの町に向かうんでしたね?」

「ええ、そうですけど」

「でしたら、道中に木の実が生っているところがあるんですが注意してください」

「え?注意って何をですか?」

「あの木は、とある種族が管理しているという話で、欲張りな人をさらってしまうという噂があるのです。・・まあ、2・3個くらいなら見逃してもらえるかもしれませんが」

「そうなんですか?まぁ、一応気にしておきます」

「じゃあ、そろそろ行こうか~?」

「うん、そうだね。じゃあ、行ってきます」


 ギルドの外に出ると、見知った顔の人物が立っていた。

 ボサボサの髪に立派なあご髭をした、いかにもな感じの冒険者である。


「おー、いたいた。嬢ちゃんたち、久しぶり」

「あ、ギルさんじゃないですか!どうしたんですか?」

「いや、今日嬢ちゃんたちが町を出るって話を聞いてな、挨拶に来たんだ」

「そうですか。ギルさんも、どこかに出かけられるんですか?」


 ギルさんの肩には、ゴツイ袋が掛けられている。

 どうみても外出用なのは分かるが、狩りに行くには重装備すぎる。


「ああ、俺はこれから北に向かうんだ」

「そうですか、私たちは東に行くところなんです」 

「そうか、なら嬢ちゃんたちとはここでお別れだな」

「それは残念です」

「なあに、今生の分かれって言う訳でも無いんだ。生きてれば、またどこかで会えるってもんよ!」

「そうですね、ギルさんもお元気で」

「ああ、二人も達者でな!」


 別れを告げると、そのまま街道をのっしのっしと北へ向かって歩いていってしまった。


「じゃあ、私たちも行こうか」

「うん、そうだね~」


 東の門に着くと、門番をしている片方の男の人に声を掛けられた。


「お、あの時は世話になったな」

「え、えーと・・」


 誰だっけ、この人?

 でもどこかで見たような・・・。


「もしかして覚えていないか?」

「す、すみません・・」

「まあ、覚えていないのも仕方が無いか。俺は2匹目の魔獣が出てきた時に吹っ飛ばされた冒険者だった者だよ」

「もう怪我は大丈夫なんですか?」

「ああ、あの塗薬のおかげでバッチリさ!」


 そういえば、そういうこともあったなぁ。

 あの時はすごい勢いで飛んできたし、後ろ向きだったから顔も見えてなかったからなぁ。

 ・・ん?冒険者『だった』?


「あの、今はどうしているんですか?」

「ああ、あの後この村の娘に看病されてな。その・・所帯を持つことになったんだ」

「所帯?」

「家族になることだよ~」

「へぇ~、それはおめでとうございます!」

「ありがとう。っと、それはそうと仕事をしないとな」

「仕事?」

「ああ、冒険者だった経験を生かして門番になったんだよ」

「良かったじゃないですか」

「おい新入り、あんまり無駄話をするな!」

「は、はい!では改めて、通行証を確認させていただきますで候」

「はい、これを」

「おい、そこは『書類を改めるのでしばしお待ちを』だ!」

「す、すみません!」

「そこも、『申し訳ございません』だ!しっかりしろ!」

「も、申し訳ございません~!」

「あはは、門番としてはもうちょと頑張らないとだね」

「リアも、人の事言ってられないんじゃないの~?」

「う・・うん、そうだね~」


 無事、書類の確認も済んで門の外に出ることが出来た。

 目の前にはまっすぐと東へと続く街道と、その両端に森が見える。

 少し道を進んだところでに振り返ると、木の壁で覆われた町が見えた。

 そして私はブレンダさんの最後の言葉を思い出していた。

 『行ってらっしゃい』か。

 また一つ、帰る場所が出来たなぁ。


「どうしたの~、遠い目をして~?」

「ううん、何でもない。行こうっ!」



 私たちは木の町を背中に、また旅を続ける。


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