54.強薬、後がヤバし!
「いったい、アンタたちは何をやらかしたんだい?!」
今日は出発の前に、色々と買い出しをしようと思っていた。
しかし宿屋を出たところで、血相を変えたミリーが伝言を伝えに来たのだ。
伝言の内容はというと『至急ギルドに来るよう!!』とのことだった。
そして今、私たちはブレンダさんに怒られている最中である。
しかしながら、なぜ怒られているのかサッパリ見当がつかない。
「えーと・・何かあったんでしょうか?」
「『何かあったんでしょうか?』じゃないよ!ほら、これを読んでみな!」
怒りながらブレンダさんが差し出したのは一本の書状だった。
印は切られているようだが、この印は見たことがある。確か領主様の印だ。
書状を開いて中を読んでみる。
「なになに・・・『屋敷の周辺に異常有。至急報告に来たれ』だって」
「アタシには意味が分からないが、いったい屋敷の近くで何をしたんだい?!」
「何と言われても、薬草摘んだり戦闘訓練してたくらいのはずだけど・・」
「う~ん、私も思いつかないよ~。とりあえず何が起きたかいってみよ?」
「そうだね、何もない草原だし、異常があったらすぐに分かると思うし」
「あ、でも領主様のとこに行くなら、別の通行証をもらわないとだよ~?」
「それなら問題ないよ。ほら、通行証だ。往復分あるから終わったら顔を出しに来なよ」
「ありがとうございます!じゃあ、すぐに行こうか」
「うん、まだ早いから今日中に戻れるかもだしね~」
「じゃあ、行ってきます」
「後腐れ無いように、しっかり解決してくるんだよ!」
ここまできて後戻りする羽目になるとは思っていなかった。
関所には町に来た時と同じ門番の人が立っている。
「おや、嬢ちゃんたち何か忘れ物かい?」
「その、まぁ・・ちょっとした用事です」
「そうかい?一応決まりだから通行証を確認するぞ」
「はい、これを」
ブレンダさんから受け取った通行証を渡す。
そういえば、通行証に移動の理由とか書いてあったはずだけど、どうなっているんだろうか?
まさか『問題を起こしたから屋敷に呼び出された』とか書いていないよね?!
うう・・なんか急に緊張してきた。
「ああ、問題無いよ」
「え?あ、そうですか」
「ん、どうしたんだ?具合でも悪いのか?」
「あ、いえ、大丈夫ですから!」
「そうかい?嬢ちゃんたちが倒したんだから、しっかり報告してくるんだぞ」
「え、報告?」
「何を言っているんだい?お嬢ちゃんたちが倒した魔獣について領主様の所に報告に行くんだろ?」
「え、あ、はい!そうなんです!」
どうやら通行証は、『魔獣討伐の報告をするために領主様に会いに行く』という名目になっているようだ。本当の事が書いて無くて、ちょっとほっとした。
「魔獣が居なくなったとはいえ、他の魔獣もいる。気を付けて行ってくるんだぞ」
「はい、行ってきます」
私たちは関所を抜けて領主様の屋敷を目指した。
道が分かっているせいか、来る時よりも少し早めに屋敷に着くことが出来た。
しかし、屋敷周辺は初めて来たときと同じで普通の草原だった。
「なんだ、何も変わってないんじゃないの?」
「う~ん」
「ミラ、何か気になる事でもあった?」
「うーんとね、あそこにあんなのあったかな~って」
「どこー?」
「ほら、あそこの草むら~」
ミラの指を差した先にあったものは、他と違って草がボーボーに生えているところだった。
明らかに他の草と比べて、数倍の背丈がありそうだ。
とりあえず、領主様に話を聞いてこよう。
領主様は前に来た時と同じく、庭で植物の手入れをしていた。
「お、問題児がやってきたな」
「問題児って私たちのこと?」
「他に誰がいるというのだ?それと、道中のあれは見たか?」
「えーと、草がボーボーに生えているところですか?」
「そうだ、いったい何をどうしたらあんなになる?!魔獣が溜まり場にして危ないと通行人からも苦情が出ているそうだ。しっかり調査してキッチリ説明してもらおう!終わらなかったら領地から出さんぞっ!いいなっ?!」
「と、とりあえず調べてきますっ!」
私たちは逃げるようにその場を後にした。
あんなに怒っている領主様って、ポーションもどきを作った時以来だ。
・・・ん?そういえば、アレを捨てた場所って確か・・・。
考え事をしているうちに、問題の場所に着いた。
異常成長した植物は、私たちの身長を軽く超えるくらいの高さになっていた。
「うわぁ、近くで見ると大きいねー」
「うん、これだったら中型の魔獣でも隠れられそうなくらいだよね~」
「この中に魔獣がいると思うと、迂闊に手を出せないね」
「そうだね~、一斉に襲われたらさすがに耐えられなさそうだよ~」
「そうなると、何か中の魔獣を追い出す方法を考えないと」
「魔獣を追い出すか~。何かいいもの持ってない~?」
「どうかなー?ちょっと中身を出してみよう」
バッグから中のものを取り出し、草の上に並べてみる。
種が入っている箱や図鑑は論外なので、ここには出さない。
まずはいつも常備している薬草と毒消し草、それに塗り薬。これじゃない。
交易で使う予定のボムペッパー。これも違う。
あとは、前に作った吹矢と痺れ薬のセット、それとお父さんから貰ったナイフ。これも相手が見えないと使えないからパス。
残っているのは薬玉だけかな?中身は確か、ネバネバボールと煙幕だったはず。
「あ、煙幕用の薬玉!」
「確か、投げつけると爆発してモクモクするやつだっけ~?」
「うん、これを使おう」
少し離れたところから草むらに向かって薬玉を投げつけ、すぐに耳を塞ぎながらその場を離れる。
ボンッ!バフ~~~ッ!
周辺に激しい音と煙が広がり、草むらから煙が漏れてくる。
草むらがガサガサと揺れ、中から一匹の魔獣が飛び出してきた。
「キュェェッ!」
「やった、成功だ!」
「うん、成功だね~!」
喜ぶ私とミラの横で尚も草むらがガサガサと揺れる。
なんというか、草むら全体がガサガサと揺れている気がする。
「えと、何か危険な予感がしない・・・?」
「うん、そんな感じがするね~」
さらに草むらが激しく、同時に地面が揺れているような気がする。
いや、ほんとに揺れてるよっ?!
「ミラ、全力で逃げ・・ってもう逃げてるー?!待って、置いて行かないでーーー!!」
「ごめーん!先に行ってるー!」
「そ、そんなぁ~~~!」
視線の先には、既に全力で走り始めているミラがいた。
私も逃げないとっ!
『キュェェェェェェッ!』
草むらから、四方八方に小さな魔獣が飛び出してくる。
小さいといっても、そこは魔獣である。すでに何匹かの魔獣が私の後ろに迫って来ていた。
このままだと、追い付かれるのは時間の問題だ。
何とかしないと大変なことになってしまう!
倒すのは無理そうだから、せめて足止めできそうなもの。
そうだ、ネバネバボール!
急いでバッグからボールを取り出して、魔獣に投げつける。
「えいっ!」
先頭の一匹に命中したネバネバが魔獣を顔面から覆い、周囲にも飛び散った。
「キュェッ?!」
「やった?!」
驚いた魔獣は立ち止まろうとするも、後ろから来た魔獣たちは止まらない。
先頭の魔獣が大きな足音のする方、すなわち後ろを向いたことで悲劇が起きた。
まずは最初の一匹がぶつかり、立ち止まった魔獣にくっついた。
さらに続いてきた二匹目、三匹目はそれを避けようとするが、地面に散ったネバネバで足を取られそのまま転がり、最初の二匹の体にくっついてしまった。
そんな感じで四匹、五匹と同じようにネバネバにかかっていった。
魔獣たちの突撃が止んだ頃には、目の前に魔物の玉が出来上がっていた。
「あ、あはは・・何とかなった」
安心したらその場にへたり込んでしまった。
とりあえず、魔獣については何とかなったってことでいいのかな?
と、後ろから草を踏む音が聞こえる。
「ビックリしたね~。リアも無事そうだし、良かった良かった~」
「よーくーなーいー!」
「大丈夫、リアなら何とか出来るって信じていたよ~」
「あんまりうれしくなーい!」
「あはは~、ごめんごめん。今日はリアの好きな物作ってあげるから許して~?」
「むぅ~、そんなんじゃ誤魔化されないよー!」
「じゃあ、スイーツも付けるから、ね?」
「・・スイーツ?」
「そ、しかも新作だよ~。ウッドストックでいい材料見つけて、こっそり買ってあるんだよね~」
ゴクリ。
主食系の多いミラのご飯の中で、スイーツは少し気になる。しかも新作だって?!
まさに、甘い誘惑!
「・・分かった。大盛りで手を打とう!」
「ありがと~。リアならそう言ってくれると思ったよ~」
うーん、見事に買収されてしまった気がするが、これでミラの新作スイーツが食べられる!
「よし、サックリと問題を片付けてお茶にしよう!」
「わ~、効果抜群だ~」
私たちは再び問題の草むらに戻ってきた。
煙はもう出ていないが、魔獣が中に残っているかもしれないので、外側からゆっくりと刈り取っていくことにした。
「やっぱりこれって、あのとき捨てたポーションが原因・・だよね?」
「だと思うよ~?」
かなり大きくなってはいるものの、薬草と同じ特徴で同じ形をしている。
違いといえば、”小さい”白い花が、”顔の大きさと同じくらい”の白い花になっていることくらいだろうか。当然、茎や葉っぱも同じくらい大きくなっている。
薬草は他の植物に比べて成長が早いとはいえ、10日もしないでこの大きさは規格外もいいところである。
このまま放置するわけにもいかないので、回収した”巨大薬草”はバッグに入れておこう。
大きいと言っても薬草のはず。それに、これを調合したらどうなるか試してみたいという好奇心もある。
私たちが巨大薬草の草むらを刈りつくしたのは、お昼を少し回った頃だった。
「や、やっと終わった~~~っ」
「もうクタクタだよ~」
「じゃあ、領主様に報告に行って休憩させてもらおう」
「さんせ~い」
間違いなく怒られるのは明確なのだが、領主様の許可無しでは旅も続けられない。
済んでしまったことはどうしようもないし、覚悟を決めよう。
うう、でもやっぱり怒られるのはイヤだなぁ。
私たちは足取り重く、屋敷に戻ることにした。




