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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第3節
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52.森の洞窟 その7

「うぅ・・喉が痛い、眩暈もする。ちょっと休憩しよう」


 階段に腰を下ろして一旦休憩することにした。

 石造りの階段はひんやりして気持ちが良かった。

 しかし、それで喉の渇きが癒されるわけでも無く、バッグから水袋を取り出して飲むことにした。

 残りはすでに半分を切っていて心許ない。

 どこかに水源があればいいけども、周りは石造りの壁になっていて水場は見当たらない。

 早くみんなと合流するか地上に出るかしないと、ここで干からびてしまう。

 休憩を切り上げて立ち上がろうとするが、膝が悲鳴を上げている。

 ここまでずっと登りだったからか、膝にかなりの負担がきているようだ。

 このまま座っていても、何も事態は変わらない。

 気合を振り絞って階段を上り始めた。



 暫くするとこの階段地獄にも終わりが見えてきた。

 階段が途中で切れて、行き止まりになっていたのだ。

 しかし今度はさっきのように悲嘆にはくれない。

 ここまで不自然に人工的な建造物で、2度の仕掛けである。

 とすれば、必ずさっきと同じように先に進むための仕掛けがあるはずだ。

 ここにもあるはずであろう仕掛けを、行き止まりの壁を中心に手探りで調べる。


「あ、あった!これを押し込めば・・・」


 ゴゴゴゴゴ・・。


 目の前の壁がゆっくりを上がっていく。

 同時に、向こう側から明かりが漏れてくる。

 明かりの中に黒いものが見える。

 もしかして魔獣?!

 しかし、その考えが間違っているのに気付くのは早かった。

 聞き慣れた声がしたからだ。


「何者だっ?!・・・って、アメリアか?」


 目の前には剣を構えたブロウさんがいた。

 その後ろには他のみんなの姿もある。


「夢・・・じゃないよね?」


 ブロウさんの後ろから、ミラが泣きながらこちらに駆け寄って来る。


「も~~、心配したんだよ~~~っ!」


 勢いを殺さずに私に飛びついてきたので、その場に尻もちをついてしまった。

 ミラの体は温かかった。

 安心感と同時に、堪えてきたものが一気に噴き出してきた。


「う、う、うわーん!一人で寂しかったよ~~!」


 私も泣きながらしっかりとミラを抱きしめ返した。


「突然消えたかと思ったら変な所から出てきたものだな」

「壁から出てくるとか面白い仕掛けだね!他にも面白いものとかなかったー?」

「・・・チッ、手間をかけさせるな」

「急にいなくなってしまったので心配しましたよ。怪我も無さそうで何よりです」


 みんなもいつもの通りだ。

 改めて戻ってきたことを実感できる。


「再会したばかりでなんだが、先に話を聞きたい」

「あ、ごめんなさい。実は・・・」


 私はみんなから分かれた後のことを簡単に話した。

 もちろん、精霊王のことは伏せておいた。

 先に何も無いことを伝えると、地上に戻ることになった。

 私がいなくなったことに気付いたのは、割と早くに気付いたらしい。

 リースさんが落とし穴の仕掛けを発見して、ミラが飛び込もうとしたのを止めたらしい。

 こういった仕掛けのあるダンジョンは、人為的に作られたものが多く、大抵はどこかに繋がっているものらしい。

 それでも全員で行くにはリスクが高いと踏んで、奥の方から合流できる場所を探しながら進んでいたようだ。

 そして、最後の突き当りにあった部屋があそこだったらしい。

 ちょうど部屋を調べていたときに、急に壁が開いて私が現れた、ということだった。


 帰り道の途中、例の大きなきのこが見えたけど、また仕掛けにかかるのも嫌なので素通りした。

 さらに進むと、みんなで休憩した広い部屋や目印を付けた分かれ道など見たことのある風景があった。

 先が見えてくると、外に出たい気持ちがいっぱいで歩くペースが少し早くなる。

 前方に光が見えてくる。

 眩しい、魔法の光ではない外の光だ。

 光をくぐると、目の前に森が見えた。


「やっと出られた~~!」


 空は青空で雲も無く、そよ風に揺れる木々の音が柔らかで心地よい。

 疲れも溜まっているせいで、今が絶好のお昼寝タイムであるのは確かだ。

 このまま横になったら、きっと気持ちよく寝られるのは間違いない。


「お、みなさんご無事で。洞窟の調査が終わったんですか?」


 入り口には見張りの人が二人立っていた。

 一人は私たちを案内してくれた人みたいだけど、もう一人は初めて見る人だ。


「ああ、これからギルドに戻って報告してくる」

「そうですか。帰り道にも魔獣がいますのでご注意ください、と言っても皆さんなら心配ありませんね」

「あー、これでやっと見張りから解放される!久しぶりに旨い酒が飲めるな!」


 そういえば、私たちが洞窟に入ってから結構経っていると思うけど、どのくらい経ったのか気になる。


「すみません、私たちが入ってどのくらい経っていますか?」

「ん?ああ、大体一晩くらいだよ」

「え、一晩しか経ってないんですか?!」

「まぁ、無理も無い。暗いところだと時間の感覚なんて曖昧になるからね。よくあることだよ」


 そっか、何日もいたのかと思ったけど、思ったほど時間が経っていないんだ。

 ということは、一晩中歩き回っていたってことか。

 どうりで足がパンパンに腫れているわけだ。

 今夜は久しぶりの筋肉痛確定だなぁ・・・。


「という訳だから、ギルドに戻って報告するまでが調査だ。最後まで気を抜かないように」

「えー?アタシ、ここでお昼寝したーい!」

「ダメだリース。するなら報告が終わった後にしろ」

「むぅ~、相変わらずブロウはマジメすぎるよ~」

「それは長い付き合いだから分かっていることだろ?」

「でーもー」

「報告が終わったら飯をおごってやる。あと、この件が終わったら暫くゆっくり休養する予定だ」

「ホント?!やったー!じゃあ、すぐに行こう!」


 さっきまで拗ねていたリースさんは、町に向かって走り始めていた。

 さすがブロウさん、リースさんの扱い方が上手である。


「では、俺たちも行くとするか」


 歩き始めた時に、後ろから声を掛けられる。


「あの、一つ聞いてもいいですか?」

「どうしました、テレジアさん?」

「その・・あなたの横にいるその白い獣は、あなたの精霊、でしょうか?」


 そういえば、魔力のある人には見えるんだっけ。

 最初から何も触れていなかったから、気にしていないだけなのかと思っていた。


「ええ、ユリっていうんですよ」

「そうですか」


 テレジアさんが少し不安そうな顔をしている。

 精霊に何か良くない思い出でもあるんだろうか?


「この子がどうかしましたか?」

「その、余計なことかもしれませんが一言伝えたくて」

「え、何ですか?」

「精霊とは心の形。あなたの心次第で天使にも悪魔にもなる危うき力。それを忘れないで」

「えーと・・それって、教会の教えか何かでしょうか?」

「あ、いえ・・そういうものではないのですが、精霊術師になる人への手向けの言葉です」

「へぇ~、そうなんだ」

「まぁ、儀式みたいなものなので、あまりお気になさらずに」

「いえ、ありがとうございます」

「リア~、何やってるの~?置いて行っちゃうよ~!」

「あ、ごめん、すぐに行くー!」

「あまり遅れると、みなさんの迷惑にもなりますし、私たちも行きましょう」

「そうですね」


 私たちは洞窟を後に、町に向かって歩き始めた。

 洞窟で合ったとこは夢ではなかったかと疑ったが、バッグの中には確かにあの時の箱が入っていた。

 あの時の精霊王の言葉が本当ならば、これからはもっと大変な旅になるかもしれない。


「世界を廻す・・・か。私にできるかな?」


 話の規模が大きすぎて、いまいちピンとこない。

 考えるにしても、情報が少なすぎる。


「キュイ?」

「そうだね、考えていても答えは出ないし、お腹もすくよね!さぁ、町に着いたら美味しいもの食べるぞー!」


 難しいことばかり考えても、気分は悪くなるし、お腹もすいちゃう!

 人間、単純が一番だよね!

 それに、気持ちが良ければきっとうまくいくってそう思える。

 さぁ、今日は美味しいご飯を食べて、いっぱい休もう!


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