49.森の洞窟 その4
「・・で、こうすると小さくなって明るくなり、逆に・・・」
「へぇ~、そういうこともできるんだ~。次は次は~?」
私の前ではミラとテレジアさんが仲良く話をしている。
食事を取った後から、ずっとこんな感じだ。
私はというと、学校の授業についてこられない子のような感じで会話に入っていけてない。
ミラの魔法の先生が見つかったのは喜ばしいことなんだけど、なんだか友達を取られたみたいで複雑な気持ちだ。
仕方が無いので、道中に生えているキノコを採りながら付いて行っているというのが現状である。
あの場所から、道中にキノコが点々と生えているのだ。
もちろん、目印も無いか確認はしている。
『光る何とかを目印ー』とか言っていたけど、ホントに目印なんかあるのかなー?
お、ちょっと大きめのキノコ発見!
少し奥まったところにあるけど、手を伸ばせば届きそうかな。
洞窟の壁を支えにして、思いっきり右手を伸ばす。
「あ、あと、少し・・・」
支えにしていた左手が、ゆっくりと壁に入っていくような感じがした。
「あ、あわわわわっ!」
バランスを崩してそのまま前のめりに倒れ込んでしまった。
同時に『ガコン』という音がした。
「もー、いったいなん・・」
次の瞬間、体が傾き空中に投げ出されるような感覚にとらわれる。
そのまま壁の方に吸い込まれ、いや滑り始めた。
「お、落とし穴~~~っ?!」
地面を掴んで抵抗しようとするも、土肌はツルツルしていて止まることができない。
私の体はどんどん速度を増しながら滑り続ける。
落とし穴は右へ左へと、ぐにゃぐにゃと曲がりくねっていた。
それに沿って、私の体も右へ左へと流される。
既に自分がどっちの方向を向いているのか分からない。
「み、みっぎゃーー?!ぶつかる!ぶつか・・うぐっ」
道の途中に土の塊でもあったのか、口の中に土が入った。
暫くすると徐々に速度が落ち始めた。
最後に少し体が浮かぶような感覚がして、そのまま前に投げ出される。
しかも顔面から。
「ぺっぺっ、いたたたた・・」
まだ口の中がジャリジャリする。
暗くてよく分からないけど、きっと泥だらけだと思う。
顔もすりむいているかも。
「もー、今の何~~?!」
「キュイキュイ?」
「心配してくれるの?ありがとう、ユリ」
どうやらユリも一緒に落ちてきたようだ。
ミラかテレジアさんがいてくれたら、明かりを出してもらって辺りを見渡せたのかもしれない。
と、無い物ねだりをしても仕方ない。
火を起こすにしても、こう暗くては道具を取り出して使うのも難しい。
あー、でも『洞窟内で不用意に火を使うのは良くない』とブロウさんから注意されていたっけ。
魔獣が寄ってきたり、突然爆発することもあるからだとか。
どちらにしても、私一人じゃどっちも対応できないからダメっぽいなぁ。
うーん、他の方法を考えよう。
そういえば、あのヒカリタケって明かりにならないかな?
あの大きいのは掴み損ねたけど、休憩したときに集めたのを束ねればなんとかなるかな?
バッグからヒカリタケを取り出し、ロープを使って薪に括りつける。
「じゃーん、即席たいまつの出来上がり~!」
少し暗いけど、無いよりはマシかな?
独り言とは分かっているけど、喋っていないと不安で心が折れてしまいそうだ。
私が投げ出された方向を見ると、ぼんやりと丸い穴が見える。
「ここが私の落ちてきた穴かな?」
穴の中を確認する。
土肌はツルツルしていて、登れそうにない。
「うーん、ここから戻るのは無理そうだなぁ」
せめて、ここに落ちてきたことを誰かに伝えられたらいいんだけど。
叫んだら聞こえないかな?
「ミラー!!テレジアさーん!!ブロウさーん!!」
私の声は穴に吸い込まれ響いていたが、返事は戻ってこなかった。
「やっぱりダメかぁ~」
他に道があれば、みんなと合流できる可能性はあるんだけど。
たいまつを掲げて周囲を見渡す。
どうやら奥に進める道があるようだ。
ここで待っていても仕方がない、今は前に進もう。
私は意を決して洞窟の奥に向かって歩き出した。