42.魔法の才能 後編
「うわぁ・・・」
外から見てもかなり酷い感じだったが、中はそれを上回る酷さだった。
入ってまず一番に気になったのは空気の悪さだ。
カビ臭さと埃っぽさが混じり合って、息を吸うのも辛いくらいだ。
窓はあるけども日当たりも悪く中は薄暗い。
それでも辺りを見渡すことが出来るのは、隙間の空いた屋根のせいだ。
これだけ隙間があったら、雨を凌ぐことは出来ないだろう。
周りを見ても、最低限度の生活必需品のみ。
この家は、まるで死を待つだけの棺桶のような場所だ。
「そこに椅子があるから適当に座ってくれ」
ベッドの上に座ったおじいさんの視線の先には、暫く使われた形跡の無い埃を深く被った椅子があった。
座ったら、すぐに崩れ落ちそうなくらい黒ずんでいる。
同じように躊躇っているのか、ミラも怪訝そうな顔をしている。
「なんじゃ、座らんのかい?」
「いえ、お気になさらず。私たちはこのままで大丈夫ですから」
「そうかい。で、こんな偏屈なじいさんに何の用だい?」
「そんな、偏屈だなんて・・」
「ふん、巷で何と言われているかなんて知っておるわ。どうせお前さんたちも同じなんだろう?」
うーん、偏屈をこじらせすぎて取り付く島もない。
さて、どうしたものか。
ほら、ミラもどうしたらいいか分からないで震えている。
「・・ごめんリア。おじいさんを連れて外で待ってて」
「え、何?」
「気になって、ううん、気になりすぎて話に集中できなさそう」
「えーと、ミラさーん?」
「じゃあ、よろしく~」
バタンっ。
私とおじいさんは家の外につまみ出されてしまった。
あー・・これ、いつものだなぁ。
「なんじゃあの嬢ちゃんは!ここはワシの家じゃぞ!」
「ミラは宿屋の娘なんです。いつも宿屋を綺麗にしているから、汚すぎる部屋を見て火が付いたんだと思います」
「もしかしてお嬢さん方は、清掃の人だったのかい?」
なんか反論してもややこしくなりそうだし、それでもいいやと思ってしまった。
「もう、それでいいです・・」
「なんじゃ、だったらすぐに案内したのにな」
そのまま会話が途切れてしまい、ミラが出てくるまで黙って待つことになってしまった。
程なくして中からしていた音が止み、扉が開いた。
「ふぅ、とりあえず綺麗になったよ~」
ミラは何とかやり切った感のあるすがすがしい笑顔で出てきた。
とはいえ、私もあの部屋に長居はしたくなかったし結果良しかな。
中に入ると、さっきとは別の部屋のようになっていた。
全体的に明るくなり空気は格段に良くなっていて、ベッドメイクまで完璧にこなされている。
天井の隙間などはそのままになっていたけど、それ以外はさすがは宿屋の娘という仕上がりである。
「ほぅ、これは随分と綺麗になったものだ。嬢ちゃんたち、ありがとう」
「じゃあ、私たちはこれで~」
「ちょっとミラ~?!私たちは掃除に来たんじゃないでしょー!」
「あ、そうだったね~」
「もう、そうだったね~、じゃないよ~」
「ごめんごめん~」
「おや、嬢ちゃんたちはもしかして芸人だったのかい?」
「私たちは掃除屋でも芸人でも無いです!」
「はて、なんで嬢ちゃんたちはワシの家にいるんだったかのぅ?」
わざとなのかどうか分からないが、このままでは話が進まない。
さっさと本題を切り出した方が良さそうだ。
「私たちはおじいさんに、精霊の事を教えてもらおうと思って来たんです」
「なんじゃ、だったら最初から言えば良かったのにのぅ」
なんだか怒るのを通り越して、呆れてきた。
話は聞き流すとして、ちゃんと精霊や魔法の事を教えてもらえるのかちょっと不安だ。
「ふむ、金髪の嬢ちゃんの足元にいる白いのが精霊かのう?」
「やっぱり見えるんですね」
「もちろんじゃ。魔法使いはみな精霊を見ることができる。嬢ちゃんたちは魔法使いなんじゃろう?」
「いいえ、私たちは魔法は使えません。私はただの薬屋の娘ですから」
「同じくただの宿屋の娘で~す」
「ほぅ、魔法使いでも無いのに精霊が見えると?では、一体どういう経緯でその精霊を従えたんじゃ?」
「えーと、何というか、この子は色々あって連れてきたというか・・」
詳しいことは省略して、ユリとの出会いから最近のことまでを説明をした。
おじいさんは信じられないことだと首を傾げてしまった。
「食べ物を食べる精霊か。それはなんとも珍妙な精霊じゃのう」
「ちゃんと好き嫌いもあるよ~」
「なんと、味覚まであるとな?!」
「そもそも精霊かどうかも怪しいんですけどね」
「ふーむ、ところで嬢ちゃんたちは精霊が何か知っておるか?」
「うーん、ふわふわと空中に浮かんだ光の玉かなぁ」
「当たらずとも遠からず、と言ったところかのぅ」
「それって合っているんですか、間違っているですか?」
「半々と言ったところじゃろうな。嬢ちゃんのそのイメージは絵本に書かれているものじゃろ?」
そういえば、絵本で描かれている精霊ってほとんどが光の玉だけど、どうしてだろう?
小さい頃から慣れ親しんでいるから、あまり疑問に思ったことないなぁ。
「本当の精霊ってどんな姿なんですか?」
「精霊に姿なんてものはありはせんよ。精霊は魔力に意思が宿っただけのような存在だからじゃ」
「うーん、だとするとユリは精霊じゃ無いのかなぁ」
「そうとも言い切れんよ」
「それって、例外があるっていることですか?」
「そうじゃ。極稀ではあるが、高位の精霊術師には精霊に姿を与えて顕現させられる者がおる」
「へぇ~、じゃあ自分好みの精霊を出せちゃうってことかな~?」
「多分それは無理じゃろうな」
「どうしてですか?」
「大抵の場合、精霊術師に深く関与している過去の事柄に準じた形を取る。その昔、村を焼かれた精霊術師が、炎を纏った魔人のような姿をした精霊を従えていたという話も聞く」
「つまり私の過去が関係しているっていうことですか?」
「そういうことになるのう」
「うーん、でも私みたいな精霊術師どころか魔法使いでもない人にそんなことが起きるものなのかなぁ?」
「ワシは精霊術師では無いから何とも言えんのう」
「ユリ、あなたは本当にどこからきた何者なんだろうね?」
「キュィ?」
「これはワシの勝手な見解じゃが、半分は精霊で半分は生物、いわゆる半魔半獣じゃないかと思っておる」
「半魔半獣かぁ。うん、一番しっくりくる言葉かも」
「まぁ、ご飯が美味しく食べられるならそれでいいんじゃないかな~」
「ほっほっほっ。いずれにせよその精霊と嬢ちゃんは深い繋がりがあるんじゃろうな」
「そっかぁ。じゃあ、これからもよろしくね、ユリ」
「キュイッ!」
「あ、そういえば魔法について聞くのを忘れていた!」
「そういえば魔法が使えないとか言ってたのう」
「どうやったら使えるようになるのかな~?」
「ギルドにあった指南書は全部試したのかい?」
「はい、温度変化と水と風。全部だめでしたけど・・・」
「ふむ、ならそれ以外の魔法ということじゃろうな」
「属性って他にもあるんですか?」
「ああ、もちろんだ。大地の魔法に光の魔法、それに闇の魔法じゃ」
「それって、どこで覚えられるんですか?」
「残念ながらこの付近には無いのぅ。行くとしたら城下町のギルドじゃな」
「城下町?」
「そうじゃ。この国の中心地、王都エリクシオールじゃ」
「そこに行けば魔法を覚えられるんですね?」
「もっとも適性があればの話じゃがのぅ」
「じゃあ、洞窟の探索が終わったら王都に向かおう」
「あー、金髪の嬢ちゃんは一筋縄ではいかんと思うぞ」
「え、私ですか?」
「まずはその精霊の属性を見極めなければ、魔法自体が発動せんじゃろうな」
「それって、ユリが何の精霊か分からないと魔法を覚えられないっていうことですか?」
「そうなるのぅ」
「そんなぁ~~」
「私も付き合うから頑張ろう~?」
結局、ユリの正体は分からないままだし、魔法も覚えられなかったなぁ。
でも、まだ試していない魔法があるからいつか使える日が来るはずっ!
その為にも、洞窟の調査隊に・・・って魔法覚えられなかったからどうしよう?!
うう、こんなんで調査隊に参加できるのかなぁ・・




