41.魔法の才能 前編
「ダメだぁ、全然出ないよーー!」
「私もダメダメだよ~~」
私たちは冒険者ギルドの模擬演習場に来ていた。
ただいま魔法の練習中である。
結構長い時間頑張ってはいるけども、成果はというと・・・推して知る由である。
「うーん、おかしいですねぇ。手順はきちんと踏んでいるはずなので、魔力があれば発動できるはずなんですが」
「本当にその指南書の内容って合ってるんですか~?!」
「火種どころか煙すら出てこないね~」
「このままだと、先に私の頭から煙が出ちゃうよー!」
なぜこんなことになっているのかというと、話は少し遡る。
事のはじめは、洞窟の調査隊への参加を申し出た時のことである。
「洞窟の調査隊に参加したいだって?」
「はい、理由はちょっと説明しづらいんですが・・・」
「ふーん、訳ありってことかい。まぁ、二人なら問題無いと思うけどね」
「じゃあ、いいんですか!」
「まぁ待て、そう急くんじゃないよ。二人とも魔力があるんだろ?」
「ええまぁ。あるかもしれない、なんですけど」
「もし二人が魔法を使えるんなら、調査隊としてもこれ以上の人選は無いよ」
「でも、私たちは魔法を使えませんよ?」
「私も使えないよ~」
「そこでだ。二人には冒険者ギルドに行って、魔法を習得してもらいたい」
「冒険者ギルドってそんなこともやっているんですか?」
「まぁ、この町はあまり大きくないから種類も質も初心者向けのものしか無いと思うが、無いよりはいいだろう?」
「覚えに行ってる間に、調査終わっちゃったりしないですか?」
「それは大丈夫だ。討伐隊が来て周辺の安全が確認されるまでは町から出られない。どうせ他にすることも無いだろう?」
「うーん、それだったら・・」
確かに、これから旅を続けるにしても魔法が有るほうが何かと便利かもしれない。
それに、炎を出したり雷を落としたり出来たらカッコイイし!
時間もあるし、面白そうだからやってみよう!
「私、やってみます!」
「リアがやるなら、私もやる~!」
「いい返事だ。紹介状はアタシが書くから少し待ってな」
とまぁ、そんなことがあって今に至るんだけど、状況は一向に変わらない。
一応、発動用の補助器具である木の杖を使っている。杖というか、どう見てもただの棒切れなんだけどね。
イメージを思い浮かべて杖の先に集める・・・って言われたけども何にも起きない。
杖を掲げても振り回してもやっぱり何も起きない。
掛け声で気合を入れたらなんとかなるかなと、『ファイアー!』とか『燃えろ!』とか色んな言葉を試してみたけども何も変わらない。
「うーん、だとすると適性が違う可能性もあるので他も試してみましょうか」
「はい、お願いします!」
火の魔法に次いで、水・風と順番に試すが、どちらも不発に終わった。
氷や雷の魔法は無いかと聞いてみると、それらは中位以上の魔法だからここでは教えられないと返された。
あと、火の魔法という言い方は間違っていて、正しくは温度変化の魔法らしい。
氷の魔法は、水の魔法で出した水を温度変化の魔法で負の方向、つまり温度を下げるという複合魔法らしい。
雷の魔法は、風の上位魔法という扱いでここには指南書が無いらしい。
「他の指南書って無いんですか?」
「すみません、さっきの指南書で全部です」
「そ、そんなぁ~~!」
「あらら~、打ち止めだね~」
終わった・・・カッコよく魔法を使う私のイメージがぁ~~~!
いやいや、このままだと調査隊に参加できないよ~~!
「そのー、私も魔法が使えるわけでは無いので、精霊がいると言われてもしっくりこないんですよねー。せめて隠居したっていう魔法使いのおじいさんでも居ればよかったんですけど」
「この町にも魔法使いっていたんですか?」
「ええ、数年前まではいたらしいですよ。でも最近は魔法を使える初心者もいなくて、本人も結構な高齢だから隠居したって聞いてますけど」
隠居した魔法使いのおじいさん、か。
精霊のことも見えそうだし、他の魔法のことも知っているかもしれない。
冒険者の中にも魔法使いは居なかったし、他に町の中で魔法が使えそうな人は知らないから、ダメ元で会ってみようかな。
「あのー、そのおじいさんに会ってみたいんですけど」
「えーと・・・本当に会うんですか?」
「何か問題でもあるんですか?」
「教えることはできますよ。ただ、巷では人嫌いでかなり偏屈なおじいさんって有名で、家に誰も近づこうとしないんですよ」
うーん、性格に難ありかぁ。
でも、他に当ても無いし会うだけあってみないと何とも言えないなぁ。
よし、決めた!
「それでも会ってみようと思います」
「そうですか・・分かりました。場所をお教えしますね」
私たちは冒険者ギルドを出て、町の外れに居るという魔法使いのおじいさんの家に向かうことにした。
教えられた場所に着いたが、明らかに他の家とは違う何とも味のある家だった。
ぶっちゃけて言うと、掘っ立て小屋というやつだ。
「えーと・・・場所、間違ってないよね?」
「うーん、そのはずなんだけどね~」
「魔法使いって国に登録されていて優遇されているんだよね?」
「そのはずだけど、これはもう仙人かオバケさんが住んでいそうなお家だね~」
「オバケは嫌だなぁ」
「まぁ、さすがに町中にお化け屋敷は無いと思うんだけどね~」
「とにかく、入ってみるしかないよね。すみませーん!」
扉はあるものの、少しの衝撃で壊れてしまいそうだったのでノックはしなかった。
しかし返事が無い。もしかして聞こえていなかったのかな?
じゃあ今度はもう少し大きな声でいこう。
「すーーみーーまーーせーーん!!」
「やかましいわっ!!」
「ひゃぁっ?!」
急に扉が開いて、中からおじいさんが出てきた。
「んー、見ない顔だな。もしかして町の外の人間か?」
「はい、そうです。あなたが魔法使いのおじいさんですか?」
「魔法使い、か。あんたらギルドの使いか?だったら帰ってくれ」
おじいさんは人の話も聞かずにドアを閉めようとする。
「あの!精霊について聞きたいことがあるんですけど!」
「精霊だと・・・?」
おじいさんの動きがピタリと止まる。
そのままこちらを睨むように見つめ、上から下へと舐めるように視線を流す。
「・・・立ち話は足腰にこたえる。中に入れ」
「じゃあ、教えてくれるんですか?!」
「勘違いはするな。ただの年寄りの気まぐれだ」
「はぁ・・」
これは聞いていた以上かもしれない。
それでも何か手掛かりになりそうなことがあるなら、尻込みしてはいられない。
私たちはおじいさんの後について家の中に入ることにした。