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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第3節
44/159

39.血の咆哮

「グワァァァァァァァァッ!!」

「きたっ!」


 開きかけた門の隙間から黒い塊が飛び出してくる。

 それは勢いよく柵を揺らし、罠の上に落ちる。

 同時に獣の叫び声は一瞬でうめき声に変わる。


「キャィィィィン!!」

「網!急いでっ!」

「ほいきたっ!」


 悶える魔獣に網を掛けて動きを止める。

 魔獣は尚も暴れるが、それが災いして余計に網が体に絡みつき動けなくなる。


「グルルルルルルルルッ!」

「やった、掛かった!」

「よし、全員かかれっ!!」

『うおぉぉぉぉぉーっ!!』


 手にした武器を持って、一斉に魔獣へと襲い掛かる。

 冒険者たちの雄叫びと魔獣の悲痛な叫び声が入り混じる。

 ほどなくして、魔獣は血を流したまま動かなくなった。

 町を脅かしていた魔獣が討伐された瞬間だった。


「魔獣、討取ったり!!」

『おーーーーーーーーーーっ!!』


 場にいる一同は歓喜の声を上げ、勝利を確信した。


「終わった・・・んだよね?」

「うん、終わったよ~」


 あれだけ町を騒がしていた魔獣なのに、こんなにあっさり終わったのか未だに信じられない。

 自分の目の前のことが、夢のように感じてしまう。

 

「夢・・・じゃないんだよね?」

「そうだよ~。なんなら(つね)ってみる~?」


 夢ではない。そう、これは現実なんだ。

 たまたま作戦がうまくいって、一番いい終わり方をしただけなんだ。

 なのに何で私は震えているんだろうか。

 その疑問の答えはすぐに理解した。

 門の向こうから、もう一匹の魔獣がこちらを見ている。

 そう、魔獣は()()()()ではなかった。


「みんな!!逃げてーーーーーっ!!!」

「んあ?」

「グワァァァーーーッ!!」


 魔獣の声が聞こえると同時に、門の一番近くにいた冒険者の体が私の横を飛んでいった。

 場が一瞬静寂に包まれる。そして歓喜の声が一転、悲鳴と恐怖の声に変わる。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!」

「二匹目なんて聞いて無いぞっ?!」

「こ、こっちにくるなぁっ!!」

「おいっ!みんな落ち着けっ!」


 ブレンダさんの呼び掛けも虚しく、場は混乱を極める。

 叫び声を上げて逃げ惑う人、茫然として立ち尽くす人、近寄るなと言わんばかりに闇雲に武器を振り回す人。

 もう誰にも収集の付けられる状態では無い。

 何とかしないと、何とかしないと、みんなが犠牲になっちゃう!

 そうだ、この小瓶を投げつければ何とかっ!


「え、えいっ!」


 魔獣に向かって小瓶を投げつける。

 しかし震えた手で投げた小瓶は魔獣の横を掠めただけだった。

 そして魔獣はこちらを、私を次の獲物と定めたようだ。

 動かなきゃ・・動かなきゃ終わっちゃう!!

 逃げようと背中を向けた私の後ろで、魔獣は大きく息を吸い込んだ。


「ワォォォォォォォォォン!!」


 叫び声が聞こえると同時に体が動かなくなり、そのまま転がってしまった。

 視線の先にはこちらに真っ直ぐと進んでくる魔獣の姿。


「おい、何してる!逃げろ嬢ちゃん!」

「り、リアっ!逃げてっ!」


 ダメ、体が動かない。逃げることも出来ない、抵抗することも出来ない。

 この絶望的な状況を打破する考えは浮かばない。

 仮に何かあったとしても体が動かないから何も出来ない。

 私が出来ることと言えば死を覚悟することくらいだ。


「キュイッ!!」


 私と魔獣の間に入る白い影。

 ・・・ユリ?

 魔獣の視線は私からユリへと移る。


「グルルルルルルル・・」

「ユリ!」


 魔獣は黒い体から生える白い牙をギラリと見せつけながら、ゆっくりと速度を上げてゆく。

 このままだとユリはあの光景と同じになってしまう。


  ――マタ、タスケラレナイノ?


 ・・イヤ。

 涙で視界が歪んだ。


  ――マタ、アカクナッチャウヨ?


 イヤだ。

 さらに世界が歪む。

 

  ――アナタモ、アカクソマロウ?


 イヤだ、イヤイヤ、イヤーーーッ!!

 世界が涙で溢れて何も見えなくなった。


「いやぁーーーっ!!逃げてーーーっ!!」

「グワァァァーーーッ!!」


 ザシュッ!!



 次の瞬間、長い牙が体を貫いていた。


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