36.魔獣討伐作戦会議 後編
「ねえ、なんか町の様子が変じゃない?」
「うん、ちょっと静かすぎるね~」
ギルドは大通りに面していて、いつもは人が大勢いる。
しかし今は町の人どころか、冒険者の姿すら無い。
時間もお昼ちょっと前で、本来なら一番賑わっている時間のはずである。
昨日の今日で何かがあったのだとしたら、魔獣絡みであるのは間違いないだろう。
途中、通りの向こうに町の役人らしき人が見えた。
こちらに気付き、向こうから何か叫びながら走ってくる。
「おい!こんなとこで何やっている!」
「え?」
「え、ではない!現在、昨晩の魔獣の一件で町への出入りだけでなく、建物から外に出ないよう勧告が出されたんじゃ!」
「ええっ!そんなことになっているんですかっ?!」
「何じゃ知らなかったのかい。ワシはまだ残っている人がいないか見回っているから急いでいるんじゃ。嬢ちゃんたちもさっさと建物へ退避してくれよ!」
そう言い残すと通りの向こうに走って行ってしまった。
どうやら、私たちが思っている以上に深刻な状況らしい。
「これ、ちょっと急いだほうがいいね」
「うん、急いで行こう」
私たちは冒険者ギルドに向かって走り出した。
通りに並んでいる建物の扉や窓は厳重に閉められ、人の気配を感じさせない。
賑わいが無いだけでこんなにも町の印象が変わってしまうものなのだろうか。
結局、冒険者ギルドに着くまで誰ともすれ違わなかった。
ギルドに到着して扉を開くと、中には行き場が無いほどの冒険者で溢れかえっていた。
「お、薬草の嬢ちゃんじゃないか」
「もしかして逃げ遅れたのか?」
何人かの冒険者に話しかけられる。
どうやら昨日の朝に薬草を売りに来てくれた人たちみたいだ。
向こうにギルさんの姿も見える。ちょっと声を掛けておこう。
「ギルさーん!」
「ん?なんだ、薬草の嬢ちゃんじゃないか。もしかして俺に会いに来てくれたのかい?」
「いえ、そういう訳では無いんですけど」
「なんだ、違うのかい」
「実は・・・」
ギルさんにギルドに来た経緯を簡単に説明する。
「ふむ、魔獣の弱点か」
「何か知りませんか?」
「魔獣は大抵、炎が苦手な奴が多いな。詳しく知りたいなら、カウンターにいるギルド職員に聞く方がいいだろう」
「ありがとうございます。ちょっと聞いてきます」
カウンターにいる職員に事情を説明すると、緊急事態中というで特別に情報を開示してくれた。
もちろん、モンスターの情報のみという条件付きだったけど。
ページの中でヒントになりそうな情報を洗い出してみた。
ベースになっている獣は狼、弱点は獣系の基本である火と斬撃。
ただし、返り血を多く浴びているものは皮膚が強化されて斬撃や刺突武器が通りにくくなっていることがあるので注意。動きが素早いので接近戦は極力避け、遠くから火の魔法で攻撃するのが良い。
狼系の魔獣は鼻が良く利くため、野宿の際は夜襲などに気を付けること。
と、こんなところだろうか。
「火の魔法か。私たちは使えないから冒険者頼みかぁ」
「うーん、でも魔法が得意そうな人はいなさそうだね~」
改めてギルドに集まっている冒険者を見ると、剣や棍棒、斧といった前衛職の武器しか見当たらない。まあ、そんなに都合のいい話があったらこんな事態にはなってないか。
「皮膚が固いっていうのもちょっと厳しいなぁ」
「みんなで戦うにしても、武器が通らないなら危ないだけだね~」
「うん、火矢で攻撃したり吹矢の毒で動きを鈍くするのも無理かも」
「ここまで来たけど、収穫無かったね~」
倒せなくても、せめて町から遠ざけられればいいのに。
このままここで避難していたいけど、ブレンダさんたちを待たせているから一度商人ギルドに帰ろう。
「ミラ、私たちもギルドに戻ろうか」
「うーん、何か引っ掛かっているんだよね~」
「何が?」
「喉のここくらいまで出てるんだけど、出てこないんだよー。思い出したら言うから気にしないで~」
「そう、なら急いで戻ろう」
再び来た道を帰るが、今度は誰とも会わなかった。
ウォォォォーン!!
昨日より音が近い。もしかして、もう町のそばまで来ている?!
私たちは全速力でギルドに向かった。
「ぜぇぜぇ・・」
「ただいま~」
「おかえり。さっき近くで鳴き声が聞こえたから心配していたんだ」
「とりあえず、上の部屋に移動しましょう」
全速力で走ってきたので、階段を上るのは辛いがそんなことは言っていられない。
部屋に移動し、出発前と同じようにテーブルを4人で囲む。
「聞かなくてもなんとなく結果は分かるんだが、一応聞いておこう」
「はい」
冒険者ギルドで調べたことをそのまま二人に説明する。
思っていた通りだったらしく、帰ってきた返事は『そうか』の一言だけだった。
結局、会議は振り出しに戻っただけだった。
せめて私かミラが魔法でドッカーン!って出来れば良かったのに。
とは言っても、私たちはただの村娘だからそんな都合のいい話なんて無いかー。
「ちょっと温かい物でも入れてきますね」
そう言ってエリスさんは部屋から出て行ってしまった。
残された私たちには出来ることが無い。
隣でミラがうんうん唸っているくらいだろうか。
暫くしてエリスさんが戻ってきた。
この香り、あの薬草蜂蜜茶だ!
こんな時に不謹慎かもしれないけど、一日に2度もアレを飲めるなんて嬉しい!
エリスさんが座ったのを確認してからみんなでお茶をいただく。
うーん、何度飲んでも美味しいなぁ~。
「あ」
「ミラ、どうかしたの?」
「今、びびびびびーピーン!ってきたよ~!」
「びび・・何だそれは?」
「もしかして、さっき思い出せなかったこと?」
「うん、アレだよアレ!領主様の屋敷にいた時のアレ!」
「アレ・・・って何だっけ?」
「薬草煮詰めたらすごい臭いしていたアレだよ~」
「あ、ポーション作ろうとしてた時のことか!」
「そう!鼻が利く相手なら、アレの効果は抜群じゃないかな~って」
「そんなにアレはすごいのか?」
「それはモチのロン!アレの威力は体験済みだよ~」
「すごいですね、アレ」
「よし、早速アレの作り方を教えてくれ」
「ちょっとー!みんなでアレアレ言わないでよー!」
「あはははは~」
何だか会議と言うよりも、私の黒歴史をみんなで笑う会みたいになってるんだけどっ?!
でも、まさかあの時の失敗作がこんな形で使われようとは思いもしなかった。
世の中どこで何があるかなんて分からないものだねー。
ともあれ、これで魔獣対策は決まった。
あとは準備して迎え撃つだけっ!




